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アリシア:紋章とMRI検査

日本に転移してから15日目になりました。この世界にも「週」という概念があるのですが、わたくしの世界と違って1週間は7日だそうです。そしてタブレットに内蔵されていたカレンダーによると1年は365日らしいですが、割り切れないから毎年曜日をずらしているのですね。

今日は「火」という曜日らしいです。地球にも月があるのですね。日はいいとして、そのあとの火、水、木、金、土はどういう意味でしょうね。(※補足:曜日は惑星の名前に由来するが、惑星名自体は中国の五行思想に由来する)


さて、わたくし――アリシアはようやく、隔離病室から出ることができました。廊下に出るのは2週間ぶりです。ペトロナはもうちょっとだけ短かったかもしれませんが。隔離病室の中にはシャワーやトイレがあり、しかもいろいろな検査も病室の中で全部やっていました。注射なんかは、そばにモニカがいたら絶対日本人に何かを言ってそうな気がしました。

ああ、毒見の話を忘れておりました。王女として毒見無しで食事することはめったにありませんでしたから、日本政府として毒無しを保証すると言われても正直困りました。精度はかなり落ちますが代替となる魔法がありましたので使っていましたら2日目に赤荻さまから説明を求められ、そのあとは食事の時以外に使わないことを条件に配慮していただきました。‥‥そうですね、魔法で検出できないほどの毒って魔力を込めて作ったものばかりなので、日本ではこの魔法でも十分かもしれません。


久しぶりに歩く廊下は‥‥窓がありませんからそこまで感動しませんでした。ドアに挟まれた狭い道です。天井も低いです。一部の獣人は絶対頭が引っかかりますし、この道幅ですと壁に引っかかるかもしれません。遠い将来、王国と日本の間の往来が始まった場合はこれも課題になるでしょう。


レントゲンという医療機器はこれまで持ち運びのできるものを使っておりましたが据え置きのほうが精度がいいらしく、その検査をしたあとはMRIというものを使うそうですが‥‥わあ、ベッドにしては硬くてものものしいですね。

そして、わたくしに付きそう病院のスタッフは相変わらず全身を覆う衣装をしています。PPE(個人防護具)という名前があるらしいです。


「金属というものは分かりますか?」

「はい、鉄や銅ですね」

「そうです、それを体の中に埋め込んだりはしていませんか?」

「いいえ」

「ちなみに、それ以外に体に埋め込んでいるものは?」

「ええと、答えなければいけませんか?」

「できれば」

「‥‥魔法で紋章を埋め込んでいます。王家の身元確認をするときに必要です」

「‥‥体の中の特定の部位にありますか?」

「舌か目に魔力を通せば浮き出ます」


スタッフは少し止まってから‥‥その場で「待ってね」と言って、壁にかかった電話を使って誰かと話したあと‥‥「MRIではなく他の検査に切り替えましょう」と告げます。多分これも後で赤荻さまに詳しく聞かれるでしょう。ですが極力誠意を持って対応するようマノラにも言われておりますので、特に抵抗はしません。‥‥紋章は王族としてあまり人に゙軽々しく見せるものではないのですよね、元の世界なら。


というわけで超音波検査やCTに変わりました。CTの機器はMRIよりちょっと小さいですね。仰々しさは変わりませんが。


「これから他のメンバーの検査もするのですが、体に魔法由来の何かを埋め込んでいる人に゙心当たりはありますか?」

「ええと‥‥モニカは平民の城勤めなので、隷従の紋章を埋め込まれていると思います。王族の害になる行動ができなくなります」

「‥‥分かりました、モニカさんもMRI検査は見送りましょう」


病院関係者は、最初の紋章の時よりもひいて、一歩後ろに足をずらしているようでした。顔はほとんど見えません。

‥‥魔法のない日本において、魔力のこもったものが原因でMRI検査を中止されるとは全く思っていなかったので、正直戸惑っています。日本の科学ってそこまで繊細で取り扱いが難しいのでしょうか。


   ◇


ええと、この日本では、偉い人に仕える平民に拘束具をつける習慣はないのかもしれません。オンライン面談で、赤荻さまとの意識のズレをなんとなく感じ取ります。


「‥ですから、本気で王家の害になる行動をしなければ発動しません。例えば紋章が発動するか確認する目的でわたくしに刃物を向けても発動しません」

『‥‥例えば無断で王城にある機密情報や武器を持ち出した場合は?』

「機密情報には特殊なマーカーがついており厳格に管理されていますが、武器の場合は発動しないこともあります。詳細はわが王国でも機密情報であり、教えることはできません」

『何も持たず逃亡した場合は?』

「逃亡自体は問題ありませんが、他人に王家の害になる情報を教えた時点で発動します。ですがそのような情報を持っている使用人は数えるほどで、モニカも多分持っていないと思います」

『王族が自身を犠牲にして使用人を助けようとした場合は?』

「王族の明確な同意があれば発動しません。過去に自殺を手伝わせた王族がいました」

『例えば毒見をさぼった場合は?』

「そこまで細かい条件は不明ですが、不審な点に気づきながら意図的に見過ごし王族を危険に至らしめようとした時点で発動すると聞いています」


他の人が検査している間、わたくしは延々と会話しておりました。いつもミーティングで話している話題はあったのですが、今回は前回の話の続きになることもなく、ただモニカの質問ばかりされています。完全隔離が緩和されたせいでしょうか、いつもより時間が長かったです。発動したらどうなるかのほか、発動条件を細かく詰められています。わたくしもそこまで知っているわけではないので、説明しているというよりは、理解度を試されているような気すらします。


『‥‥おおむね理解しました、解除が一生不可能である点も、現時点でのご説明として受け止めます。詳細は持ち帰って検討させてください。‥‥そろそろ井上さんとの面談のお時間ですね。連続になりますので本日は10分あけましょう。井上さんにはこちらから連絡しておきます』

「お手数おかけします。よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げて通話を終了し‥‥「はぁ」とため息をつきます。

モニカは部屋に戻っているでしょうか‥‥。念のため念話を流しておきます。


「モニカ、取り急ぎです。申し訳ありません。隷従の紋章について話したら赤荻さまに細かい説明を求められました。おそらくモニカのほうにも連絡が行くと思います」

『あたしも先程スタッフから聞かれたところです。詳しいことは分かりませんが、殿下が答えていなければ、あたしがどこかで答えてたと思います。あまり気にしないでくださいね』

「‥ありがとう、モニカ」


タブレットは本体がないと会話できませんが、念話は魔力さえあれば持ち物は不要なので、相手がタブレットを持っていない可能性があるときも便利ですね。思いつきで気軽に使えます。あと、この程度の内容であれば声を結界で隠したりしないです。堂々と話します。

‥‥それにしても、つくつくこの日本の常識が分かりません。わたくしたちをここに閉じ込めたかと思えば、1人でも命の危機が少しでもあると慌て出して‥‥おおかた魔法や日本の安全保障に結びつくと思いますが、紋章を付けられるのは王城だけということを分かってくれれば大丈夫でしょうか‥‥。ああ、多分、魔法で人を害することそのものを危惧しているのでしょう。マノラは日本の官僚の思考や心理状態を懸命に考えてくださっているので、後で意見をもらいましょう。


今はそんなことより真理さまと面談です。‥‥ふふ。真理さまの声が聞ければ、大変なことも忘れてしまうのですよね。

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