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井上真理:オンライン面談から一歩進む

自宅で17時10分前にテレビのセッティングを始める‥‥のだけど、その途中に赤荻さんから電話がかかる。


「はい、もしもし、井上です」

『井上さん、本日は都合がありまして、面談が10分遅れます』

「分かりました」


電話を切ると「‥‥はぁ」とため息をつく。あーあ、焦らすなあ。学校にいる間はできるだけ考えないよう頑張っていたけど、やっぱりこの時間が楽しみだ。昨日までは午前とか午後の早いうちだったので、それを越えて夕方まで待たされるというのがつらかった。‥‥部活も休んでいるし、これから毎日というのは難しいのかなあ。部活のこともこれから赤荻さんに相談してみるとして。

10分が100分に感じられそうになってダメなので、腕を伸ばしてわざと口を大きく開いてあくびをしてみるけど‥‥違うなあ。なんだか違うなあ。

テレビに向かい合うソファーにできる限りゆっくり座ってみる。‥‥うん、尻がソファーに触れるね。‥‥うん。大して時間はのびてない。


「はぁ‥‥」


仕方ないから時計の秒針を眺めていよう。‥‥なんてやっていると本当に5分前になったので、私はテレビに接続したスマホをいじり始める。


   ◇


『様々な部活があるのですね。真理さまの部活はどれですか?』

「写真部です」

『何をする部活ですか?』

「いろんなところへ行って、あれこれ見回って、きれいな風景を写真に撮ります」

『写真とは何ですか?』

「それはね‥眼の前に見えているものをそのまま絵にしてる感じですね。説明難しいなあ‥‥」


お互いのスマホはオンライン通話のために使っているし、カメラを使うならいったん通話切らなければいけないし‥‥と思っていると、私、アリシア、赤荻さん、記録係りのほかに、1週間前からオンライン通話に加わっていた官邸の女性職員が「私が実際の写真を見せますね」と言って、そばにあったらしい本を取って、ばらばらめぐって、画面に乗せる。


『これは本の一部ですが、右上の‥ここにあるのは実際の風景のように見えて、実は紙の上に描かれている絵なんです。これを簡単に作れるのが写真で‥‥』


その説明が終わったあと、アリシアはすぐ私の顔を見る。


「楽しいですか?」

『はい、楽しいです!』


なんだって、美しい景色が見れるし。暇つぶしにもなるし。写真撮り終わったあとの整理だとか、よく見せる工夫をだとか、部内で意見を言い合うのは面倒だけど、自分で体を動かして美しい景色を撮るのは楽しい。‥‥みたいなことを説明すると、乗り気になってくれる。

でもアリシアは、私と一緒に写真を撮りたいなどとは言わない。以前はそういうことを言っていたけれど、赤荻さんがほどよく誘導しているうちにおとなしくなっていた。代わりに目で合図してくる。そういうことを本当は思っていますよ、というサインだった。私もにっこり笑って返す。


アリシアも異世界の人だし、やっぱり創作物のように政府から監視されたりしているのかなあ。まあ現実的に、うちの政府に限ってそこまで監視するわけないけれど、隔離病室にずっといるのは不安だと思う。初めて来た世界でいきなり隔離だもんなあ。


『部活は月に一回ですか?』

「いいえ、毎週2,3回です。でも行きたい人だけが行くみたいなゆるい感じです」

『何時ころに終わりますか?』

「部活のある日は18時くらいです」

『‥‥部活が終わったあとはどうするのですか?』

「家に帰ります」

『そのあとは?』

「うちはお母さんとお父さんが共働きなんですがお母さんの方は18時すぎに帰っているので、そしたらご飯を食べて、話したりテレビを見たりして、21時からは部屋で寝るまで1人で勉強したりしてます」

『ふふ、勉強熱心ですね。朝は何時に起きるのですか?』


やけに詳しく質問してくる。まるで日本人の日常生活を追いかけているような質問だったけど‥‥私のことを知ってもらうって、嬉しい。不思議とそう思えてしまう。


   ◇


『はい、本日の面談は以上になりますが‥‥一点相談です。あさって木曜日の午前、対面での面談をお願いすることは可能でしょうか。井上さんに新宿の病院までお越しいただいて、医療上の制約からガラス越しにはなりますが、直接お話いただければと思います』


赤荻さんが思いかけない提案をしてくる。ガラス越しってことは手を握ったりはできないけど‥‥それでも、本物が目の前にいるって嬉しい。


「はいっ、ぜひ‥‥と言いたいのですが、学校があります。休日にできないでしょうか」

『平日の範囲での実施となりますので、可能な限りご調整いただけますと助かります。学校には私から説明いたします』


ええ、機密とはいえ正直言って遊びの部類だと思うんだけど、そのために政府から学校に連絡するなんて。なんだかそこまで大きな話になっていることに恥ずかしさとか、ちょっとした違和感を覚える。‥‥でもまたとない機会だ。


「ぜひお願いします!」

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