16.内省
内省する。
気づいたら僕は、タブレットを生成AIモードで検索していた。僕のGeminiは賢い。
内省とは、自分の考えや行動、心の状態を深く振り返り、客観的に見つめ直すこと。単なる「反省(失敗の悔恨)」とは異なり、成功・失敗問わず、経験から気付きを得て自己成長につなげる、ポジティブな意味合いが強い。
国語辞典的意味・解説
読み方: ないせい
意味: 自分の考えや言動などを深くかえりみること。
英語: Introspection, Reflection
1. 「内省」の用法例・文脈
内省する/内省を行う: 「日々の行動を内省する」「深く内省してみる」
内省的: 「内省的な人(物事を深く考える人)」「内省的な性格」
内省的な時間: 「週末は内省的な時間を持つ」
2. 「内省」の類義語・類語
反省: 自分の言動の誤りを省みること(より短期的、謝罪的)
内観: 自己の内面を深く見つめること(仏教的背景を持つ場合もある)
自己観察: 自分を客観的に観察すること
思慮深い/省察: 深く考えること
これを踏まえて、さて。
僕にはすきぴがいるだろうか?
恋バナとか、出来るだろうか?
本当はもう、答えなんて持ってるってわかっているのに、ミヤのあの明るさ、眩しさを前に、僕のキラキラピカピカしないそれを引っ張り出す気にはなれなかった。沈めて。深く深く、底のほうまで。
ミヤは、あの子に告白したりするだろうか?
今日の様子ならするだろうな。
じゃあ、あの子は?
すきだと言われて、うれしそうに笑うんだろうか。
2人で塾に行って勉強を頑張る約束をしたりするんだろうか。
同じ学校を目指す?
ミヤがあの子に勉強を教えてあげたりして、あの子の成績があがったりして。
想像がついてしまう。
嬉しそうなミヤの姿も、クラスのみんながお似合いだねっていうところも。
嫌だな。
その場にいる自分が全く想像がつかない。
恋とか、なんか、綺麗なもののように言うけど、
1席しかない代わりのないものを奪い合うものだ。
もしその座を譲ってもらってもずっと続くものかどうか分からないし、そもそも、その1席だってどうやって配布するのか、ルールなんてない無法地帯にみえる。早いものがちのようにもみえるけど、あとから主役がやってきてかっさらっていってしまいそうな気もする。そんな曖昧なものに一生懸命になるなんて馬鹿らしい。もっと、ちゃんと積み上げた努力が報われるようなものに力を注ぐべきだ。
何100回も自分の中で反芻して、もう自分の一部になっているその思考をめぐらせ、すきぴの話を振り切って、今日も僕は勉強に没頭するだけだ。
その日を境に、ミヤはすごく分かりやすくなった。あの子のいる近くになんとなくいるし、進度別の算数も合わせているように見える。あの子は、難易度でクラスを選ばない。1番日の当たる居心地がいい教室が充てがわれたクラスを選んでいる。だから、フォローアップクラスにいることもあれば、最難易度クラスにいることもある。公立の小学校のカリキュラム内での差だからそこまで大きな差はないけれど、一応は中学受験生のあの子がフォローアップクラスにいる必要なんて1ミリもない訳で。もちろん宗佑だって、そんなクラスを選ぼうなんて思ったことはない。それなのに、そのクラスにあの子だけでなく、ミヤがいる。察しのいい女子は、ひそひそとミヤの思惑に気づいた者同士の答え合わせをしているようだった。そうやって、献身的にミヤは近くにいる。あの子の反応を、みんなが否が応でも見ている。…どう思っているのか、見ても見ても分からなかった。あの子は、常に何かに熱中していて、周りのことなんて目に入っていないようだったから。
この頃になると、金管バンドも卒業演奏にむけて6年生の練習が追い込みになり、そろそろ僕たちが最上学年になる雰囲気ができてきた。卒業演奏には5年生以下は参加しない。僕たちは、来年の曲を決める相談をしていた。
それぞれ、希望の曲を持ち寄ることになった。
僕は、お父さんに相談してみた。お父さんは色々と調べて、チャイコフスキーのくるみ割り人形の中のロシアの踊り、トレパックの曲を教えてくれた。疾走感があって宗佑にもいいなと思える曲だった。きっとみんなも聴いたことがあるだろう。難しそうだけど楽しそうだからいいな。そう思って、希望の曲を書くフォームにその曲のYouTubeのURLリンクを貼った。推薦理由には、心が弾む感じがするから、と書いた。
曲は指揮の先生が候補をいくつか絞って投票することになっていた。先生が作った投票のリストに、トレパックは無かった。でも、みんなが持ち寄った曲のリストがついていた。それを見て、あの子がトレパックいいじゃん、と言ったのが聞こえ、僕は有頂天になった。あの子がトレパックを鼻歌で歌うのがかすかに届いてくる。不朽の名作、まさにだ。
候補は5曲あった。
聞くまでもない。
あの子だ。思う推薦理由に目がくぎ付けになった。
「僕らの番だから。」
人気の高い3人組バンドが青春を歌った名曲。
票があつまり、僕たち最後の1年の課題曲はこれに決まった。
何度も聴いたことがあった。お父さんの車の中で流れてくることもあった。耳触りの良いいい曲だなと好ましく思っていた。口ずさんだこともあっただろうか。でも、そんな風にメッセージを自分に受け止めた事が無かった。
改めて聴いた曲は胸にぐっと迫るものがあった。
投票したみんなもそうだったようだ。
いい曲!熱狂の渦の中であの子だけが冷静だった。
普段、あの子がみる世界はこんなに鮮烈なのだと知らされた気がした。
トレパックの弾むような感じ、それを数に表すと80くらいだとしたら、この熱は10,000とかそのくらいだと思った。
間違いない、どこにいたとしても、主役はあの子だ。
でも、そして。
主役は僕たちだ。
そう背中を押された気がした。
パーカッションもトランペットも…どのパートも果てしなく難しそうだった。でも、みんなの心にスイッチが入っているのを感じる。この曲を合奏するとき、先生の指揮棒が呼吸した瞬間に足元から震えが上がってくるような感覚がする。きっと、これが僕たちを主役にする熱だ。そう思った。
朝練があっても、中休みにも昼休みにもみんな音楽室に集まってくる。僕たちの青春が始まったのを感じた。




