15.結構好き
周りにうつしたりすることがないように、少し休養を挟むというのが尾島家の通例になっていた。金、土と休み、日曜の後に振替休みの月曜が過ぎて、みんなが学校に行った火曜日も、念のため、と宗佑は学校を休んでいた。
アラームをつけずに好きなだけ寝ようと思ったけれどいつもの習慣で目が覚めてしまい、珍しく朝家でのんびりと朝ごはんを食べて幼稚園に行く弟とお母さんを見送った。
暇になったので塾の宿題で1回目間違えたところを端から解き直して、まぁこんなものかな、と一息ついた。たぶん、暇すぎるのが良くないんだな。ということで、その日の塾には行くことにした。お母さんが、家でZOOMで受けたらいいじゃない、と言っていたが、宗佑は授業を受けたいのではなく、今日は塾への往復というタスクが欲しいのだ、と思っていた。
ミヤが入ってきてから、なんとなく同じ時間の電車に宗佑も乗るようになり、時々3人で通塾するようになっていた。帰りはそれぞれのタイミングだったり、ミヤが宗佑を待ち伏せて?いたり…約束するわけではなく、なんとなく離合集散する関係性だ。
その日、学校に宗佑がいなかったので、2人は宗佑が塾も休むと思っていたようだった。いつもはなんとなく、誰かくるかな?と周囲にアンテナを張ったようにホームで立っているのに、今日は2人で完結しているように見えて、宗佑は何故かふたり声をかけるのが憚られ、すこし2人からは見えないような位置に距離をとって立った。何を話してるのかはっきりは聞こえないけれど、宗佑の話をしているような気がした。余計に、2人に声をかけられなくなった。
そして、そのまま塾に着いた。いつの間にか2人を追い越していたようで、あとからミヤがクラスに入ってきた。
算数のあと、宗佑にとっては休憩時間、ミヤにとっては帰宅時間に、ミヤに声をかけられた。
「恋バナしよ」
「こいばな」
宗佑の人生にはなかった言葉で、もちろん知っていたが音声として聞くのも、口にするのも初めてだった。
「織田あかり、どう思う?」
ミヤは直球で言った。照れた様子もなく、なんだか大人に見えた。
「どうって」
すっかり、僕はミヤの言葉をオウム返しするだけの存在だった。
「かわいいし、明るいし、良くない?」
ミヤは、宗佑が1年かけても癒えなさそうな言葉を軽くポンポンと口にする。
「まあそうかも」
宗佑は、ミヤの勢いにつられて同意した。
「でしょ、分かるわぁ。結構好き。」
「そうなんだ。」
「森川と付き合ってないって言ってたよね?俺とかどうだろ」
どうだろって何…!
初めての恋バナがこんな感じで、宗佑はもうライフが残っていないような感じだった。宗佑が黙っていると、ミヤはしびれを切らしてもう1回同じことを言った。
「織田あかりと俺、ってどうだろって」
「わかんない…」
そう言うのが精一杯だった。何を求められているのか。似合うね、とか、付き合ったほうがいい、とか告白したらいい、とかそういうことを言えばいいのか?どれも、宗佑からは出てこない言葉だった。
「そうちゃんにはまだ早かったかぁ。そうちゃんそういうのないの?すきぴいない?」
「すきぴ」
話は盛り上がらなかった。ミヤは言いたいことだけ言って、満足したようだ。すきぴの話ってしたくなるよね、そう言われたけれど、全く同意できなかった。すきぴだとか、そもそもすきだとか違うとか。認められもしないし、口から出せる気すらしない。ミヤは、あの子本人にもそういう話をするんだろうか。あの子はどうするんだろう。想像したくもなかった。耳の奥になぜか今日だけ繋がっている心臓がうるさく響いて、どこもかしこも痛い気がした。




