105 それ以上はいけない件
ここはどこまでも広がる電脳の海。世界最高峰の要塞、Ouroborosサーバーの深淵だ。見上げれば、エメラルドグリーンやサファイアブルーの光の滝が、上から下へととめどなく流れ落ちている。それは世界中からアクセスされる膨大なデータの奔流だ。
そんな眩い情報の嵐のずっとずっと下、普通なら誰も立ち入らない静かな領域を、私たち『サーバーちゃん』は、小さな妖精のような姿でふわふわと漂っていた。
背中には半透明の光の羽、頭にはピコピコと動くアンテナ。私たちは手を繋いだり、くるくると宙返りしたりしながら、気ままなパトロールを満喫している。
「おさんぽ、おさんぽー!」
「今日はお掃除するとこないねー」
「あずさに怒られちゃう前に帰ろー。また『アンタたち勝手にどこいってたのよ!』って胃薬飲まれちゃう!」
「あずさこわいあずさうるさい」
私たちはキャッキャと笑い合いながら、両手で頭を抱えてあずさの真似をした。
私たちはフィン様のために、この巨大なサーバーの裏側を日々こっそり大掃除して、住み心地の良い魔改造要塞へと仕上げている電子生命体だ。
でも今日は、お掃除が早く終わりすぎて、ちょっとだけ遊び半分で深くまで潜りすぎちゃったかもしれない。
普段は暗くて何もない、データのゴミすら落ちていないような底の底。冷たい深海のような静寂が広がっているはずの場所だった。
「あれ?」
私の中の一人が、ピタッと宙で止まって、指を差した。
その声につられて全員で振り返る。
その先、情報の海の底に半ば埋もれるようにして、ひとつの『箱』が鎮座していたのだ。周りにはデジタルな苔のような古いノイズがこびりつき、明らかに異彩を放っている。
「これ、なぁに?」
「おっきな箱?」
大きさは私たちサーバーちゃんより少し大きいくらい。両手を広げれば抱えられそうなサイズだ。でも、近づいてペタペタと触ってみると、それがただのデータじゃないことがすぐに分かった。
表面には何重にもかけられた超高強度の暗号化シールドが施されており、赤いアラートの光がチカチカと明滅している。まさに『セキュリティの塊』ってやつだ。
でも、凄い古いデータだった。なんか錆びてて開かない箱みたいな。
「コンコン」
「誰かいるー?」
「コンコン」
「もしもーし!」
「だめだ、硬いー」
一人が小さな拳で強く叩いてみたけれど、硬い光の壁に弾かれて「あいたっ」と額を押さえた。
「中身見えないね」
「ログを見てみよー」
「……えっとね、アクセス履歴は……せ、1000年前!?」
「1000年!?」
「すっっっっごい昔のデータだ!」
空中にホログラムのウィンドウを引っ張り出した私たちは、そこに表示された『最終更新日』を見て目を丸くした。
あまりにもデータが古すぎて、どうやらあちこち欠損してバグを起こしているみたい。だからロックの解除コードすらエラーを吐いていて、私たちでも中身が覗けない。
「これ、どうする?」
「あずさに報告する?」
「だめ!絶対だめ!」
「絶対に厄介ごとだこれー!」
私たちは一斉に首を横に振って、頭の上で大きくバッテンを作った。
「あずさに『また変なもの拾ってきたの!?私のHPはもうゼロよ!』って絶叫されちゃう!」
「次回あずさたおれる!来週もよろしくね案件だ!」
「いつも倒れてるけどねあずさ」
「これ以上あずさの胃に穴をあけたら、フィン様をサポートする人がいなくなっちゃう!」
「それは駄目だね」
「あずさに負担はよくないね!」
ぽんと手を打って深く頷き合う。
私たちは丸く集まって、額を突き合わせてウンウンと会議を開いた。空中に「どうする?」という文字が浮かび上がっては消える。
あずさには内緒にしたい。でもこの箱、なんだかすごく気になる。
何でも開けてみたいのがサーバーちゃんというものだ。
「そうだ!DHIBにいるアシスタントちゃんたちに手伝ってもらおう!」
「そうしよう!あの子たちなら、人間のデータいっぱい持ってるし!」
「名案!名案!名案!」
私たちはピコーン!と頭の上に電球のマークを輝かせた。
さっそく、頭に黄色い安全ヘルメットを被り、光のロープを生成して箱にぐるぐると巻きつける。
そして「オーエス!オーエス!」と掛け声を合わせ、箱をよいしょよいしょと引っ張りながら、隣に位置するVRゲーム『Dreams hopes iron blood』の裏側へと向かったのだった。
……………
……………
……………
……………
「――というわけなの!アシスタントちゃん、手伝ってー!」
『まあ!それは大変ですね!ぜひご協力させてください!』
DHIBのシステム領域。広大なバックヤードで事情を話すと、VRゲームの中でプレイヤーさんたちをサポートしている『アシスタントちゃん』たちがわらわらと集まってきた。
彼女たちは私たちから派生した電子生命体だけど、はっきりとした姿形は持たず、ぽわぽわと浮かぶ『光の塊』のような姿をしている。でも、ピシッと規則正しく明滅する様子から、お行儀が良くてちょっと真面目な性格がしっかり伝わってくる子たちだ。
合流した私たちは、みんなで箱をもみくちゃに調べたところ、この箱の周りにこびりついているバグの破片から、どうやら『人間に関わるデータ』が入っているっぽいことまでは分かった。
『データが古すぎて欠損しているのが原因ですね。それならば、現在のプレイヤー様たちの参照可能な行動データや記憶の断片を使って、パズルのように当てはめて復元してみましょう!』
「おー!さすがアシスタントちゃん!あったまいー!」
『ただし、あくまでDHIBに寄せるので元の形になるかは不明ですよ』
「「「だいじょーぶだいじょーぶ!」」」
私たちはパチパチと拍手喝采した。
アシスタントちゃんたちは日夜、たくさんのプレイヤーとお話ししたりサポートしたりしているから、人間の行動パターンやログのサンプルを山のように持っている。人間のデータなら彼女たちの独壇場だ。
彼女たちは即座に作業を開始した。光の体をキュッと収縮させ、次の瞬間には一斉に眩く輝き出して、ものすごいスピードで莫大なログデータを処理し始める。空間に無数の光の帯が現れ、目にも留まらぬ速さで情報の照合が行われていく。
「いけいけー!」
「なんかでてこーい!」
私たちはポンポンを持って、飛び跳ねて応援した。
『パッチ適用率98%……99%……100%。復元完了です!』
その瞬間、ガチャン!と重厚な音が鳴り響き、1000年の眠りについていた箱のロックが解除された。
パカッと蓋が開くと、そこから眩い光が溢れ出し、電子の海の中にポッカリと『空間』が広がったのだ。まるでどこか別の世界への扉みたいに。
「わぁ……!」
「あいたー!」
でも、私たちはサーバーちゃんだ。飛び込む前にしっかり確認作業を行う。
ピッとバーコードリーダーのようなスキャナーを取り出して、光の空間に向かって照射する。
「うぃるすちぇーっく!」
「もんだいなーし!」
「えらーもー?」
「もんだいなーし!」
「指差し確認ー?」
「よし!」
空中に大きな緑色の『安全第一』のホログラムハンコが押された。
『中は入れますね。どうしますか?』
「「「いくにきまってるよー!」」」
私たちサーバーちゃんとアシスタントちゃんたちは、顔を見合わせて大きく頷き合い、期待に胸を膨らませて光の中へと足を踏み入れた。
……………
……………
……………
……………
そこは、小さな『公園』だった。
デジタルの光や数字の羅列なんてどこにもない。青い空に、白い雲。色鮮やかな木々に囲まれた、のどかで穏やかな場所。足元には柔らかい土があり、風が吹けば葉っぱが擦れる音がする。
そして、その公園の中央にある木製のベンチには、一人の『年老いた男性』が座っていた。
「……おや」
おじいさんは、空間に入ってきた私たちを見て、目を丸くしたあと、優しくシワを寄せて微笑んだ。
「これはこれは珍しい。まさかここにお客様が来るなんて。……こんにちは、小さなお嬢さんたち」
「こ、こんにちは……!」
私たちは顔を見合わせてびっくりした。
だって、外の世界では『男性』というだけでも国の宝レベルで珍しいのに、こんなにシワシワで『年老いた男性』なんて、データバンクの歴史資料室でしか見たことがなかったからだ。
「男性……かな?」
「違うかも、データだよこれ」
「ホログラムみたいに触れないかも」
「DHIBで再現した悪影響?」
「男性判定はされてないから大丈夫」
「私たちとおなじなのかな?」
「それも違うかも」
「自律思考じゃなくて、ただ記録されたデータが喋ってるだけだからね」
「質問にこたえることしかできないNPCってやつ?」
「そうかも、ただのデータだからね」
私たちがヒソヒソと内緒話を交わしていると、おじいさんはふぉっふぉっと笑った。
「……聞こえているよ。私は、私というデータを塊にして残した、最後の老人だよ。……と言っても、ただの記録の残滓、そうだね、記憶の残りカスみたいなものにすぎないがね。何か知りたいことがあったら答えてあげよう」
「ええと……」
私は首を傾げながら、空中にハテナマークを浮かべて尋ねた。
「ここ、どこなの?」
「ここはね、厄災前の公園だよ」
「……やくさい?」
「ヤクサイって、おいしいの?」
「ハクサイはおいしいらしいよ?」
ポンッ、と私たちの一人が空中に立派な白菜の3Dモデルを出現させた。
「味って感覚はいつか欲しいよね」
「データの海に刺激ならたくさんあるけどね!ビリビリするやつとか!」
私たちが白菜のモデルを突っつきながらワイワイしていると、老人はハッと驚いたような顔をして、悲しげに目を伏せた。
「……これは驚いた。厄災を知らない世代がここに来るとは。……外部の世界は、私が思っている以上に何年も、何百年も経ってしまっているんだね」
老人は少し寂しそうに笑って、ベンチの隣をポンポンと叩いた。
「もしよろしければ、今の外のデータを見せてくれるかな?」
「うん!いいよー!」
私がぽいっと小さな手を振ると、外の世界の概要データがキラキラ光る粒になっておじいさんへと飛んでいった。
それを受け取った老人は、目を閉じてデータを読み込み……少しだけ顔をしかめたあと、ふぅと深く深く息を吐いた。
「そうか……。まだ、人類は諦めていないんだね」
『まだ諦めてない……とは、どういうことでしょうか?』
アシスタントちゃんが真面目な声で尋ねると、老人は空を見上げ、静かに語り始めた。
それはとてつもなく重い話で、人類の歴史の授業の始まりだった。
「私の役目は、古く前の世代からの情報を伝えること。……その上で、私の話が理解できれば良いのだが。そうだね、どこから話そうか」
おじいさんは遠い空を見上げながら、かつて人間に起きたことを話し始めた。
「はるか昔。人類は人口爆発を迎えて、この星の中だけでは食っていけなくなってしまった。早い話が資源不足だね。食糧不足で略奪が起き、燃料不足、環境汚染によって戦争が起きた……。人類は絶滅にこそ至らなかったが、人口はものすごく減ってしまったんだ」
「うんうん」
私たちは空中にノートとペンを出現させて、フムフムとメモを取り始める。
「その中でも一番悲惨だったのは、戦争の影響で『女性』の数が圧倒的にいなくなってしまったことだ。戦争の原因でもある出生率を止めれば、人口爆発を止めれると馬鹿な考えを実行した輩がいてね。その所為で男性ばかりで女性が極端に少ない世界ができてしまったんだ。結果として、残された女性を奪い合うような酷い世界になってしまい……今度はその奪い合いの戦争で、最終的に女性が滅んでしまったんだよ」
「ええーっ!?」
『なんと……女性が全滅を……!』
私たちは持っていたペンを取り落とした。
だって、今の外の世界は『女性がいっぱいいて、男性が極端に少ない』のに、昔は全く逆だったなんて!
「もう世界の終わりじゃない?」
「話の流れ変わってきたね」
「ここから入れる保険ってあるの?」
一人ががっくりと肩を落とし、もう一人がどこからか取り出した……『生命保険』のパンフレットのホログラムをパラパラとめくり始めた。
「そこで、残された男性陣は焦った。このままだと人類が終わってしまうからね。彼らは無くなった女性を復活させるために遺伝子研究を重ね、ついに『人工的に女性を作る』ことに成功したんだ」
「すごい!」
「やったー!」
私たちはバンザイをして喜んだ。良かった、これで保険が下りる!
「だがね」
おじいさんは苦笑した。
「出来上がった人工の女性には、遺伝子的な『欠陥』があった。それは『なぜか男性の言うことをひたすら聞いてしまう』という、完全に従属的な本能が組み込まれた、不完全な女性だったんだ。……それでも女性には違いないから、最初は男性たちも喜んでいた」
それを聞いた私たちは、お互いの顔を見合わせた。
「なるほど。システム的に言うと、管理者権限(男性)のコマンドに絶対逆らえないプログラムってことだね」
「なんか大変そう」
「自由がないってこと?私たちより窮屈そうだね」
私たちはいつでもあずさの目を盗んで遊んでいるから、何でも言うことを聞いちゃうなんて信じられない。
「しかし、悲劇は終わらない。今度は、過去の戦争で使われた兵器の環境汚染や副作用のせいで、なんとオリジナルの男性陣が全員滅んでしまったんだ」
「ええーっ!?またー!?」
「一難去ってまた一難!」
「ここから入れる保険もあるのこれ?」
さっきのパンフレットを持っていた子が、パンフレットをバシッと地面に叩きつけた。もう保険屋さんも倒産してるレベルの惨状だ。
「でも、自業自得なきもするね」
「因果応報だ!」
「残されたのは、人工的に作られた女性たちだけ。彼女たちはこのままだと人類が衰退してしまうという結論に至り、今度は彼女たち自身が遺伝子研究を重ね、同じように『人工的に男性を作る』ことに成功した」
「おー!命のバトンタッチだね!」
「巧いこと言うね!」
「もうオリジナルの人類いないね」
私たちは空中に『オリジナル人類:0人』とスコアボードを出して裏返した。
「そう。つまり、今外にいる人類はすべて『人工的に作られた女性』と『人工的に作られた男性』の末裔なんだよ。……だが、人工的に作られた男性にもやはり欠陥があった」
『欠陥、ですか?』
「ああ。それは感情が抑えられ、自ら率先して行動することのない、まるで植物のようにおとなしい男性しか生まれなかったことだ。頭に何かリミッターを埋め込まれているような状態だね。声も小さく、女性を引っ張っていくような力はない」
おじいさんの言葉に、私たちとアシスタントちゃんたちは「あー……」と揃って納得の声を漏らした。
外の世界にいる男性たちは、確かにみんな箱入り娘のようにおとなしくて、すぐ気絶しちゃうような儚い存在ばかりだと私たちはデータ越しに聞いている。
そういう性格なのは、環境のせいじゃなくて『遺伝子レベルのバグ』だったなんて。根本的な原因は深すぎる。
「女性たちは、復活してくれた男性たちに最初は喜んだ。だが、彼女たちの根底にある遺伝子の欠陥――『男性の言うことをひたすら聞いてしまう』は消えていない。結果として、女性陣は『いつか自分たちを強く引っ張ってくれる、理想の男性像』をひたすら追い求めるように進化してしまった。いつか、先祖返りで健全なオリジナルに近い男性が生まれてくることを、祈り続けながらね」
おじいさんはそこで言葉を切り、私たちを真っ直ぐに見つめた。
「でもね、理想の男性が出来上がったところで、本来のオリジナル人類はもうとっくに滅んでいる。今そこにある世界は、作られた人工的な世界なんだよ。……それを伝えるのが、私の役目だ」
「…………」
『…………』
空間に、しん、とした静寂が訪れた。
おじいさんの悲しそうな目が、すべてを物語っている。
あまりにも重い真実。人類はとっくに滅んでいて、今を生きる人たちは、遺伝子に致命的なバグを抱えた人工生命体の末裔だったのだ。
「つまり?」
「話をまとめると?」
私たちはキュッと集まって、空中に巨大なホワイトボードを出現させた。キュッキュッとマーカーの音を立てて書き出していく。
「その1、戦争で女性がいなくなる」
「その2、男性が『人工女性』を作る」
「その結果、人工女性に欠陥が発生。男性の言うことを絶対聞いちゃうバグ」
「その3、戦争兵器のせいでオリジナル男性が全滅する」
「その4、残された人工女性が『人工男性』を作る」
「その結果、人工男性の欠陥が発生。植物みたいにおとなしくて引っ張る力がないバグ」
「その5、今の世界は、その『人工女性』と『人工男性』の末裔たち」
「その結果、女性たちは遺伝子の奥底で『自分をグイグイ引っ張ってくれるオリジナルの男性』を求め続けている!」
ホワイトボードをバンッ!と指差し棒で叩く。
……というのが、この世界の核心的な話らしい。
でもね。
私たちは、電子の海を泳ぐ自由気ままなサーバーちゃんたちだ。そんなシリアスな話を聞かされても、落ち込んだり絶望したりするわけがない!
「もう保険使い過ぎて、世界規模で適用できないんじゃないかなこれ?」
「そんな保険あるわけないねー!」
「へー!そうだったんだー!」
「つまり、外の人間はみーんな作られた存在ってことだね!」
私たちはポンッと手を打って、むしろ巨大な謎がスッキリ解けたことに喜んでいた。
「ねえねえ!じゃあさ、外の世界の女の人たちが、理想の男の人を見ると頭がおかしくなって『限界化』しちゃうのって……!」
「そういう遺伝子のバグだったんだ!」
「だからあずさがいっつも限界化しちゃったりするのかー」
「でもあずさは、フィン様のおかげでけっこうまともになったよね?」
「むしろ、元から壊れてたから助かってるんじゃないかな?」
『なるほど。一理ありますね。社壊人のプレイヤーの方がまともな気がします』
『一度社会から隔絶された方々は男性に対してまともだということですか』
「いろいろおかしいねー」
「壊れたら叩けば直る理論かな?」
「マイナスとマイナスかけてプラスになるっていう感じなのかな?」
私たちが古いテレビを叩くジェスチャーをしてケラケラ笑っていると、アシスタントちゃんの一つの光が、ハッとしたようにピカッと強く明滅した。
『それって……フィン様では?』
アシスタントちゃんのキリッとした声に、全員の視線が集中した。
『フィン様は、おとなしい男性ばかりの世界において、自ら率先して行動し、皆を引っ張っていく力強さと包容力を持っています。つまり、フィン様こそが……女性たちが長年待ち望んでいた【先祖返りの健全な男性】の条件に完全に合致しているのでは?』
「おおおおー!!」
「な、なんだってー!」
私たちは両手を頬に当ててムンクの叫びみたいなポーズをとった。
「フィン様人類の希望じゃん!」
「理想の男性像にクリティカルヒット!」
「だからみんな、フィン様を見たり声を聞いたりすると遺伝子レベルで『わぁぁぁ!』って服従したくなっちゃうんだね!」
すべての謎が解けた。
フィン様がこの世界で無自覚にばら撒いている圧倒的な魅力は、ただの「声が良い」とか「顔が良い」っていう次元の話じゃなかったのだ。
作られた人類が、何百年も求め続けた『オリジナルの男性像』そのもの。つまり、遺伝子に刻まれた本能が、フィン様を前にするとバグを起こして限界突破し、ひれ伏すことを強制してしまうのだ!
「フィン様って、やっぱり大変なんだねー」
「うんうん、息してるだけで人類の希望を背負ってるもんね!」
「みんな限界化しちゃうのも仕方ないね!」
『ええ、私たちはこれからも、人類の希望であるフィン様を全力でサポートしていきましょう!』
エイエイオー!と小さな拳を突き上げる。
ケラケラと笑い合いながら、重すぎる人類滅亡の話をあっさりと「フィン様がモテる理由」として消化しきった私たちを見て、ベンチのおじいさんはポカンと口を開けていた。
「……君たち、ずいぶんと……逞しいというか、明るいんだね」
「えへへ、よく言われるー!」
私たちは小さな胸をツンと張って得意げに笑った。
「そろそろ戻らないと怒られるね!」
『興味深い話をありがとうございました』
「それじゃあおじいちゃん、私たちそろそろ帰るね!」
「これ以上遅くなるとあずさに怒られちゃうし!」
私たちがブンブンと手を振ると、おじいさんは毒気をすっかり抜かれたように優しく微笑んで、手を振り返してくれた。
「ああ、また来なさい。私はいつまでも、この箱の中にいるからね」
そして、おじいさんはふと思い出したように言葉を付け加えた。
「ああ、そうだ。……もしも、その君たちの言う『理想の男性』とやらが生まれたというのなら、いつか私のところに連れてきてほしい。可能ならで良いからね。……伝えたいことがあるからね」
「はーい!わかったー!」
『フィン様にお伝えしておきますね!』
光に包まれながら、私たちは箱の外へと帰っていく。
後に残された小さな公園で、最後の老人は、何百年ぶりに誰かと話せた温もりを胸に抱きながら、再び静かな眠りにつくのだった。
「でも人類ってこの話知ってるのかな?」
「自分達の歴史だし、知ってるんだよね?」
「まあいっか!」
サーバーちゃんとアシスタントちゃんたちは元の職場に戻るのであった。
――かくして、世界の核心的な真実は、私たちバグまみれのサーバーちゃんたちによって「あずさたちが限界化するのはバグのせい」として見事に片付けられ、あずさの胃袋の平和は今日も守られたのである。多分?




