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魔術会社サークルのオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

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その願いは徒花のようにep6

 流暢な喋りが僕の耳に届く。その声は私だけではなくその場にいる全員へと届いており、三者三様な驚きを見せていました。


「まじで喋ってやがる」


「本当に成功するとはね。僕も自分のことながらビックリだよ」


 私も、何となく念話のような物が出来たらいいと軽く期待していた程度であったため、会話が出来るとは思っていませんでしたし、器用にも喋るたびに口の部分が動いているためどういう仕組みなのか気になるところです。

 声帯などは当然ながら無いため、人が口を開いて喋るのを真似て行っているのでしょうか。

 勘違いしそうになりますがこの子ははフクロウではなく、ただのぬいぐるみなのです。


「最低限の理性は持ち合わせているみたいだな」


「なんだかかわいいですね」


『おい、お前たち。私の話を聞け。空穂は何処だ。私が守らねば。姿を見たのだ。アイツはまだ生きている』


 飛べない羽を羽ばたかせて必死にアピールをするフクロウ。社長の魔術によって足が動かせないようになっているためその場から動くことはできません。


「いや、空穂ちゃんは死んでるよ」


 一瞬の静寂。社長さんの言葉によって空気が固まります。

 動くことが出来ないからと言って、事実をただ突きつけるのは酷なことのように思えます。ぬいぐるみが相手だとしても。


『虚言を吐くな。私は確かに見たぞ。目の前にいる女の後ろにいる空穂の姿を』


「本当に死んでるよ。直接見てもらったほうがいいんだけど、君のことを信用できないんだ。僕たちの大切な子に会わせられない」


『動かなかったら会わせると言ったではないか!』


 社長さんはゆっくりとゲティさんの方を向く。当のゲティさんはそれに合わせて視線をそらし、何も無い虚空を見つめていました。


「そんなこと言ったの?」


「言ったような気もする」


 ゲティさんの返答は曖昧でしたが社長さんは言ったことを確信したようです。私は聞いていましたので口添えすることも出来ましたがあまりにもゲティさんの仕草が分かりやすいため、私が何かを社長さんしなくてもは気づいていたでしょう。


 大きくため息を吐いて再びフクロウのぬいぐるみに話しかけます。大の大人が1つのぬいぐるみを囲んで真剣に話しているのが滑稽に思えてくる前に話を終わらせたいところです。


「会わせないなんて言ってないよ。ただ君の話を聞かせてくれないかな。そしたら明日にも会わせてあげる。君は沢山待ったんだ。たった1日延びるだけ。もしかしたらこれから空穂ちゃんとずっと一緒にいられるかも知れないけどその機会を棒に振るのかい?」


『……。ちゃんと会わせてくれるのだな?』


「君がちゃんと話してくれればね」


『何を話してほしいのかまだ分かぬが、此方に選択権など無いように思える。あの子のためだというのなら、儂はなんでもするとしよう』


 大きな魔力を感じるとはいえ、直接此方を攻撃する意思は見せてこないようで安心しました。その場で攻撃的な魔術を使えるのはゲティさんだけですし、調さんも私も自分の身を守る事が出来るか不安なほど戦闘的なものは苦手なのです。

 現代社会で魔術を使った戦闘など、他の人にバレないはずがありません。写真を撮られ、SNSに拡散され、様々な憶測が舞ってしまうでしょう。

 裏世界では無いこともないですが、あそこは現代社会とは隔離された空間。魔術も魔法も何でもありなのです。


 了承したフクロウのぬいぐるみに対して何を聞くか考えながら真実にたどり着くための道は着々と出来上がっていくのでした。


「一人称『儂』なの?フクロウなのにワシって面白いね」


 流石の私でも今の社長さんの言葉は擁護できません。

 フクロウのぬいぐるみは当然表情を変えませんが私たちと同じような感情を持ったことでしょう。




『話せ、と言われても何を話せば良いのか分からん』


「それじゃ僕たちが質問するからそれに答えて。ちょっと細かく聞くけど許してね。空穂ちゃんのためなんだ」


『分かった。あの子の為ならば』


 社長さんはフクロウぬいぐるみに対して空穂さんの名前を出せば断ることもせず協力をしてくれることに気付いたのか、しきりに空穂さんの名前を上げて会話をしています。

 私が気になったのは空穂さんの名前を聞いても殺意を微塵も出さなかったことです。初めて邂逅した時は「殺す」と連呼していたはずですがルーン魔術によって何らか知性を会得した結果、殺意が表に出てこなかったのでしょうか。知性が出ているのならばフクロウのぬいぐるみなど余所余所しく呼ばないでフクロウさんとでも呼んだほうがいいでしょうか。

 私の最初の質問は決まりました。


「私から質問良いですか?」


「いいよ。何でも聞いちゃって」


「お前が許可出すのかよ」


「それでは失礼しますわ。フクロウさんは空穂さんに対して殺意を持っていると私たちは考えていたのですが……」


 私の質問は途中だったのですが、フクロウさんは大きく翼を動かして必死に否定をします。


『何を言っている!そんなことあるわけがなかろう!』


「しかし、私は確かに貴方が空穂さんを殺すと言ったのを聞きましたわ」


『儂が殺意を持っているのはあの男だけだ。空穂を殺したあの男』


 忌々しげな声で呟くフクロウさん。ぬいぐるみにしか見えないのにも関わらずその声色は人間のようでした。

 ゲティさんが「少しだけ私からも質問いいか?」と私に聞いてきたので了承をする。


「話の途中だが私からも質問だ。お前の自我は何処から記憶がある?空穂に出会った時か?それとも今この場からか?」


「覚えている記憶というのは定かではないが自我を持ったというのならば今この時儂は自我を持ったと言えるだろう。それ以前に儂が見ていたものは遠い日の情景に思いを馳せるようなぼやけた記憶でしか無い」


 何故クローゼットに押し込められていたはずのフクロウさんの語彙が人間のように達者なのか疑問が浮かびます。仮に幼い頃の空穂さんがフクロウさんへ話しかけていたとしてもこのような言葉遣いにはならないはずです。

 ゲティさんの魔方陣や社長さんの魔術が関わっているのでしょう。私は魔術の方面にはあまり詳しくないためその答えは分かりません。


「なるほどな。鏑木を守る本能的な行動を取っていたわけか」


「うむ。儂の存在理由は空穂を守る事だからな。託され、願われたその思いを儂は守り切ることが出来なかったのだ」


「空穂ちゃんの願いが契約になっちゃってたかもしれないね。その契約が空穂ちゃんの死によって反故にされ、その反動で呪いと化した。こんなところじゃないかな?」


 呪いは半ばでやめると術師に災いが降りかかる。この場合、術師は居ないが願いを聞き届けようとしたのはフクロウさんであり空穂さんが死んだことによってフクロウさんは守るはずの空穂さんを守れずにあの部屋を守る呪いとなってしまったということでしょう。

 社長さんの言うことが確かならば、私たちが部屋に入ろうとした時に入れなかったことも部屋に外部の者が侵入した形跡がなかったのもフクロウさんがあの部屋を守っていたからかもしれません。


『詳しいところは儂にも分からん。ただ空穂を守る存在理由が消えてしまった事によって何かが変化してしまったのだろう』


「なるほどね。再三聞いて悪いけど君に空穂ちゃんを害するつもりは無いんだよね?」


『勿論だ。私からも1つ質問をいいだろうか?』


「いいよ」


『先程お主は空穂が死んだと言っていた。それは私も知っている。それなのにも関わらず空穂がいたのはおかしいのではないか?それにお主も会わせると言っていたが死んだものには会えぬ。常識的に考えておかしいだろう』


 喋るぬいぐるみが常識を語る方がおかしいと思います。そもそも魔術という物自体が常識的に考えておかしい物がなので何がおかしくて何がおかしくないというのは個人の主観でしかありません。


「言ってなかったっけ?あの子幽霊になって今も生きてるよ」


『は?』


「いや幽霊は生きてねーだろ」


「うるさいな。幽霊として存在してるって言えばいい?」


「ここで喧嘩をするな馬鹿共」


 忙しなく動いていたフクロウさんは驚いて動きが止まっていました。その姿はただのぬいぐるみ。それを横目に軽口を叩きあう社長さんと調さんには空気を読んで欲しい物です。


『いや、幽霊として存在しているなど信じられぬ……。儂が見た空穂は――』


「幽霊になった空穂ちゃんだね。うちで働いてる。明日になったら嫌でも会えるよ」


『そ、そうか』


 フクロウさんからは人間性のようなものが感じられます。幽霊の存在を信じられないと言ったり、常識を語ったり、現世界を生きてきた人間のような思考回路をしています。今のフクロウさんには何かしらの魂が宿った状態と考えることも出来ます。

 魂とは人間や動物などの生命の象徴。科学的に存在するか否かは知りませんが、人間が死ぬ前と死んだ直後で体重を比較したら死んだ直後に体重が軽くなったという話を聞いたことがあり、軽くなった分の重さこそが魂の重さと言われています。


 このフクロウさんに入っているのは一体なんの魂なのでしょう。


「俺からも質問いいか?」


『もう何でも聞くが良い』


 今度は調さんが質問する番みたいです。呆れ半分、諦め半分で答えるフクロウさん。最初よりも疲れた声色をしています。


「俺たちが最初に見た時、お前血塗れだったんだが心当たりはあるか?」


 今のフクロウさんは社長さんが綺麗に洗ったため血の汚れは付いていませんが、私たちが持ち帰った時は見てわかる程度には血が付いていました。


『記憶、というものがあるわけではないがあの血は空穂を殺した男のものだろう』


「どういうこと?」


『空穂からの繋がりのような物が切れた私は繋がりを絶った相手を探した。大きな建物の部屋のような場所にその男は閉じ込められていた。窓が開いていたためそこから入り込みその男に突撃して殺した』


 犯人は刑務所の中で死んでいたと磐梯さんは言っていました。フクロウさんが殺したとなれば刑務所の中は大騒ぎでしょう。殺人犯が居ない中、殺人が行われてしまったのですから。

 その場に磐梯さんがいれば魔力の痕跡などで何かしらの対処が出来たと思いますが刑務所の中にまでは流石に行けないようです。


「その後は家に戻って部屋の守り主をしていたってことかな」


『そうなる。目的も何もないからただあの部屋にいたのだ。幾許かの時がたち、空穂の名前が聞こえた。それに対して身体が反応したのだ』


「酸塊が聞いた空穂を殺すという声は、言葉を録に喋れないフクロウの犯人に対する怨みを勘違いしたのかもしれないな」


「「空穂」ちゃんを殺した犯人を「殺す」って感じのことかな」


「そんなところだろう」


 つまりは私の勘違いと言うことです。呪いの魔力が強かった事からフクロウさんが空穂さんを殺すと決めつけて危ないものとして行動していました。

 裏世界で起こることは「そういうこと」として飲み込む事が大事と社長さんにも何度か言われたことがあります。それと同時に「先入観と決めつけで行動するのはよくない、臨機応変に対応するためにも思考は柔軟に」とも言われていました。

 今回は良い方向のため何も起こらなかったですが、下手をすれば事務所の皆さんを危険に晒していたかもしれません。


「すみません。私の勘違いだったみたいです。以後気をつけますわ」


「酸塊さんにしては珍しい勘違いだったね」


「ま、あの2人に関することだから必死になってたっていうのもあるだろうよ。今までの依頼は見ず知らずの他人のためだろ?でも今回は勝手知ったる仲のお願い。その願いを無碍に出来ないって無意識に思ってたんだと思うぞ」


「同感だ。取り敢えず、勘違いは置いておいて酸塊も良くやった。鏑木も来栖もこれで安心できると思う」


『儂からも礼を言わせてくれ。酸塊とやらが行動をしてくれなければこのように会話をすることも意識が芽生えることも、そして空穂と再び会うことなどあり得なかっただろう。感謝している』


 三者三様に私のことをフォローしてくれます。私にはこの事務所の人たちだけなのです。こんなにも優しくしてくれるのも、優しくされるのも。

 来栖さんのお願いで行ったことですが、なんだかんだ言い訳を並べつつも私はこの事務所の人のお役に立ちたいと思って行動していたのでしょう。私の数少ない願いはこの事務所の人たちと長く共にいられること。

 ゲティさんは私に対して親からの愛を知らないと言っていました。それは確かです。それでも今の皆様からは親とは別の愛を確かに感じることが出来ます。


 フクロウさんが空穂さんに執着するのも分かるような気がします。与えられた愛に対して、無意識にでも何か行動を起こそうとしてしまう事こそが愛に対しての恩返しなのでしょう。

 願わくばその愛が儚く散ることがないように。



「そういえば君は一体どうやって外に出たの?」


『普通に窓から出たが』


「窓開けられたの?」


『いや、窓が開きっぱなしだったからそこから出入りをした』


 頭を抱えて「鏑木……」と呟くゲティさん。

 前言撤回。空穂さんには防犯意識が全くなかったみたいです。

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