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男性が少ない世界で執事っぽいVしてます  作者: そういう作品だったらいいなって
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079 王国を観光してみる件

 目の前に広がったのは、使い慣れたコックピットの計器類ではなく、見上げるほど巨大な鉄骨とダークグレーの装甲板がそびえ立つ、冷ややかなコンクリートの空間だった。


「……ん?あれ?」


 私は思わず首をかしげた。

視界の隅に映るログや周辺の景色を確認する。周囲を歩いているのは、黒を基調とした無機質な軍服や、重厚なダークトーンの鎧に身を包んだ兵士たち。遠くで行き交う人型兵器も、鋭利なスパイクや直線的な装甲を持った、いかにも悪役然とした重工業デザインの機体ばかりだ。


「ここって……たしか帝国側の拠点、だよね?」


 どうやら、フィン自身は帝国陣営らしく、最後にログアウトした場所の情報が帝国側の首都かその近郊になっていたらしい。

 帝国側は、どこか冷徹で工業的な雰囲気が漂っている。建物はすべて無機質な黒鉄とガラスで統一され、行き交うプレイヤーやNPCの軍人たちは皆、背筋をピンと伸ばして足音を響かせている。頭上には青黒い人工空気が広がり、遠くの星系を望む巨大な観測モニターが冷たく明滅する、徹底した軍国主義的でピリピリとした緊張感に包まれていた。


「見とれてちゃいけないね。まずはログイン直後にこれを……!」


 私は慌ててシステムメニューを呼び出し、あずささんが教えてくれた設定項目を探す。

 オプション画面の最下部。そこにはしっかりと『フィン様専用シークレットモード』のスイッチが存在していた。

 これさえ押せば、私の姿は一般プレイヤーから完全に消え去り、誰にも邪魔されずに王国内部を観光できるはずだ。


「よし、これをポチッと……」


 しかし、その指がボタンに触れるよりもわずかに早く、背後から足音が響いた。


「あれ?ねぇ、ちょっと待って……あそこにいるの、もしかして……」

「え?嘘、マジ……?待って、あそこにいるのって……」


 ギクリとして振り返ると、そこには帝国軍の制服に身を包んだプレイヤーのグループが立っていた。彼女たちは一様に目を丸くし、私――正確には、フィンの私を凝視している。


「フィン様だーーっ!!」

「本物だ!え、なんで帝国にいるの!?それとも極秘任務!?」

「待って、ちょっと待って、一緒にスクショ撮らせてくださいっ!」


「わ、わわっ!?」


 囲まれる! そう焦った瞬間、私の指がオプション画面の『シークレットモード』のスイッチを押し込んだ。


 ――次の瞬間。

私の姿は、まるで霧が晴れるようにふっと周囲の視界から消失した。


「……え?」

「え……?うそ、消えた……?」

「い、今、確かにそこにフィン様がいたよね!?」

「幻……幻影を見たのかな、私……。最近、連日のハイパーモードの特訓で寝不足だし、幻覚が見える重症かも……」

「うん、私も見えた気がしたけど、きっと気のせいだよ……おっかしいなあ……」


 私の目の前で、プレイヤーの女の子たちが首を傾げながらキョロキョロと辺りを見回している。

 私はその真ん中にぽつんと立ちながら、そっと冷や汗を拭う動作をした。もちろんアバターなので汗は流れないけれど。


「あぶな……!そういえば、オンラインモードに入る前のメニュー画面であらかじめシークレットモードを有効にしておかないと、ログインした瞬間に周りにバレちゃうんだった……。あはは、危うく質問攻めにあうところだったよ」


 私は苦笑いを浮かべながら、彼女たちの横をすり抜けてその場をそっと離れた。

 シークレットモードは完璧に機能しているらしく、一般プレイヤーからは私の足音すら一切聞こえていない。

 視界の端には「【ステルス稼働中】:プレイヤー認識阻害率100%」という小さなインジケーターが優しく光っている。


 さて、ここからどうやって王国側の星へ行こう?



 マップ情報を確認すると、この帝国側の首都星系から、星の海を越えた反対側にある王国側の星系へ向かうための「星間定期連絡船」が出航しているらしい。

 私は周囲の厳めしい軍人たちにぶつからないよう気をつけながら、宇宙港エリアへと足を向けた。


 このゲーム、王国軍と帝国軍は争っているという建前で話が出来てるらしいけど、どうも『ゴッコ』遊びらしい。この辺は本当に戦争ゲーム!っていう形にしちゃうと、規制が入っちゃうとか。だから、どちらの陣営でも色んな役職者のロールプレイが可能なんだけど、それはあくまでもロールプレイ。演じる者という形になるらしい。


 これの面白いのが、プレイヤーは役職のロールプレイをどこまで制約として入れるのかという、特殊職項目みたいなのがあって、例えば、キャラクター項目に『ヒーロー』を設定すると、それにあった役割を演じると貢献度ポイントが増えるらしい。

 それは、ちょっとしたポイントなんだけど、これが後々に色んなことに使えるとか何とか……。まあ、フィンに関してはこの貢献度ポイントは、配信者という演者の形で増やすっぽいけどね。

 執事で増やせないのかな?いや、それだと無限に増えそうだから駄目か。

 個人的には『ヴィラン』の悪役とか『インストラクター』の教官が気になる。

 教官って多分あの、どっからでも出てくる教官っぽいんだけど、あれってプレイヤーもなれるっぽいんだよな……。

 ちなみに今のフィンは帝国軍上級士官?になってる……。

 『帝国軍上級士官?』の『?』てなんだ。


 しばらくそんな事を考えたり、それっぽいことを動画用に喋りながら歩くと、何本もの巨大な発着パッドが並ぶ、圧倒的なスケールの宇宙港に出た。

 そこには、漆黒の装甲に包まれた巨大な円筒形の星間旅客船が、重々しいエンジンの予熱音を響かせて停泊している。船の周囲には、黒やグレーを基調とした帝国軍の宇宙警備兵たちが何人もうろついていた。


「えっと……この宇宙船に乗れば王国側の星に行けるはずなんだけど、チケットカウンターとか搭乗口がどこにも見当たらないぞ?」


 私は船のタラップ付近で立ち止まり、首を傾げた。

 ゲームのシステムウィンドウを出せば一発でわかるのかもしれないけれど、せっかくの観光だし、まずはNPCに話しかけてみようと思い立った。

 ちょうど近くで腕組みをして立っている、帝国軍の兵士に近づく。


 あずささんの説明通り、シークレットモードであってもNPCには私の声や存在が認識される仕様になっているはずだ。


「あのー、すみません」


 フィン独特のボイスチェンジャー付きで声をかけた瞬間、その兵士はピクリと背筋を跳ね上げ、まるで電撃でも受けたかのようにカチリと完璧な直立不動の姿勢をとった。そして、迷いのない動作で私に向かって鋭い敬礼をビシッと決めた。


「はっ!これは大佐殿!本日はどのようなご用件でありますか!」

「……た、大佐?」


 思わず私は自身の肩や胸元に視線を走らせた。シークレットモード適用中の特殊な権限アバターのせいか、階級章のようなものが勝手に最高位の「大佐」に設定されているらしい。


「えーっと僕は大佐じゃないけど……」


 否定してみたが、兵士は真剣な瞳で言い放った。


「何を仰いますか!紛れもなく、貴方は我が帝国軍の誇る大佐殿であります!ご命令を!」


 真剣そのものの瞳でまっすぐ見つめられてしまい、私はたじろいだ。


 ええーっと、そういう設定というか、システム上でフィンはそういう肩書きになっちゃってるのこの世界?

 『執事』であり、『大佐』であり、『帝国軍上級士官?』みたいな?


「ええーっと……そういうものなの?」

「はっ! そういうものなのであります!」


 迷いのない即答だった。うん、これはNPCで良いと思う。

 でも、フィンを見る目が少しキラキラしてて怖い。

 あれかな、憧れるの人?みたいに見えてるのかな?


 まあ、NPCの仕様なら仕方ない。

 私は気を取り直し、目の前の兵士に本題を切り出した。


「ええと、じゃあお言葉に甘えて。この定期宇宙船に乗って、王国側の星へ行きたいんだけど……乗ってもいいかな?」


 その瞬間、兵士の顔色がわずかに険しくなった。

 君NPCなのに表情豊かだね。

 彼女は懐からSF映画に出てくるような通信デバイスを取り出し、素早く操作を始める。


「了解であります!しばしお待ち下さい!」


 そして、彼女はデバイスに向かって叫んだ。


「――HQ!HQ!こちら帝国軍宇宙港警備隊!応答せよ、応答せよ!」


『こちら帝国軍宇宙港警備隊本部。用件を言え』


 デバイスの向こうから、これまた凛々しい女性の声が返ってくる。

 お、凄い!それっぽい!凄くそれっぽい!


「我が港に、フィン大佐殿がご到着であります!つきましては、今より星の海を越え、王国側の星系への極秘潜入を実施されるとのこと!護衛および星間航行の許可を乞う!」


『……は?すまない。もう一度頼む繰り返せ』


「我が港に、フィン大佐殿がご到着であります!つきましては、今より星の海を越え、王国側の星系への極秘潜入を実施されるとのこと!護衛および星間航行の許可を乞う!」


 デバイスの向こうの声が、明らかに素のトーンに戻った。

 あ、なんか不味そう?

 でも、王国側と帝国側って別に行き来しても平気なはずなんだけど、変なクエストになっちゃったかな?

 何分、自由度が高過ぎるゲームなので、変な所でイベントやら、戦闘やら、お使いクエストがはじまったりするらしい。


「もしかして、大げさな話になっちゃうの?」


 私は思わず声に出してツッコミを入れてしまったが、兵士には聞こえていないのか、あるいは私の呟きを大佐の深謀遠慮だと思い込んでいるのか……。


『……フィン大佐が王国に潜入? ……いや、待て。上層部からの極秘指令リストにはそんな項目……いや、何か特殊任務あってのことかもしれない……!フィン大佐の星間潜入作戦を許可する。敵地に単身乗り込む英断に栄光あれ!!』


 そのメッセージと共に、キャラクターの上にふきだしが出て、『センニュウクエストを行いますか?』という項目が出る。

 もちろんNOだよ。遊びいくんだから!

 するとふきだしが残念そうに空中から消えた。

 なんだ、今のその演出は!


「り、了解であります!大佐殿、ただいま全ての星間航行許可が下りました! どうぞ、ご乗船ください!」


 兵士は再びビシッと敬礼し、タラップの道を指し示した。


「……あ、ありがとう」


 私は盛大にため息をつきつつも、せっかくなのでそのタラップをトコトコと登り、定期宇宙船の船内へと足を踏み入れることにした。

 背後で帝国軍の兵士たちが「大佐殿のご武運を祈る!」と敬礼で見送ってくれている。なんだかものすごく大がかりな星間旅行になってしまったぞ、これ。

 変なイベントストーリー進展してないよね。やだよ変なイベントおきたら。



 定期宇宙船は重低音のプラズマエンジンを唸らせ、帝国側の黒い宇宙港を離れて暗黒の宇宙空間へと飛び出した。

 展望室の窓にもたれかかり、眼下に広がる無機質な帝国星系を眺めていると、船の外では、凄まじい速さで星々が美しい光の線となって流れていく。

 もう、ここのシーンだけでゲームやってて良かった!ってなるくらい高解像度だった。一緒に何人か乗っている他のプレイヤーたちも、大きな窓に張り付いて大喜びしている。


「わーーっ!見て見て先輩!外の星、すっごい流れてますよ!え、これリアルタイムでレンダリングされてるんですか!?めっちゃ綺麗……っ!」


 目をキラキラ輝かせてはしゃいでいるのは、どうやら最近ハイパーモードのアプデで飛んできたらしい新人のプレイヤーさんだ。初心者用の制服姿のまま窓にべったり張り付いて、スマホに似たゲーム内のバーチャル端末を片手にパシャパシャとスクリーンショットを連射している。


「おっと、新人ちゃん、そんなに張り付くと恥ずかしい思いをするのはこっちだぞー。まあ、気持ちは分かるけどさ」


 そう言って腕を組み、やけに慣れた様子でフフンと鼻を鳴らしているのは、いかにも場数を踏んでいそうな古参のプレイヤーだ。


「ここ、アプデ前はただのロード画面の暗転だったんだよ。それが今回のグラフィック再構築とアップデートで、ちゃんと自力で宇宙船に乗って星間移動する仕様に生まれ変わったのさ。どうだい、この重厚感。ヴィジョンアドベンチャー、本気出しすぎだろ?」

「へえーーっ!じゃあ、あそこの窓の外に見える青い光の帯は……?」

「あれがワープ航法の軌跡だ。帝国側の星系から王国側まで、およそ光速の何倍だかでジャンプしてる。だから船内の慣性制御が切れる瞬間に……ほら、来るぞ」

「わっ、体がふわっと……!」


 古参プレイヤーの解説の通り、船体がわずかに震え、重力制御が切り替わる独特の浮遊感が展望室に満ちる。新人の子は「うわぁ、すっごい!アトラクションの無重力エリアみたい!」と両手を広げてまたはクルクルと回りはしゃぎ、周りの乗客たちも「これ無料の定期便だぜ?贅沢すぎんだろ」「観光目的だけでも乗る価値あるわ」と口々に盛り上がっている。


――もちろん、シークレットモードで完全に透明化している私は、そんなプレイヤー間のやり取りをクスリと笑いながら眺めていた。


 本当に凄いんだ。大画面でテーマパークのアトラクションでも見てる感じなんだよね。


 そして――ほんの数分の跳躍ののち、視界の景色が、一変した。


「うわ……空から見てもやっぱりすごいなっ!」


 思わず感嘆の声が漏れる。

帝国側が「無機質な星」だったのに対し、これから降り立つ王国側の星は、まさに「自然と文明の美しい共存」そのものだった。


 宇宙から見下ろすその惑星は、どこまでも広がる青々とした森林とエメラルドグリーンの穏やかな海に包まれ、その豊かな自然の中に溶り込むように佇む、白亜とレンガ造りの美しい中世ヨーロッパ風の都市群が光の点となって輝いている。星の軌道上には白銀の宇宙ステーションや、優雅に舞う太陽の光が優しく見えた。


 宇宙港に降り立つと、帝国軍のピリピリした空気とは打って変わって、ものすごい活気と平和な賑わいが私を包み込んだ。

 行き交うプレイヤーやNPCの兵士たちは、帝国のような黒い軍服ではなく、白やライトブルーを基調とした清潔感のある制服や、軽装の冒険者風の衣装に身を包んでいる。商人も沢山何かを話しては歩いてたり、立ち止まってたり、道のあちこちには露店が並び、おいしそうな焼き立てパンや果物の香りが漂ってきているようだった。


「やっぱり、こっちの雰囲気のほうが落ち着く。さてと、せっかくのシークレットモードだし、まずは中心部でもぶらぶら歩いてみようか」


 私は一般プレイヤーから見えない透明人間状態の気楽さから、道すがらに売られている奇妙な露店の雑貨を眺めたり、可愛い野良猫のような外見のロボットを追いかけたりと、完全に観光客気分を満喫する。


 そうして大通りをずんずん進んでいくと、やがて視界が開け、街の中心にたどり着いた。


「わあ……!」


 そこにあったのは、幾重もの美しい彫刻が施された、巨大な白亜の噴水広場だった。中央からはキラキラと輝く水飛沫が噴き上がり、周囲を囲むように色鮮やかな花壇や、地元の人々や旅人たちで賑わうバザーのテントがずらりと並んでいる。


 果物や武具、色とりどりの布地などが所狭しと売り買いされており、見ているだけでワクワクしてくる空間だ。露店が並ぶ石畳の小道では、遊びに来た他のプレイヤーたちが思い思いにグループを組んで歩き回っていた。


「ねえねえ、今日なにするー?」

「うーん、特に決めてないけど、何か面白そうなイベントクエストなんかあったけー?」

「イベントクエスト探すついでに、バザーで良い装備売ってないかなーって見て回るだけでも良くない?」

「あ、それ賛成!……あ、そういえばさ、昨日の夜ログインしたら、例の鬼教官のところに呼び出されてさー、またあの教官の長い説教と愚痴を付き合わされて聞かないといけないの、本当悲しいんだけど……」

「わかるー!あの人、話し出すとマジで止まんないからね……。ていうか、私なんていまだに歩行の次はあの地獄の飛行だし、訓練がまだ終わらないー!って昨日も大爆発して泣きそうだったわ……」

「あはは、あの『鳥になって来い!』からの数秒で爆散するやつね。全プレイヤーの通過儀礼だから諦めなよ!」


 そんな他のプレイヤーたちの楽しげな雑談や、リアルな悲鳴交じりの会話を聞きながら、私はシークレットモードで透明になりつつ、「みんな苦労しながらも満喫してるんだなあ……」とクスリと笑う。


「すごいな本当に。生きている星って感じがする……」


 私は噴水の近くのベンチに腰掛け、目の前で繰り広げられる平和な光景をぼんやりと眺めていた。あの地獄の飛行チュートリアルでズタボロにされた心も、この景色を見ているだけですっかり癒やされていく。


 その時だった。


「おい、そこのお前」

「……ん?」


 突然、後ろからガッシリと力強い手で肩を掴まれた。

 びくっとして振り返ると、そこにはこのゲームをしていたら、誰もが見覚えのある顔が立っていた。


 訓練施設で何度も多くのプレイヤーを「クソ共」呼ばわりしてスパルタ指導してくれた、あのNPC教官だ。


「なんだフィンか!こんなところでサボって、いったい何をしている!」


 教官はガッチリと私の肩を掴み、豪快に笑いながらポンポンと叩いてきた。

 そういえばあずささんが「NPCにはちゃんと存在が認識されるようにしてあるから、話しかければ普通に反応するよ」って言ってたっけ。プレイヤーには完全な透明人間になれるけど、NPCに対してはこうしてちゃんと認識される仕様なんだな。

 ……うん?何かがおかしい気が?おや?何だろうこの違和感。


「えっ……あ、あの、教官?」

「なんだその間抜け面は!飛行チュートリアルで散々爆発して頭でもおかしくなったか?はっはっは、まあいい!休暇の日に街をブラブラするのも悪くはない!」


 フレンドリーすぎる教官の態度に苦笑しつつ、私はせっかくなので尋ねてみることにした。


「あはは……実は、ちょっと観光にきたんですけど、この街でどこか面白い場所とかってありませんかね?」


 私はそう尋ねてみた。すると、教官は腕を組み、面白そうにフッと鼻を鳴らした。


「ふん、おすすめの場所だと?教えてやってもいいが……王国はどこに行っても面白いものさ。自分の足で歩き、自分の目で探して見つけるのも、冒険の醍醐味ってやつだ、フィン!」

「それはそうかなぁ……」


 教えてくれないのかよ!と心の中でツッコミを入れた私に、教官はふっと悪戯っぽい笑みを浮かべて、また背中を軽く叩いた。


「まあ、そういって冷たくするのも野暮か。どうしてもと言うなら、一つだけ耳よりな情報を教えてやろう」

「おっ、本当ですか?」

「うむ。この街の北東にある大きな鐘楼――その陰に、隠れた地下への階段がある。そこを進んだ先にある『人型兵器の非公式レース場』に行ってみるといい。機体の限界性能を引き出す連中が集まっていてな、なかなかにエキサイティングだぞ」

「人型兵器のレース場……?」


 その言葉に、私のゲーマーとしての血がピクリと反応した。

 あの油圧ペダルと三軸ジャイロで、この広大な王国の星を舞台にレースをするなんて、想像しただけで面白そうだ。


「なにそれ!めちゃくちゃ面白そうじゃないですか!」

「だろ?自分の目で探して見つけるのも一興だが、迷ったらそこへ行ってみるといい。せいぜい怪我をするなよ、我が弟よ!」


 私が礼を言う間もなく、教官は豪快に笑いながら、そのまま別の任務へと颯爽と歩去っていった。


 ……ん?いま弟っていった?

 何かの間違いかな?

 何かいつもの教官と違う感じもしたけど……。

 まあ良いか!


 教官の背中を見送りながら、私は小さくガッツポーズを作る。


「よしっ!教官が教えてくれたレース場か……。シークレットモードの観光がてら、ちょっとその様子を見に行ってみるかな!」


 私はワクワクと胸を高鳴らせながら、教わった通り、白亜の街並みが広がる大通りをまっすぐと歩き始めたのだった。

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