井上真理:私服警官
私――井上真理は、あらかじめセジーおじさんから‥‥あ、仕事モードだから赤荻さんね、赤荻さんから連絡をもらって、今日の面談は17時にやることになった。というのも、自宅待機が終わったから。
「まりまり~~~待ってたよぉぉぉぉおおおお!!!!!!」
家を出るなり、後ろからぎゅーっと抱きつかれる。痛い痛い。苦しい苦しい。
「萌仁花、おはよう、ひさしぶり!」
「まりまりがいなくて、もにか寂しかったよぉ‥‥」
目をうるませている。まったく、萌仁花はこういう顔を安易にする。そのほっぺたをぷにっと引っ張る。
「夢じゃないっ、もにか、まりまりと一緒にいるぅ!」
「はいはい、一緒に行こうね」
「うっぴょい!」
「何そのあいさつ。‥‥でも、萌仁花がうちの前にいるって珍しいね。そんなに寂しかったんだ」
確か萌仁花の家は私よりも学校に近いし、わざわざここまで来ることはないはずなんだけど。
「‥‥うんとね」
少し息を置いて‥‥歩き始めてから、萌仁花は説明する。
「さきさきと相談してね、まりまりを家の外で1人きりにしないことにしたの」
「それはまたどうして?」
「えっとね~、太ったおじさんたちがまりまりのこと狙ってるの~」
「え、なに、不審者!?」
「ちょっと違うよぉ~、さきさきに聞いてね」
萌仁花は語彙が少ないせいか、誤解されそうな言い方をすることもある。本人もわかっているみたいで、こういうときはちゃんと咲希に話を振る。
‥‥でも狙われているというのも、あながち誇張ではないかもしれない。いつもの道を歩いているだけなのに、なんとなく視線を感じる。壁にもたれている見慣れないおじさんが、スマホを操作しながらちらちら私を見ているような気がする‥‥。‥‥国家機密に首突っ込んじゃったもんね、そう思うとちょっと怖くなる。後で赤荻さんにも聞いてみよう。今は萌仁花がいる手前、あまり感情を表にできない。
「‥‥念のため聞くけど、あそこにいるおじさんは?」
「う~ん、声かけてこないなら大丈夫だと思う!」
「そういうものかな」
「さきさきにも聞いてみるね~」
ごめん、よく分からない。
◇
「真理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
押し倒された。ぱーんとぶつかって廊下に押し倒された。これくらい強烈なのは記憶にないかもしれない。あ、中学生の時、インフルエンザが治った時にあった気がする。
「咲希、おはよう、心配させてごめんね」
「ありがとう、とりあえずどいて、立てない」
「あああー、ごめんね! でもすごく心配してたんだから!」
「ありがとう」
毎日まめに連絡してくれたんだよね、2人とも。ありがとう。尻をぱんぱんと叩きながら立ち上がると、萌仁花が咲希に質問していた。
「ね~、変なおじさんがまりまりのことじろじろ見てたけど大丈夫?」
「あ、誤解ないように言うと、スマホをいじりながらちらちら私を見てる人がいて、他にも視線を感じたの。でも何もされてないから」
咲希は少し腕を組むと‥‥「スマホ向けてきたりしたの?」と尋ねる。
「それはなかったよ~」
「じゃあ全然問題ないと思う! むしろ安全!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥?」
咲希のその返答の意味が分からなかったけど、私が聞くよりも先に「それより!」とずいっと顔を近づけてくる。
「今日久しぶりにマックで盛り上がろ?」
「‥‥えっと、ごめんなさい、今日は早く帰らなければいけなくて」
「そっか‥当分?」
「それはまだ分からない」
「大丈夫だから。まきまきには、わたしと萌仁花がついてるから!」
「ありがとう!」
軽いトーンでそう言ったあと、ぽんと両肩を掴んでくる。
そのあとホームルームが始まった時、担任の先生には小林と一緒に名指しで「少しでも体調が悪いとか、いつもと違うと感じたら、すぐ保健室へ行ってね」と言われる。これは赤荻さんからもしつこく説明してもらっていた部分だった。正直、私の気持ちは何ともいえない。
「井上さんと小林さんは今日から復帰だけど、あまり質問しすぎないようにね」
先生の配慮だと思う。異世界人なんて一生に一度あるかないか‥‥1万年に一度かなあ。それくらいの出来事だからね。
◇
帰るときは咲希と萌仁花が一緒についてきてくれた。
「もう、小林のやつ、鼻の下垂らしてやんの」
「まあまあ咲希」
そうなのだ、今日の学校で私に群がってくる生徒たちは大体咲希と萌仁花が追い払ってくれたけど、小林はそうではなかった。自分のズボンを脱がして男のシンボルを握ってきた女を「‥‥かわいかった」「大人みたいだった」などと抜かすものだから、どんどん人が集まる。はぁ、ラノベみたいな恋の仕方をする男子ってひくわ。私たち女子と男子では強姦の定義が違うかもしれない。イケメン無罪ならぬ美人無罪ですかーって。‥‥あ、いけないいけない、宥める側の私がこんなこと考えちゃうなんて。
「‥‥ああいうのは1週間もすれば静かになるよ。2週間前の事件の話も、昨日までは誰もしてなかったでしょ」
「うん、確かに何日かで静かになっちゃった」
「小林が余計なことしなければ、そのうち静かになるんじゃない」
「よし、後で古田に連絡する」
「え、何もそこまでしなくても‥‥」
そんな私に咲希は「大丈夫だから。真理のためになるし」と鼻息を荒くする。‥‥今日の咲希、なんとなく違和感があるんだけど。まさかアリシアと会話してるのがばれた? ‥‥いや、それは考えすぎ‥‥でもなさそう。と、自宅待機の前半に電話で質問されていたことを思い出しながら考えていた。




