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魔術会社のオカルト怪奇譚  作者: 人鳥迂回
その呪いは誰が為に

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その願いは徒花のようにep7

 今回の件を報告書にまとめて提出するのは私の役目になりました。色々な事が起こったため纏めるのは苦労しそうですが社長曰く「後々分かればいいから適当でいいよ」とのことなので簡単にまとめることにします。


 昨日の出来事ですので記憶が鮮明な内に書くとしましょう。


 まずは空穂さんが酔っ払いに首を絞められ殺されました。その遺体はこの街の川に遺棄されて明日発見され、犯人はすぐに捕まったとのことです。そこから何故か空穂さんは幽霊になりました。これ以降のことは今回の件とは関係ないため省略してよさそうです。


 今回の愛美さんからのお願いは空穂さんにある呪いの残滓の解明。

 

 それを解き明かすために空穂さんの家に行き、部屋を除くと動くフクロウのぬいぐるみが居りました。

 そのフクロウは空穂さん、又は穂波さんの願いにより何らかの意思を持ち空穂さんを見守っていました。空穂さんが殺されてしまったことにより守るという契約は反故にされ、「守る」という願いから「守る」という呪いへと変化してしまったのです。空穂さんから感じた呪いの残滓は変化した物が双方に残っていたからでしょう。


 社長さんの魔術とゲティさんの魔術によりフクロウさんと会話をしてみると詳細がわかりました。

 

 空穂さんが不用心にも開けていた窓からフクロウさんは飛び出し、犯人を殺害し、部屋に何人たりとも立ち入らせないように守っていました。守るという呪いをただ全うするためだけに。

 

「一体、今回の件は何を導いてくれたのでしょう。愛美さんのやることなすこと全てに意味があるとは思いませんが重い仕事だった事もあって何かしらの意味を持つと信じたいですわ」


 報告書を部屋で書きながら独り言ちます。当然ながら部屋には私一人。物も沢山置いてあるわけではなく、ただ寝たり身支度をするだけの部屋。基本的には社長さんのいる事務所にいることが多いため案外この部屋にいる時間は長くありません。そんなに頻繁に外に出ることもありませんし。


 私が報告書を書いていると廊下を歩く足音が聞こえます。誰かの話し声も同時に聞こえてきますが聞こえてくる足音は1人分。

 調さんとゲティさんが仲良く話しながらここに来ることは無いですし、あの2人に仲のいい友人がいるとも思えません。私にも友人は居ないのですし、あの2人にもきっと居ないでしょう。

 1人分の足音から2人分の声、つまりは空穂さんと愛美さんが事務所に来たということです。


 私は一旦ペンを置き、椅子から立ち上がり事務所へ向かうことにしました。


「おっと」


 立ち上がった私は少しよろけて、机に手をついて事なきを得ます。長時間椅子に座っていると立ち上がった時に足の感覚が普段と違うように感じることがあります。人前ではこのような姿を見せないように気を使っていますが一人の空間だと気が抜けてしまうのかもしれません。

 背中や腕の凝り固まった筋肉を解すため大きく伸びをして深呼吸を行います。

 人前に行くのでしっかりと準備をします。人に直接触れられないような服をいつも着ていますが私もこの格好が嫌いではないため、肌を見せない服が多数あります。折角なので可愛い服を着たいのは私に生きる希望があるから。

 服を着て、身だしなみを整え、しっかりと嵌め込み、私は部屋から出ます。

 事務所から絶叫の声が聞こえてきたため少しだけ早歩きで。


・


「えーーーーーーーー!喋るのーーーーー!」


『う、うむ』


「空穂ちゃん声が大きいよ」


「昼間とは言え近所迷惑だって」


「空穂ちゃんの声、普通の人に聞こえないのに近所迷惑とかあるんですか?」


「一階にいる占い師の人がクレーム入れてくるかもしれないでしょ」


「ゲティさんじゃないですか」


 事務所の扉を開けてまずに目に入ってきたのはフクロウさんを乱雑に撫で回している空穂さんとそれを窘める社長さん。その2人をソファで座りながら見ている愛美さんといういつもの構図。フクロウさん以外いつも通りの日常でした。


「おはようございます」


「あ、酸塊さん。おはよう」


「「おはようございます」」


 私の挨拶に対して3人も挨拶で返してくれます。私はソファの定位置に座り空穂さんの方を眺めます。

 

 昨日はあの後解散となりましたがフクロウさんをどうするか少しだけ話し合いました。その結果『特に害がなさそうだからそのままで』という結論になりました。つまり、魔術を掛けたまま事務所に放置というとんでもない結論になってしまったのです。何故かゲティさんと調さんも早く帰りたいからなのか同意を示してあれよあれよと言う間に皆帰っていきました。

 何かあったらゲティさんが使役して止められるから大丈夫だとは思いますし、社長さんは停止のルーンを解き、そのかわりに守護のルーンを刻んでいました。「守る願いから生まれてるし相性いいでしょ。なんならこのまま色んな魔術盛り込んで魔術キメラにでもしちゃう?」などと冗談言う始末。

 まだ出会って間もないフクロウさんのことを軽く見すぎている気もしましたが責任は社長さんにあるので私も部屋に戻りました。


 そして何事もなく今日を迎えられたのです。


「そういえば調さんは何処にいますの?」


「なんか気になることがあるらしくて外に出てる。すぐ戻るってさ」


「珍しいですわね。こんな暑い中1人で調べものなんて」


「意外と真面目なんだよあの人」


 そんなことを話しているとフクロウさんを抱えた空穂さんが席に座る愛美さんにフクロウさんを持たせています。当の空穂さんは自分の定位置である愛美さんの後ろ側へ回り込んで抱きついていますね。


「この子、名前なんて言うのー?」


「元々空穂ちゃんの持ち物だし名前なんか付けたりしてないの?」


「小さい頃だからなー。どうせだから名前つけちゃおー」


『儂はどちらでもいいが』


「わし?フクロウなのに?」


 愛美さん失笑。私はチラリと社長の方を向くと「やっぱり気になるよね」と言いながら腕を組み首を縦に振っていました。この2人は意外と似た者同士なのかもしれません。勿論悪い意味です。


「社長ー。なんか名前いいの思いつかない?」


「フクロウだし漢字で「福」「郎」でフクロウとかは?」


 3人とも社長から目をそらし、会話を続けます。


「名前どうしようかー?」


「八重さん何かありますか?」


「いえ、こういう機会が今まで無かったので……」


「あれ?僕の案却下?」


 社長さんのものはあまりにもネーミングセンスが無さすぎました。フクロウというのは家の守り神として玄関に置物が飾られることがあります。フクロウをもじって「福籠」と福を逃さない意味であったり、「不苦労」で苦労をしないなど縁起を担いでいます。

 知ってか知らずか社長さんもそのような名前を付けようとしていましたが仮にも女の子の持ち物にあのような名前を付けるのは可哀想です。自分の名前に対してコンプレックスのある社長さんなら分かってくれそうなものですが。


「フクロウに関する話とかなんか知らないー?」


「ヨーロッパでは森の賢者と呼ばれているそうですわ」


「それ知ってます。ミネルヴァとかアテナとかの肩に乗ってるフクロウから来てるんですよね」


 交易や芸術の守護神ミネルヴァはローマ神話、アテネの守護神アテナはギリシャ神話なので厳密には同じものではないのですがここで訂正するのは野暮でしょう。

 確か日本でもアイヌの方では村の守り神ともされていて格式の高いフクロウ送りなる儀式にも使われていたと聞いたことがあります。

 こう考えてみると「守る」ということはフクロウにとって縁の深い言葉だったのでしょう。


「んー。もう良くわからないしフーちゃんで!」


『うむ。空穂が決めたのならばそれでよい。儂のことはフーちゃんと呼んでくれ』


「それでいいんですか……」


「ま、まぁかわいいですし良いんじゃないですかね?」


「フーちゃんの中にはゲティのストラスも入ってるからね」


 結局フクロウのぬいぐるみ改めフーちゃんさんは空穂さんの命名の元、この事務所というよりは2人の元へと引き取られることが決まったのでした。

 大きな眼帯の少女に守護霊の少女、そしてフクロウのぬいぐるみ。見る人が見れば異様な存在に思えそうですが大丈夫なのでしょうか。大きさ的にストラップと言うには大きいですし、持ち歩くというのは難しいでしょう。大きめのリュック等には余裕で入りそうですし、その辺は愛美さんに任せましょう。


「ただいま。ちょっと調べ物してきたら面白い事分かったぞ」


 ノックをした後、事務所に入ってきたのは調さんでした。額に汗を浮かべている姿から外に行っていたのは間違いないでしょう。片手にはペットボトルを持っているので水分補給を忘れている心配はなさそうです。


「おかえり。面白いことって何?」


「確証はないが、鏑木が力を持つ幽霊になった理由だ」


 社長さんも愛美さんも真面目な顔になり調さんの方へと視線を向けますが空穂さんだけは「わたしー?」等と自分を指差してから、その指をフーちゃんさんの身体に突き刺して遊んでいます。貴方のことですよ。


「それって」


「ま、推論だし身構えなくてもいい。それにもう終わったことだ」


 戻ってきた調さんが座れるように私はソファー端の方へと体を寄せます。1.5人分の隙間が空いたところへ調さんを誘導して座ってもらおうとしますが、調さんは中々座ろうとしません。


「どうかしましたの?調さん、座ってくださいな」


「あー、なんかすまん。汗臭かったか?」


 特には何も感じませんが一体どうしたのでしょう。


「調さん、別に座って大丈夫だよ。酸塊さんの癖みたいなもんでしょ?人と距離とるやつは。調さんが汗臭くて避けたわけじゃないから安心しなよ」


 確かに、汗をかいている人が座る時に分かりやすく席を離すのは何かしらの不快感の訴えと捉えられてもおかしくはありませんでした。昨今ではスメルハラスメントという言葉もあるくらい匂いには敏感になっているのでしょう。


「すみません。そのような意図は無く、ただお疲れのようですし座っていただきたくて」


「いや、俺こそ悪かったな。有り難く座らせてもらう」


 そう言って調さんはソファに深く腰掛けました。


「それで鏑木が幽霊になった理由だが、不死川に浸けられたまま放置されていたことが原因かもしれない」


「詳しく」


「社長は知っていると思うがこの街には龍脈がある。龍脈は川の流れのようにこの街に流れているが、そもそもあの山自体が力を持っている。その山から流れ出た水があの川にも流れているんだ。そしてあの川は龍脈の上を流れている。その龍脈の上に異物があったら?」


「その遺物で流れが悪くなる」


「そうだ。俺たちは経験してるだろ?すぐに鏑木の遺体は退けられたから遺物にはならなかったが、龍脈というか直接川の水に半日以上魂が触れていたと仮定すると、その魂は何かしらの力を纏っていてもおかしくはない、と俺は考えている」


「えっとー。難しくて良くわからないんだけどー」


「空穂ちゃんが死んだ川がスーパーリバーでそれに触れたからスーパーうつほちゃんになったって感じ」


「なるほどー?」


「それでは空穂さんが今の状態になっているのは偶然の産物と言うよりも奇跡ということでしょうか?」


「そういうことだ。朝、磐梯から電話があってな。お前たちがそれを聞いてきたことを俺にも教えてくれたから気になって調べてきたってわけ。朝から疲れたぜ」


 そんな風に呟く調さんの顔には疲労は見えるものの後悔などは微塵も見えずスッキリとした顔をしていました。調さんもなんだかんだ2人のために動くのを苦に思わない人のようで嬉しいです。

 調さんの仰ることが正しいとは限りませんが可能性としては存在しています。神の力に触れた霊魂が地縛霊や悪いものにならず、人間のように生きていける。それは人知を超えている奇跡のようなことです。


 ただその結果が空穂さんの今の状態。他の人は成長し、老いて死んでいく。それを進まない時の中で見続けていかなければならない空穂さんにとっては幸せなのでしょうか。

 瞬間的には幸せに感じているのかもしれませんが今後どのように感情が変化していくのか分からないため不安にもなります。

 ただ皆と一緒に過ごしていたいという私の願いが咲いてもあとに実を結ばない徒花のようにならないことを今はただ祈るばかりです。


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― 新着の感想 ―
空穂の呪いの謎。子持ちということもあって、空穂の母視点でも感情移入してしまっていささかヘビーでした。 特に、 『これからも大好き』 カレンダーの「お母さんの誕生日を祝う」 は刺さりました。 血で汚れ…
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