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それは黒くて重かった  作者: D.K.B.Y.
第四章
28/45

合宿場に着いたけど

遅くなって申し訳ありません。今後の精進に期待して貰えると嬉しいです。

 そこは注意深く覗き込まなければ山や森に囲まれているだけで目立つ人工物は無く、街道から近いが普段は人の訪れる場所では無いので、聞こえてくるのは早起きの鳥の鳴き声や風に揺れる木々のざわめきくらいであった。早朝の日の出前であったが周囲は薄明るくなってきており、辺りを見渡す分には充分な光量が有ったので、その場で身体の各所を動かして柔軟をしている人影が見下ろす視線の先には、高い崖に周囲を囲まれた町一つ分もある広大な空間が見えていた。そこには湖を中心に、草原や岩場や林等の様々な地形が意図的に配置され、その隙間を埋めるように宿泊施設らしき大小の建物が、保護色に似せて分かり難くあちらこちらに建てられている。その人影が立っている場所は周囲の崖の上ではあるが、そこが高いのでは無く、湖等が掘り下げられた場所に有ると言った方が正しい。そこは簡単に出入りが出来そうもないくらい地面より低くなっているが、壁の高さに対して面積が比較にならないくらい大きいので、太陽が昇ればほとんど全てが照らされそうなので陰気な印象は受けなかった。

「ん?」

見下ろす木々の間を何かの影が横切った気がした人影は、崖の(きわ)まで進んで覗き込むと、自分の見たモノが気のせいだったのかを知る為に下の様子を眺め始める。

 タッタッタッ

その背後から軽い足取りで近付く足音が聞こえて来たが、気が付いていないのか警戒する必要も無いのか、崖の端という危険な場所であるにも関わらず横切った何かを確認しようとする作業を続けていた。

「ふわぁぁぁ、どうかしたの?ダスク」

「ん?何かが居た様な気がしたんだけどな。おはよう、黒炎。珍しく早いじゃないか」

まだ少し崖の下を確認する事に未練を感じながらも覗き込んでいた身体を起こして振り返ったダスクは、鍛錬の為に完全装備をしているので外からでは分からないが、笑みを浮かべてからかうように黒炎に声を掛ける。そんな口調に()で気付かなかったのか、それとも眠くて頭が働いていなかったのか、紅い瞳を眠そうに細めながら口の奥まで覗けるような大きな欠伸をしているさまは、おそらく後者だったのかもしれない。

「なんか目が覚めちゃって。昨日の夜からしゃべるのを我慢してたからかもね」

「まあ、他の生徒も居たからしょうがない。でも昨日はしゃべる間もなく食べてただけだろ」

「あははっ、学院も(いき)なコトをするよね。あの肉はおいしかったな~」

「確かに美味しかった。質の良い肉だったんだろうな」

味を思い出して尻尾を機嫌良くブンブンと振っている黒炎とそんな事を話しながら、ダスクは昨日の夜の出来事を思い返していた。


 既に陽も落ちて辺りは夜の闇に閉ざされていたが、所々に(とも)された松明の光に照らされたそこだけが、大自然の中で一時だけでも人の領域とも言える空間を形作っているかのようで、その場に居る者達に表面上はどうであれ内心の安堵をもたらしていた。

「結局、全員期日までに到着したみたいだな」

周囲に居る者達の人数を簡単に数えていたダスクは、誰に聞かせるという風でもなくそう呟く。

「そうみたいね。ダスクが到着する少し前に先生に聞いたら、そうだって言ってたわ。

 貴女(あなた)も近くに居たから聞いてたわよね、ソラ?」

「くっくっくっ、その分無茶をしてたみたいだけどな。

 オレ達とは違って野宿を避けてたみたいだからな。その日ごとに進む距離が変わってたらしいぜ。

 お前が来る前、まだ明るい時に見たけど、みんな疲れた顔でしゃがみ込んでいたからな。

 あれは傑作だったよな、ローラ」

「そんな事言っちゃ駄目よ。野宿を一度もした事が無ければ、出来るだけ避けようとしちゃうわよ」

ここ数日で疲労が溜まっていたはずのソラリスだが、自分以上に疲れている他人(ひと)の様子を見て自分の事は棚に上げたらしく、力強さの戻った金の瞳を悪戯(いたずら)小僧の様に輝かせる。その様子を苦笑しながら見るフローラルは、同じ学院の生徒達全員を友人だと思っている彼女らしく(かば)うように(たしな)めていた。

「ふっ、我らは無理無く計画的に来れたのだから、少しは言っても構わんと思うがな」

「もぅ、そこは(たしな)めないと駄目でしょ、ウィリアム。

 (まが)りなりにも、貴方は私達のチームのリーダーなんだから」

「うむ、そういう事は不謹慎であるぞ、ソラ」

「うわっ、調子イイヤツだな、お前って……」

フローラルの言葉であっさりと翻意したウィリアムを呆れた顔で見るソラリスであったが、当のウィリアムはそんな顔をされる理由が分からずに不思議そうな顔になっており、学院から遠く離れたこの場所でも普段と変わらぬ会話の雰囲気に、それらを眺めるダスク達は旅の疲れも忘れて思わず笑顔になっていた。

 パンパンパン

その時、突然(てのひら)を強く打ち合わせる音が聞こえてきたので、ダスク達やその周囲の生徒達は会話をやめて音の聞こえて来た方へと視線を向ける。視線の先には教師のアーノルドが仁王立ちしており、鋭い碧瞳で生徒達を見渡して私語していたり余所見(よそみ)をしている生徒の姿が無い事を確認してから頷いていた。

「これからの予定を伝える前に一言言わせて貰おう。

 おめでとう。ひとまず全員が揃って期日までにこの場に辿り着けたのだからな。

 毎年、幾人かは日没に間に合わない事もあったのだが、今年は多少優秀なのかもしれないな」

珍しく褒める言葉を掛けてくるアーノルドに、生徒達は嬉しそうな顔になるが、続けた言葉に表情を一変させられる。

「それで、これからの予定なのだが、今晩はここで野営をしてもらう」

 ザワザワザワ

すぐそこに宿泊施設らしき建物が有る事を見ていた生徒達は、予想外の言葉に不満そうな顔になって近くの者と話したり、アーノルドに向けて質問の言葉を投げかけるが、ダスク達はここに来るまでに野宿を何度もしているので、単純に理由が分からずに不思議そうな顔になっていた。

「静かにせんかっ!」

アーノルドの一喝に生徒達はピタリと口を閉ざし、その場で聞こえるのは松明の燃える音くらいになる。

「野営の道具は持ってきているはずだな。持参するように書いておいたからな。

 ほとんどの者が使っていないようだが、書いてあったという事は使う可能性もあるという事だ。

 とにかく、これは決定事項なのだから不平不満はいっさい受け付けない」

こういう時のアーノルドは何を言っても考えを変えないと知っているので、生徒達は顔を見合わせて不承不承という感じで受け入れたようである。

「一つ言っておくが、下の建物には強力な結界が張ってあるから抜け駆けしようとしても無駄だからな」

その言葉に、それを考えていたらしい数人の生徒達が顔をしかめるが、アーノルドは気付いていないフリをして話を続ける。

「その代わりというものでもないが、今日だけはお前達の為に夕食を用意した。

 ワインも有るから一杯だけは許そう。それで英気を養って、明日からの合宿に備えてもらう」

普段の厳しいアーノルドからすると意外な提案だったが、考えてみると他の教師も居るし、ここに居ない学院長の発案かもしれなかった。野営は決定事項のようであるから、生徒達は気を取り直して食事を楽しむ事に決めたようである。そうしたから気付いたという訳では無いだろうが、いつの間にか良い匂いが漂ってきており、自分が空腹であった事にも気が付かされていた。

「まあ、話はここまでだ。

 各自料理をもらって好きなだけ食べたら、そのまま野営の準備をしてさっさと寝てしまえ」

生徒達の興味が食事へと移行した事に気が付いたアーノルドは、すぐに話を終わらせて解散させる。その途端、匂いの来る方向へと皆が歩き出すが、さすがは貴族の子女と言うべきか、走って行く者は居なかった。

「ボク達も早くもらいに行こうよ~」

鎧を前足で突付きつつ小声でそう言う黒炎にせかされるように、ウィリアムに荷物番を頼んでダスク達も他の生徒達と同じく食事を受け取りに移動すると、そこでは炭火の上でたくさんの肉や野菜が二種類の味付けで焼かれていた。シンプルだが美味しそうな料理に、すぐに幾つか並んでいる列の一つに並び始めるが、何故かこの列だけ他の列よりも進みが遅い事に気が付く。不思議に思ったが今から列を変えるのも億劫(おっくう)に感じたダスクは、もの欲しそうな黒炎の様子に気が付かないフリをしておいた。

「すみません、荷物番をしている者の分と、あとコイツの分も貰えますか?」

ようやく自分の番になったダスクは、料理に向けていた視線を黒炎に向け、相手も見ずに指し示しながらそう言うと、予想していた答えとは全く違う言葉が返ってくる。

「お疲れさまです、ダスクくん」

聞き覚えのある声に慌てて視線を向けると、そこには良く知っている人物がいつもの格好で立っていた。

「一週間ぶりですね、サフィさん。どうしてるのかと思ったら、先生達を手伝っていたとは」

「うふふっ、こういう仕事は得意ですからね。

 ソラ様と一緒じゃなかったから、この一週間は随分と休ませてもらっちゃったのよね。

 だから、自分から協力を申し出たのよ。そろそろ身体を動かしたくなっていたし。

 こういうのも職業病って言うのかしらね」

「はははっ、そうかもしれないですね」

一週間ぶりに見るサフィーラの笑顔は松明の灯りに照らされた銀髪に縁取られて一瞬輝いているようで、そういう事に疎いダスクも自分で気付いていなかったがその瞬間だけ鼓動が早くなっていた。もしかしたらこの列の進みが遅かったのは、使用人の格好をしているとはいえ異国情緒を感じさせる美人のサフィーラが配膳していたからかもしれない。

「ほー、そこまで休養バッチリなら、明日からコキ使っても大丈夫そうだな」

「あら、ソラ様聞いていたんですか?」

「何言ってんだ。オレがすぐ後ろに居るって分かってたくせに」

「うふふっ、そんな事無いですけど、もちろん明日からは普段以上にお仕えさせて頂きますよ」

「ちぇっ、何言っても全然こたえないんだもんな、サフィは」

そんな風に楽しそうに会話をしているソラリス達であったが、同じく後ろに並んでいたフローラルが身を乗り出して声を掛けてくる。

「えっと、早く料理を貰って下がった方がいいんじゃないかしら」

その言葉に後ろを見たダスク達は、少し不機嫌そうにこちらを窺っている生徒達の視線に気が付く。

「あらあら、駄目じゃないですか、ソラ様ったら」

「おいっ、オレだけのせいじゃないだろっ」

「料理は黒炎くんとウィリアムくんの分もでしたよね。……はいっ、どうぞ持って行って下さいな。

 お替り自由だから、足りなかったら取りに来て下さいね」

ソラリスのツッコミを見事にスルーしたサフィーラは、ダスクが希望した分の料理を器に盛ってくれる。酒が苦手なダスクはワインを断って大きな器を受け取ると、サフィーラに礼を言ってから待っているウィリアムの所へと戻って行った。

 料理は塩胡椒だけのものと、甘辛く味付けされたもので、食材の持ち味をそれぞれ引き出す味付けだったのでダスク達も含む生徒達のほとんどが追加を取りに戻っていくほどであった。フローラルが淹れてくれたお茶と一緒に心行くまで堪能したダスク達は、忙しそうなサフィーラに一言だけ声を掛けると、明日の為にさっさと野営の準備をして横になる。不寝番は今日だけは教師達がやってくれるという事だったので、安心して全員があっさりと眠りの世界へと落ちていくのであった。


 そして時間は次の日の早朝へと進み冒頭を経由する。


 日課の鍛錬を終えたダスクが黒炎と共に昨夜野営をしていた場所に戻ると、既に起きていたフローラルが湯を沸かしているところであった。

「おはよう、ダスクに黒炎。貴方達は早いのね」

「おはよ~、ローラ。ボクはついさっき起きたばっかりだよ」

「おはよう。早いかな?僕はいつもの鍛錬をやってただけだよ」

「よくやるわね~。はい、お茶淹れたから飲んで」

「ありがとう。身体を動かして喉が渇いていたから助かるよ」

「ありがと~。これ飲めば目も覚めそうだね」

嬉しそうに飲む黒炎を見ながら、兜を脱いで手拭いで汗を拭ったダスクは息を吹きかけて冷ましながら少しずつ飲む。その様子を笑みを浮かべながら眺めていたフローラルであったが、ふと何かが思い浮かんだらしく、ダスクへと視線を向ける。

「そういえば、今日って何をやるのかしら?」

「宿泊施設に入らなかったという事は、合宿場の敷地に入るところから何かやるのかもしれないな」

「う~ん、わかった!きっと掃除とかするんだよ。頻繁に使ってないと汚れそうだし」

「確かにそうかもしれないけど、掃除だけなら入ってもいい気がするわよ」

「そっか~、確かにそうだよね。ちょっとは自信があったんだけどな~」

色々な想像をして首を捻っている黒炎やフローラルを残して、ダスクは自分の荷物の所に移動して鎧を外すと、手拭いでまだ乾いていない汗を拭ってから服を着替えた。そうしているうちに起きてきたソラリスやウィリアムと朝の挨拶を交わし、手早くパンにチーズと野菜を挟んだだけの簡単な朝食を作って食事を済ませ、身支度を整えると合宿の始まりを待つ。

 それから間もなくアーノルドの集合の合図がその場に響き、昨夜話をした場所へと生徒全員が集まる。昨夜とは違い、アーノルドや他の教師達も装備を身に付けており、これから行われる事が容易なものでは無いと想像出来た。

「掃除じゃなさそうだね」

小声でそう言う黒炎に静かにしているように目で伝えたダスクは、話を始める為に一歩前に出たアーノルドへと視線を向ける。

「良く眠れたようだな。さっそくだが今日の予定を伝えるぞ。

 これから各チームごとに合宿場へと入って大掃除をしてもらう」

その言葉に、生徒達は不満が大多数を占める声を上げる。黒炎は驚きと予想が当たった嬉しさで尻尾を踊らせていたのだが、続くアーノルドの言葉にピタリと動かすのを止める。

「静かにしろっ、減点にされたいのか?

 大掃除と言っても、清掃ってわけじゃないぞ。

 現時点で合宿場に居る野犬(など)の人も襲う猛獣達を退治してもらう事になる。

 ここに追い込んだ野犬は近隣の村や町を襲う可能性があるから殲滅しなければならない。

 強化合宿が一年に一度と定められている理由は、短期間に何度もやる事が出来ないからだ。

 そうすると、野犬も学習してこの近辺に寄って来なくなるから上手く集める事が出来なくなる。

 広い範囲に分散されると人手も足りなくなって、野犬が増えるのを防ぐのが難しくなるからな。

 これも治安維持の一環になるから、お前達には真面目にやってもらうぞ」

一転して不満から戸惑いの声を上げる生徒達の様子を一通り眺めたアーノルドは、ダスクをはじめ幾人かは少しも動揺していない事を確認して内心で安堵する。ほとんどの生徒が命のやり取りをする実戦経験が圧倒的に足りていない中、少しでもいつも通りに動けそうな者が居るのは生徒達の命を預かる教師としては安心できる材料が増えるからである。戸惑いから不安に変わっていく生徒達を気にせずに、アーノルドは話を続ける。

「殲滅を開始したら各所に設置した結界で野犬等の区画間の移動は制限される。

 区画ごとに難易度は変わるのだが、その難易度によって宿泊施設のランクが上下する事にした。

 チームごとに区画を決めてやってもらうが、教師達は危なくなっても手を貸す予定は無い。

 自分達に合った難易度の場所を真剣に相談して選ぶ事を勧めるぞ」

頭を冷やす時間が必要だと思ったらしく、アーノルドは一旦解散を宣言し、生徒達はチームごとに分かれて荷物の場所へと戻ると、少ない時間で自分達の力量と相談して方針を話し合い始めた。

「しょっぱなから、なかなか大変そうな課題を出してくるじゃねえか、あの教師達」

「うんうん、ソラの言う通りだよ。最初に掃除なんて言うから、ボクも安心したんだけどな~」

「野犬だけならそれほど大変にはならないと思うけどな」

「ふむ、ダスクの力量ならばそうなりそうではあるな」

ダスク達も自分達の荷物の場所へと戻ってくると、普段通りに会話を始めるが、一人だけ深刻そうな表情でフローラルがその会話に割って入ってくる。

「ねえっ、みんなは何で平然としていられるの?

 野犬とはいえ、殲滅って言うからには全ての命を奪わなければならないのよ?」

平然としているダスク達の様子に、思わずという風に言葉が出てしまったフローラルであったが、すぐに後悔したような顔になってしまう。

「ご、ごめんなさい。あまりにもみんながいつも通りだから、つい……」

「いや、気にしてないよ。ローラの言っている事も正しいからな。

 僕と黒炎の育った村の周辺では魔狼が人を襲う事もあって、度々退治していたから慣れてるんだ。

 それに、自然の多い場所では人間が生きていく為にはそれが必要な事だと実感しているからね。

 ここでの事も、退治して減らしておかないと周辺で襲われる人が出てくるなら行うべきだと思う。

 本当に頭の良いボスが率いている群れは、もっと山奥を縄張りにしていて生き残るだろうけど。

 ソラとウィリアムにもそれぞれ反対しない理由があるんだと思うよ」

その言葉にソラリスとウィリアムも頷き、全く気にしていない事を伝える為に笑みを浮かべてフローラルと視線を合わせてもう一度頷く。

「ローラはそのままで良いと思う。そう考える人が居る事も必要だと思うから」

「そうだな。全員が同じ考えだと、仮に間違っててもそのまま突っ込みそうだぜ」

「うむ、ローラは変わらず優しいままでいて欲しい」

「みんな、ありがとう。でも、言い過ぎたらちゃんと言ってよね」

「あははっ、みんなおおげさだな~。仲間なんだから言いたい事を言えばいいんだよ~」

「ははっ、黒炎の言う通りだな。オレ達もあんまり難しく考えなくて良いんじゃねえかな」

「その通りだな。

 とりあえず、必要な事ではあるけれど、命を奪うんだという事を忘れないようにしよう」

ダスクの言葉に全員が真面目な顔で頷き、これから行う事について心を決めているようであった。

 それから少しして教師達からの集合の号令で集まった生徒達は、チームごとに呼ばれて教師に連れられて合宿場へと入って行く。とりあえず難易度の高い区画から始めて無理ならその都度難易度を下げていっても構わないらしく、ほとんどのチームが難易度の低い所から中くらいの所を達成して普通の宿泊施設を利用出来るようになったようである。生徒達はそのまま亡骸(なきがら)(ほうむ)る為に戻って来ないので、次第にこの場に居る者の姿が少なくなっていった。どうやらダスク達のチームは最後らしく、一番人数の多そうなチームが居なくなると周囲から生徒が居なくなり、少しだけ寂しさのようなものを感じていると、背後から誰かが近付いて来る足音が聞こえてきた。

「みなさん気を付けて下さいね」

ダスク達が揃って振り返るのと同時に声を掛けてきたのは、少し心配そうな表情になっているサフィーラであった。

「大丈夫だって。ダスクも居るし、それ以外のオレ達だってヘマなんかしないさ」

「ソラ様は特に心配なんですけどねぇ」

「へっ、ダスク以上に大活躍してやるぜ」

「あははっ、張り切りすぎて空回りしないようにね、ソラ」

「そうなのよね。さすが黒炎くんはわかってるわ」

「うぐぐ、黒炎までそういう事言うなよな~」

「はははっ、大丈夫ですよ、サフィさん。ソラだって腕は悪く無いんですから」

「そうですか?何かあればソラ様の事はよろしくね、ダスクくん」

「了解です。ソラの弓の腕には期待してるからな。こういう時の遠隔攻撃は頼りになるし」

「おうっ、任せろ」

「基本的に僕とウィリアムがみんなを守りながら、ソラが攻撃していけばいいかな?」

「うむ、それが無難で確実だと思うぞ」

「私は攻撃出来ないから、して欲しくは無いけど怪我した時は治療は任せてね」

「ボクは応援してるよ。がんばれ~って」

「うふふっ、みんな大丈夫そうね。変に緊張してるヒトは居ないみたいだし、安心したわ」

「心配してくれありがとうございます。……あ、呼んでるので行って来ますね」

「いってらっしゃい。頑張って下さいね」

笑顔で手を振るサフィーラに見送られ、呼びに来たアーノルドのもとへと足早に向かう。そこから少し歩くと、合宿場を囲む崖が裂けている場所が有り、下へと続く道が出来ているのが見える。そこを下っていくと、ほとんどの場所の退治が終わっているらしく、おそらく結界だと思われる薄い光に覆われている場所は、数区画しか残っていないようであった。そのままアーノルドに案内されて辿り着いた場所は、宿泊施設としては立派な建物の屋根が、木々の奥に見えている広い区画であった。

「ここが一番難易度の高い場所だが、どうする?」

「ここに挑戦したチームって居るんですか?」

「ほとんどは見てやめたな。挑戦したのはお前達の一つ前のところだけだ。

 まあ、すぐに諦めてここより難易度の低い場所に変更していたが」

「そうですか……僕達はどうする?」

アーノルドと話していたダスクは、振り返ってチームメイト達に聞いてみるが、顔を見合わせてから再びダスクへと視線を返してくる。

「ダスクが大丈夫だと思うならやりましょう」

「オレもローラの意見に賛成だ」

「うむ、こういう時の判断は任せられるからな」

その言葉に少し考えたダスクは、黒炎へと問うような視線を向ける。

「数は多いね。それに一つだけやっかいなのが居るみたいだよ。

 まあ、ダスクだったらどれを相手にしてもダイジョブだと思うけどね」

「それなら大丈夫かな。それじゃあ、ここにしようと思うけど、いい?」

問いに全員が頷きを返してきたので、ダスクはアーノルドへと視線を向けて頷く。

「とりあえず頑張れとは言っておくが、途中で無理だと思ったらすぐに戻って来るんだぞ」

「「はいっ」」

左前にダスク、右前にウィリアムで中央に少し下がってソラリスとフローラルと黒炎が並ぶと、各自武器を構えて結界の境界を越える。見晴らしの良い場所を進みたいが、木々の間へと入って行かなくてはならなかったので、すぐにアーノルドの姿が見えなくなってしまった。フローラルは不安に思ったのか何度か後ろを振り返っていたが、心配した黒炎が身を寄せてきてその体温を感じると落ち着いたらしく、笑みを浮かべて黒炎の頭を撫でていた。しばらくその感触を楽しんでいた黒炎であったが、急に立ち止まり目を閉じると何かを察したかのように叫んだ。

「上だよっ!」

同時に前方から数匹の野犬が襲ってくる。その声に遅れる事もなく動き出したダスク達は、対処の難しい上をダスクが、前方をウィリアムとソラリスが迎撃する。ダスクは木の上からの二匹を盾で弾き、一匹の急所を大剣で突いて即死させると、弾いた二匹が着地する寸前に大剣で薙ぎ払う。手応えから骨を砕いたのが分かったので、それ以上の攻撃は無いと判断して前方へと視線を向けると、そこには長剣で切り伏せられたり矢を急所に受けた数匹が地面に横たわっているのが見えた。怪我を受けた者が居ない事に安堵したダスクは、実際の場面では大丈夫か気になったのでフローラルの顔を(うかが)うが、それに気付いたフローラルが先回りして口を開く。

「全然平気っていうわけじゃ無いけど、私は大丈夫よ。それよりみんなに怪我が無くて良かったわ」

「この先もっと激しくなると思うけど、身体はすぐに動けるようにしておいた方がいい」

「ええ、わかっているわ。攻撃出来ないけど、攻撃を避けることは出来るからね」

「危なかったらボクが守ってあげるよ、ローラ」

「ありがとう、黒炎」

その様子を見て大丈夫そうだと思ったダスクは、兜の中で笑みを浮かべながらウィリアムを促して先へ進み始める。それから木々を抜けるまで襲撃が無かった事に首を捻りつつ、宿泊施設の建物が見える場所へと出た。建物は現在立っている所から石段で登った場所に建てられており、高所を取られたら配置としてはうまくないかもしれなかった。

「回り込んだ方が良いか……」

そこまでダスクが言ったところで、周囲から野犬達が姿を現す。距離を取って回り込んでいたらしく、黒炎に気付かれる前に周囲を囲んだ野犬は、何故かすぐに襲ってくる様子が無く、こちらの逃げ道を塞いで唸り声を上げる。更に建物の前にも野犬が現れるが、身体の大きい野犬に挟まれるように中央に現れたのは野犬ではなく、倍以上の大きさの猛獣であった。それは赤茶色の毛皮で分厚い筋肉を覆った熊らしき獣で、唸り声を上げながら口から(よだれ)を垂らしていた。

「むぅ、あれは……まさか、狗熊(いぬぐま)か?」

「知っているのか?ウィリアム」

「ああ、熊の中でも珍しい奴でな。野犬を操って狩りをする、やっかいな猛獣だ。

 あれは絶対に退治せねばならん。毎年被害報告が多いのだ」

「なるほど……っく、攻撃してきたか。一箇所に固まるんだっ」

後方から襲ってきた野犬を弾き飛ばしたダスクは、黒炎達が身を隠せるように盾を地面に突き立てる。その衝撃に一瞬怯んだ野犬達であったが、何かに合図されたかのように躊躇(ちゅうちょ)無く再び向かって来る。ダスクは大剣を両手で構えて振るいながら一度に複数を薙ぎ払い、ウィリアムとソラリスは防御と攻撃で協力して確実に倒していくが、数が多いので前衛をするウィリアムはあちらこちらに細かい傷を負っていく。ダスクもウィリアムの援護をしたかったが、隙間を作るとそこに突っ込んでくるので動き難くなっていた。どうしようか悩むダスクであったが、ふと視界の端に考え込むような黒炎の姿が飛び込んでくる。

「どうしたんだ?黒炎。何か変わった事でもあったか?」

「うん。さっきから高い音がうるさくてね。これってなんだろうって考えてた」

「高い音?何にも聞こえないけど」

盾の影からそれを聞いていたフローラルは何かを思い付いたらしく、野犬を迎撃するダスクの背中へと声を掛ける。

「それって犬笛に似た何かじゃないかしら。

 人には聞こえない笛の音を犬の訓練に使うって聞いた事があるわ」

「なるほど。それと同じ原理で野犬を操っているんだな。

 一瞬でもそれをどうにか出来れば、その隙にボスの狗熊を倒すんだけど……」

向かってくる野犬を弾きながら、ダスクがそう呟いていると、それを耳にして何かを考えていたソラリスがウィリアムに何かを(ささや)いてからダスクのすぐ後ろへと近付く。

「オレがどうにか出来ると思う。少しだけ時間をくれ」

「わかった。僕とウィリアムで守りを固めるから、その間に頼む」

大きな声でウィリアムにも聞かせると、更に盾の近くに固まってもらってウィリアムの担当を出来るだけ減らし、ダスクは倒すよりも弾く事に集中して時間を稼ぐ。ソラリスは矢筒の中から矢羽根の色の違う物を選んで抜き出すと、その(やじり)を握って何かを呟き始める。チラリと見えた鏃は金属では無く、透明な宝石の様な物で出来ていた。握った手の隙間から緑色の光が漏れて消えたところでソラリスが手を開くと、出てきた鏃は緑色に染まってまるでエメラルドに変わったかのようであった。

「すごく綺麗だな~。それって何なの?ソラ」

魔法矢(マジックアロー)だよ。説明は後だ、準備は良いか?ダスク」

「ああ、いつでもいいぞ」

「撃った後に突っ込んでくれ。……いち、にい、さん、くらえっ!」

ソラリスが矢を放った瞬間、踏み出す足に力を込めたダスクは、目の前で矢が驚きの変化を起こすのを目にする。矢が通った場所に風が巻き起こり空気を掻き混ぜ、それと同時に高い音が辺りに響き渡る。野犬達は音に苦しむようにしきりに首を振り、ついでに黒炎も音がうるさいらしく前足で耳を塞いでいた。その好機に飛び出したダスクは、一気に野犬達の間を抜けて石段を登り、狗熊へと肉薄する。それに気が付いた狗熊は、立ち上がって前足を振り上げると、勢い良くダスクへと叩き付けてくるが、ダスクは慌てずに籠手で受けると、大剣を急所の眉間へと突き立てた。

 ドサリ

力無く地面に倒れ伏した狗熊の姿に安堵したフローラル達の周囲では、先程とはうって変わって落ち着きが無くなった野犬達がどうするか決められずにいた。その場の全てが動けなくなっているかと思えば、すぐに動き出したダスクが手当たり次第に野犬を薙ぎ払っていく。それにハッとしたウィリアムとソラリスは、不利だと気付いた野犬達が逃亡しようとして隙だらけになったところを確実に倒していく。一方的で血生臭い場面にフローラルは目を閉じてしまうが、すぐに開いて自分達のやっている事から逃げないように直視し、内心で謝罪の言葉を掛けていた。

 その場の野犬を一掃する事が出来たので、ひとまずフローラル達にはここで傷の手当てをしながら待っててもらい、ダスクは殲滅する為に黒炎にまだ残っている野犬の気配を探ってもらう。その案内で全てを終わらせたダスクと黒炎が建物の前まで戻って来ると、フローラル達は緊張感が切れて疲労がズッシリと肩に圧し掛かっているように(うつむ)いていた。大きな怪我は無くても傷の数が多かったウィリアムは包帯で身体中が覆われていて、まるで包帯を着ているかのようであった。

「大丈夫か?ウィリアム」

「うむ、大した事は無い。ローラの手当ても適切であったからな」

「とりあえず入口に戻ろう。ここに居ると落ち着けないだろうし」

「そうね。さすがにこの数だと血の(にお)いがキツイわ」

「そうだな。魔法矢も回収したし、一旦外に出たいぜ」

「ボクもそれがいいと思うよ。ダスク以外は顔色があまり良くないからね」

頷き合ったダスク達は、足取り重く入って来た場所へと戻って行く。木々を抜けると、分かれた場所から少しも動かずにアーノルドが待っていた。その姿に、フローラル達は安堵して足を速めると、結界の外側に出て思わず地面に座り込んでいた。

「やっぱりここはやめておくか?」

「いえ、終わりました。全部の(とど)めは確認していませんが、動けるのは居ないと思います」

「この短時間で終わったか。さすがだな、ダスク」

思っていたほど時間が経っていないらしく、途中で戻って来たと思ったアーノルドであったが、殲滅が終わっていたと聞いてもダスクの力量なら不可能ではないと分かっていたので驚かなかった。

「野犬等の亡骸は敷地の奥に穴を掘って葬ってやってくれ。

 ここは数が多いから大変だとは思うが、出来れば急いで終わらせてくれ。

 この後、生徒達が受け持たなかった区画を全員でやる事になっているからな」

それだけ言うと、アーノルドはこの区画の結界を解除してあっという間にダスク達の視界から消えて行った。それを見送ったダスクは、疲れているチームメイトの様子を見て口を開く。

「とりあえず僕がやってるから、大丈夫そうになったら手伝ってくれ。

 この後もやる事があるんだから、顔色が良くなるまで休んでいた方がいい」

そう言うと、ダスクは黒炎を促して敷地へと再び入っていく。その背中を見送ったフローラル達は、自分達の不甲斐なさに溜め息を漏らしていた。

 歩きながら亡骸を回収していったダスクは、合宿場の周囲を囲む崖の近くまで来ると、大剣を使って地面に穴を掘っていく。次々と土が舞い上がり脇へと山を作っていくと、穴は必要以上の大きさになっていた。その様子を面白そうに眺めていた黒炎は、まるで最初から大穴が有ったみたいだなという感想が浮かんでいた。穴の底に木の枝や草を敷いてから回収してきた亡骸を丁寧に並べたダスクは、残りの亡骸の場所があやふやだったので、殲滅時に一緒に居た黒炎にも手伝ってもらう。歩き回って回収を終えて戻ってくると、穴を掘った場所にフローラル達が揃っていた。残りの亡骸を穴に丁寧に並べたダスクが土を掛け始めると、フローラル達もそれを手伝い、その隣で黒炎も後足を使って土を掛けていた。埋葬が終わってダスクが手頃な石を上に載せて墓石(ぼせき)とすると、その前に()んできたらしい花をフローラルが供える。

「自己満足だと思っても、やっちゃうわね……」

「悪い事じゃ無いよ。僕だって手を合わせずにはいられないし」

そう言うダスクと同じく手を合わせていたソラリスとウィリアムもフローラルに向けて頷く。謝罪や冥福のいずれかをそれぞれが祈った後、ダスク達は急いでアーノルドの戻って行った方へと向かった。

 どこに集まるのか聞いていなかったが、崖の上に続く道まで来たところで、その手前の広場に生徒達が集まっているのが分かった。慌てて駆け寄ったダスク達は、何故か他の生徒達の注目の的になっているようで、列の端に並んだ後も居心地の悪さを感じていた。理由が気になって近くに並んでいた友人らしき女生徒に話を聞いていたフローラルが戻ってくると、その顔には納得したような表情が浮かんでいた。

「答えがわかれば、確かにそうだなって納得出来るわね」

「早く教えてくれよ、ローラ。理由がわからずに注目されるのは嫌いなんだよな、オレ」

「ふふっ、簡単な話よ。私達が難易度の一番高い区画を成功させたからね。

 一番人数の少ないチームなんだから、驚かれるのも当然だわ」

「なるほどな。それは確かに注目されそうだ。難易度の事なんてすっかり忘れてたぜ」

そんな話をしているうちに教師達が生徒達の前に並び、アーノルドが一歩前に出てきたので生徒達は口を閉ざして注目する。

「まだ終わっては居ないが、ひとまずは皆ご苦労だったな。

 全チームが問題無く課題を達成したので、泊まる場所の無い者が出なくて安心した。

 今回は安全を確保するという人間側の都合であったが、命を奪う事の意味を各自で考えて欲しい。

 自分達の命を守る為には、他の命を奪わなければならない時も有るのだと覚えておけ。

 命を奪う事に慣れろという訳では無い。自己中心的な理由や理由無く命を奪うのは害悪なだけだ。

 必要な時に躊躇(ためら)っていれば仲間や大切な者を守れない事も有るのだ。

 お前達にはそういう経験をして欲しくは無い」

その言葉に色々思うことが有ったのだろう、生徒達は複雑そうな顔や真剣な顔でアーノルドへと視線を向けていた。

「それでは残りの区画をやろうと思うが、全員と伝えたが各チームから一人か二人だけでいいぞ。

 その他の者は自分達の担当した区画の建物へ荷物を運び入れていろ。

 建物の結界を解除する方法は教師に聞けば分かる。

 今日の課題はこれで終了だ。建物内の清掃も含め、今日中に合宿を行う体勢を整えろ。

 以上だ、速やかに動け」

一歩下がって他の教師達と話し始めたアーノルドの姿を見送った生徒達は、各チームごとに集まって役割分担を話し始める。ダスク達も隅に固まって相談というよりは、確認という感じの話になる。

「それじゃあ僕が残りの区画の掃除に参加してくるから、みんなは荷物とかよろしく頼む。

 済まないけどウィリアムはそっちの力仕事をよろしく」

「うむ、心得た」

「いいの?ダスクにばっかり大変な事やってもらっちゃって……」

「気にしないでいいって。前にも言ったけど慣れてるし、必要な事だと割り切ってやってるから」

「ごめんね、ありがとう」

「ボクはどうしよっか?」

「黒炎はみんなと一緒に行ってくれ。

 ソラは……そうだ、サフィさんも一緒に行った方が良いのかな?」

「そうだな。サフィはオレと同じ場所で生活する事になるだろうし、呼ばなくても一緒に来るさ」

「それじゃあそういう事で。集まり始めてるから僕も行くよ」

「気を付けてね、ダスク」

フローラルの言葉に頷いたダスクは、アーノルドのもとに集まっている生徒達に合流して最後の掃除へと向かう。一方、残りの者は建物の結界の解除法を聞いてから、ダスクの荷物も持って今日から利用する建物へと向かった。

 ダスクはアーノルドに従って他の生徒達と共に合宿場の残りの場所を巡って、その場の安全を確保していった。手強い敵は残っていなかったが、埋葬や移動距離等もあって結局終わったのは陽が傾いた頃であった。疲れた顔で自分達の宿泊施設へ散っていく生徒達を見送ったダスクは、まだ手伝う事も有るだろうと思い、皆の居る建物へと足早に向かう。建物が見えてきたところで煙突から煙が立ち昇っているのに気が付き足を速めると、建物の前の陽の当たる場所でには布団を干しているサフィーラの姿があった。先程までと一転して日常的な光景に気が抜けて立ち止まってしまったダスクに、顔を上げたサフィーラが気が付いていつも通りの微笑を向けてくる。

「おかえりなさい、ダスクくん。色々とご苦労様でした」

「ただいま、サフィさん。こっちはどんな具合です?」

「順調に進んでるわ。結界で建物は痛んでいないけど、使っていなかったから色々とね~。

 お布団もこうやって干さないと気持ち良く眠れないだろうから、陽が出てて良かったわ。

 そうだ、昼食の用意をしておいたから食べましょ。

 みんなも(きみ)を待つと言って、まだ食べていないから」

「そうですか、待たせちゃって悪かったかな。さすがに腹減ってるから助かります」

「それじゃあみんなを呼びましょう。食事をする場所はこっちよ」

そう言って先を歩くサフィーラに続きつつ、強化合宿だというから色々な鍛錬を出来るんじゃないかと楽しみにしていたが、こんな所まで来て野犬退治をやるとは思わなかったと内心溜め息を吐くダスクであった。

 それから昼食を摂って清掃の続きを終わらせるうちに陽も沈んで夜になっていたので、各自の部屋割りを行ったダスク達は、贅沢(ぜいたく)に浴室も備えられていたので順番に汗を流すと、簡単ではあるが量のある夕食とフローラル特製の疲労回復効果のあるお茶を飲んで自分の部屋へと移動し、重い目蓋を支えつつベッドへと潜り込む。食事の片付けをサフィーラに任せっきりにしてしまった事に申し訳ないと思いつつ、思った以上に疲れていたのか、ダスクは夢も見ない深い眠りへと突入していた。


 合宿の最初が野犬等を退治するという命のやり取りになるとは思ってもいなかったダスク達は、それぞれ思うところが有ったが無事にその課題を成功させる事が出来た。難易度が一番高かった区画を成功させ、周囲の生徒達を驚かせる事になってしまったが、実際に割り当てられた建物が満足するものであったので、それに関してはダスク達全員が素直に喜べた。明日からの合宿本番は、もう少し鍛錬中心にして欲しいと多くの生徒達が思っていたが、実際どうなるかはその時にしか分からなそうである。

楽しんで頂けたでしょうか。続きも早く読んで貰えるように頑張ります。

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