アリシア:会議
『皆様とはこれまで個別にお話しする機会がありましたが、改めてご挨拶いたします。日本政府で本件を担当しております、赤荻と申します。このたびはアリシアさんにご機会をいただきまして‥‥』
『殿下と呼べ!』
「ペトロナ!」
毎晩のわたくしたちの定例会議に、今夜だけ赤荻さまが参加することになりました。異世界人たちに周知してほしいことがあると言われたので、この会議を紹介してみました。どうせ盗聴されているのでしたら政府はもうこの会議を把握済ですよね。
そしてペトロナが相変わらずでしたので、わたくしは叱りつけます。確かに日本の制度上、公式な身分として取り扱うのは難しいと言われておりますが、それは先週の会議で伝えて理解してもらった話だったと思いますが。
『いえいえ、承知しました、ただ公的な場では肩書の扱いに制約がありますので、場面に応じて呼称を使い分けさせていただきますね。この会議の中ではアリシア殿下とお呼びしますね』
「‥ありがとうございます」
わたくしは構わないと言っていたので、この呼び方はペトロナに配慮したものでしょう。迷惑をかけてすみません。
『最初に、皆様にはご不便をおかけしています。ただ隔離入院については我が国の安全確保の観点から必要な措置であったことをご理解いただけますと幸いです。それから‥‥』
赤荻さまの手元にメモがあり、正確にというよりは慎重に読み上げているように見えました。
『エレナさんが警察に任意提出した杖については現在、返却を前向きに検討しております。ただし安全確保のため、利用ルールを設定させていただく方向で協議しております。あらかじめご承知おきください。また水晶玉について元の世界に帰るためのものとご説明いただきましたが‥‥』
「お話の途中にすみません、水晶玉の話は後でわたくしに個人的に教えていただけますか。日を改めてわたくしから周知いたします」
『承知いたしました』
荷物の中でも水晶玉は特にわたくしたちの命運を握るセンシティブなものです。使用条件をつけると言われると混乱してしまいますからね。ここに赤荻さまがいると、みなさんは確実に詰め寄ります。
『それでは次は学校への編入について説明いたします。アリシア殿下からご希望いただいていた宿河原高等学校への編入について、6月下旬‥‥今から1ヶ月後の編入を念頭に手続きが進んでおります。日本の高等学校は4月始まりの3年制となります。皆さんがご申告いただいた年齢は16歳から19歳までばらつきがございますが、ご本人のご希望や教育制度上の配慮などをふまえ、一律2年生として編入いただく方向で調整しております。つきましては1年生、2年生向けの教科書、および過去の入学試験問題をすでに手配しておりますので、あさってまでには病院でお渡しできるかと思います』
その説明でみなさんのテンションが上がります。久しぶりに外へ出られるということですからね。ずっと病院の中にいたので、外の世界がわからないのです。わたくしも真理さまから話は聞いておりましたが、実物を見たわけではありません。電車というものに乗ってみたいですし、ウィンドウショッピングというものも‥‥ああ、今は会議中でしたね。
『あの、赤荻さん、学校に男はいますか?』
ララが興味津々です。‥‥最初の転移の日に男がいたでしょう。
『男女共学です』
『男女の恋愛は禁止されていますか?』
『そのような校則は‥ルールはないと聞いております』
なぜその質問を目を輝かせながらするのか分かりませんが、楽しそうなのでよしにしましょう。‥‥赤荻さまは少しだけ失笑していました。
‥‥と、ペトロナがすっと手を挙げます。わたくしは少し警戒しましたが、このときのペトロナは至っておとなしかったです。
『‥‥赤荻とやら、学校で騎士の鍛錬はあるのか?』
『剣道部という部活が一番近いと思われますが、学校に軍人はいません』
『剣道部‥‥ふむ』
軍人はいないとのことなので剣道部もおそらくペトロナの思っているのとは違うでしょう。ですが今は指摘しないでおきます。
次に質問したのはマノラでした。
『部活って何?』
『あるものが好きな生徒たちが集まるものですね。日本には野球やサッカー、テニス、バレーボールなどという競技がありますが、それをおこなう部活がありますし、スポーツ以外にも吹奏楽部、茶道部、美術部など‥‥いろいろあります』
‥‥わたくし、その話は真理さまから教えてもらっています。後でわたくしからもみなさんに共有しましょうか。
『空は飛べる?』
青い髪が揺れるくらい手を挙げてそう質問したのはクロエでしたが‥‥赤荻さまは困ったように笑います。
『野外には劣りますが、体育館‥‥という比較的大きな空間はあります。ただし、飛行は安全面や運用面の確認が必要になりますので、現時点で実施を約束はできません。ご希望として承りますので、条件を整理したうえで改めてご相談させてください』
『‥‥部屋でごろごろするのも好きだが、空が飛べないと‥‥つらい。早く頼む』
『ご要望は理解しました。現時点では治療や安全管理の都合もございますので、あらためて関係者で条件を整理いたしますね』
最近クロエは口数が少ないと思っていましたが、この話をしている今は深刻そうな顔をしています。クロエは怠け者で、ずっと部屋でころごろして上司に叱られるのが普通なのですが、鳥人としての本能にはあらがえないようです。わたくしも鳥人の習性や本能を熟知しているわけではありませんが、配慮があることを願いましょう。




