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異世界の王女と婚約した私を、日本政府が離してくれない  作者: KMY
第2節 いきなりの隔離病室
11/25

赤荻誠二:政府の窓口役

小職――赤荻誠二は頭を抱えている。

いまの小職の心情を説明しよう。端的に説明すると『勘弁してほしい』。詳しく説明すると『勘弁してほしい』。小学生向けに説明すると『勘弁してほしい』。中学生向けに説明すると『勘弁してほしい』。高校生向けに説明すると『勘弁してほしい』。


今日どれだけ会議があったと思ってるんだよ。異世界人が病院でトラブルを起こしたらしい。魔法なるものも実際に使ってしまったらしい。念話魔法と爆発魔法ね。いくら異世界人とはいえプライバシーとかあるから映像と音声記録は一部のみしか残っていない。医療関係者の証言だけがたのみ。これは分かるね。うん。あー胃薬点滴してほしい。ずっと飲み続けるわけにもいかないから点滴してほしい。

それで、異世界人が魔法を使ったらどうなるかわかる? 研究? いやいや、研究も大切だけどさ、政府はまず安全保障のほうに目が行くの。端的に言えば、わが国民を魔法から守ることができるか。影響範囲の調査、威力、発動条件、危険度、再現性。現代日本の科学技術の範囲内で対抗手段が存在するか。爆発もそうだけど念話魔法も危険だよ。詳細不明だけど使いようによっては国家機密の漏洩にもつながりかねないからさ。結局、未知の技術全部が危険。というわけで、一応人道に配慮してたけどこれからは異世界人の一挙一動を全部記録する方向になりそうなんだよね。


だからね、異世界人が魔法1つ使っただけで緊急関係省庁連絡がおこなわれるわけ。ね、わかる。魔法の使用ってさ、どんなに自称安全な魔法であっても、異世界人が思ってるより相当深刻な事態なんだよ。政府にとってはね。

さすがに小職が補佐している参事官も魔法1つでいちいち会議を開くのはきりがないと悟ったのか、異世界人から聞き取りを行って使える魔法の一覧表みたいなのを作れって言いやがったんだよ。まったく、丑の刻参りって外注できたっけ?


小職は病院に電話をかける。


『はい、国際感染症センターでございます』

「内閣官房の赤荻です。例の政府案件で、アリシアさんとの面会を調整することは可能ですか? 2時間、いえ1時間でも構いませんから」

『‥‥申し訳ないですが、現在は完全隔離中で、直接の面会は難しいです。早くて2週間後ですね』

「そうですか‥‥」


電話を切り終わってしばらく経つと、折り返し電話が来た。


『異世界人には近いうちタブレットを頒布する予定ですので、オンラインなら調整可能です』

「ぜひ、ぜひ、ぜひお願いします! 大変助かります!」


願ってもない。周りがぎょっとする程度に、前のめりで机をたたきながら電話に応答した。


   ◇


『はい、音声聞こえております。デュトロン王国の第一王女、アリシアでございます』


画面越しではあるものの、けっこうな美人だと思った。金髪の少女だが、礼儀正しく座って、体を退屈そうに揺らすこともなく、ただ微笑んでこちらを見ている。小職がもう少し若ければ惚れたかもしれない。あ、妻には内緒ね。


「内閣官房の赤荻です。副長官補室で危機管理を担当しています。まだきちんとしたことは決まっていませんが、これからアリシアさんと政府でお互い連絡を取る時に私が窓口になります。長い付き合いになると思いますのでよろしくお願いします」

『こちらこそよろしくお願いします』


丁寧に頭を下げてきた。日本人なんかよりも遥かに礼儀が正しい。王族ってそういう教育は厳しいのかな。

異世界人はトイレの使い方すら分からなかったと病院から報告を受けているが、タブレットに自然に向かい合っているあたり、すでにタブレットを使って相当回数異世界人同士で会話したのだろうか。


さて、小職が7人の中で面談相手としてアリシアを選んだのは理由がある。他の6人がアリシアを殿下と呼び、そして今朝あったペトロナの起こした爆発騒ぎの時も、アリシアの一声でペトロナは行為をやめた。6人の心のケアにもアリシアが深く関わっている。自称王女であるだけでなく、名実ともに立派なリーダーでもある。異世界人をコントロールするためには、まずアリシアの懐柔‥‥ではなく信頼関係を作るのが重要だということはすぐわかる。


「まずは不自由を強いていて申し訳ありません。病院からも説明があったと思いますが、政府として皆さんを閉じ込める意向はないです。とはいえ検査のことは病院が主導していますので、詳しいことは病院から聞いて下さいね。政府としまして、みなさんが退院したあと日本で暮らすのなら歓迎します。そのときはたくさん世界のことを教えてくださいね」

『はい、楽しみにしております』

「それではさっそく本題に入りますね。魔法について詳しくお尋ねできますか?」

『わたくしからも基本的なことはお話しできますが、エレナのほうが専門知識も豊富です』

「なるほど‥そうですか、エレナさんにも後で面談を設定しますね。ただ、今すぐ聞きたい重要なことも多いので、アリシアさんに分かる範囲で答えていただきたいのです」

『はい』

「まず、魔法の安全性についてですが‥‥」


当人たちの希望を聞くのも大切だが、日本政府にとって安全保障は全てに優先する。優先する。言っておくが優先されることなのだ。言い方は悪いけど、この異世界人たちが万が一こちらに敵意を持った場合、政府は国民をどこまで守れるか知りたいってわけ。

でもずっと安全保障の話ばかりするわけにはいかないから、適度に話を区切って情報を小出ししてもらうのがかえって効率いいんじゃないかと思う。というか魔法の話は今後、エレナに聞いたほうが良さそうだ。

今日は重要なことだけまず聞いて、そのあと‥‥


『わたくしたちが最初に転移したあの部屋はなんというのですか?』

「ああ‥‥教室のことですか。アリシアさんたちが現れたのは、学校という施設です。そちらの世界にもありますかな?」

『学校だったのですね。わたくしの世界でも、平民向けの教育機関としての学校は存在します』


なるほど、平民という単語が出た。異世界には身分制が存在する可能性がある。ささっとメモに記す。

たいていのラノベでは中世ヨーロッパの世界を舞台にしており身分制もあるが、それらは物語、これは現実だ。先入観は全て排除し、相手から聞き取ったことだけをもとに考えなければいけない。とはいえ今のところ中世ヨーロッパっぽい雰囲気しかしないのだが。


『単刀直入にお聞きします。わたくしたちが転移した学校に、生徒として編入させてもらうことは可能ですか?』


うん。アリシアのこの一言でどれだけ問題が起きるか分かってる? わかってないなら小職が簡単に解説しちゃうよ。まず、この人たちは日本国籍を持っていない。入管法に基づく特定活動在留資格をあげればいいんだけどね、これどれだけ手続き面倒かわかってる? しかも未成年でしょ。いや正確な年齢は分からないけど、医学的な推定は可能だし、やっぱり未成年だって報告されてるの。学校に入るなら保護者が必要なの。この場合、児童相談所による一時保護ののち、家庭裁判所が未成年後見人というのを選ばないといけないの。まあ後見人は政府の用意した弁護士で安定だけど。

あと、学校に通うってことは一般市民に異世界人を露出するってことなの。有名人の講演とは話が違うんだよ。一般市民とめちゃくちゃ距離近いの。SNSに簡単に情報が流れるし、異世界人が意図せぬ接触をする可能性もあって監視が大変になる。しかも獣人・鳥人いるでしょ。絶対盗撮写真出回るよ。

それから学校も名指しでしょ。こっちにとって都合のいい学校ってのは警備がしやすくて、というか既存の警備計画があって、もしもの時に対応できるとこ。例えば学習院大学附属高校あたりだと少し楽になる。なんだけど、普通の学校だよね。普通のところででどこまでできるか検討しなければいけない。あれでしょ、日本の皇族がいつもとは別の高校や大学に通いたいって言い出したときも大変だったんだから。

他にも問題はいくらでもあるんだけど。はぁ、考えるだけで鬱になる。学校を担当するのは文科省なんだけど、文科省だけの騒ぎですまないことは分かるよね。その一言で小職の仕事は2倍になるんだよ。それ以外全部の仕事と同じくらいの分量があるって意味。いけない、笑顔笑顔。


「ええ、政府としてアリシアさんたちのご希望は最大限尊重したいです。制度面や安全面を含めて整理が必要になりますので、政府内で検討の上、改めて説明しますね」


という無難な返事で切り抜けてみる。


   ◇


はぁ、今日は大変なことばかりだ。異世界人も余計なこと言うしやるし。だがそれもこの書類で終わり。これさえ終われば今日の分は終わり。あとは電車で帰れるというわけだ。さて仕事仕事‥‥

と、そんなとき、私用携帯のほうに電話がかかってくる。あれかな。小職はもう仕事が終わったと勘違いした真理ちゃんかな。残念でした、あの異世界人たちのせいで連日残業です。‥‥はぁ、素人にはわからんし黙っとこう黙っとこう。


『真理です。セジーおじさん、仕事お疲れ様です』

「いやあ、ありがとう、おじさんまだ残ってるけどすぐ終わるよ。で、どうしたの?」

『ごめんね、あのね‥‥おじさん官邸で働いてるんでしょ。私、異世界の人の、ええと、アリシアさんって人と話したいんだけど、誰に連絡すればいいか分かる? お父さんに聞いたけど、よく分からないって』


‥‥うん、真理ちゃん、確かアリシアとちょっと話したのが原因で2週間自宅待機だっけ。うんうん。その時の子と話したいのね。いいね。よくねえよ。この面会の調整だけでどれだけ時間がかかるのか‥‥まあ、アリシアたちの入学と比べると楽なのは確かだけどさ。これ以上仕事増やさないでくれよ、まじで。


「‥‥お父さんでいいよ。お父さんが校長に相談すれば、教育委員会、文科省を通してこっちに連絡来るから。ああ、教育委員会には政府案件って言えば通じるから、そうお父さんに言っといて」


‥‥何でめいが小職の仕事増やすんだよ。とほほ。

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