事故か故意か
なかなか難しいですが自分なりに頑張ります。
ブンッブンッズシンッブオンッ
気持ちの良い快晴の空の下、週末の早朝に何かを振る音や振動を伴う音が響いているのは、王都の高い壁と学院の校舎に挟まれた場所に有る二階建ての建物の側で、そこではくすんだ黒色の全身鎧を纏った人影が鍛錬を行っている最中であった。右手の大剣と左手の巨大な盾それぞれが鎧と同素材で造られており、黒一色で動く様はまるで影絵の人間が飛び出してきたかの様にも見える。一心不乱に武器を振っているのではなく、いくつもの型を確かめるように足捌きを交えて、目前に仮想敵を思い浮かべながら行っているらしいのだが、その相手はどう考えても普通の人間の数倍の大きさがあり、鎧の人影の視線は斜め上に向けられている。盾の打撃や蹴りも加わり、上半身に向けてフェイントを入れながら仮想敵の足元を集中的に攻撃した後、踏み込んだ足が地面にめり込む程の突きを胸の中心を貫く軌道で放った。その体勢のまま残心に注意した後、ゆっくりと剣を引きつつ、大きく吸った息を細く長く吐いていく。
「今日はミッションの日なのに、そんなに動いてダイジョブなのかい?ダスク」
「大丈夫だよ、黒炎。今日はいつもより軽めにしたし、今は型をやって動けてるかの確認だから」
動きの止まったダスクの様子を契機と考えた黒炎が紅い瞳を呆れたように向けながら声を掛けると、一呼吸置いて残心を解いたダスクは身体から力を抜いて振り返る。
「そっか、それならいいや。とりあえず、おはよ~」
「おはよう。汗拭いて着替えたらすぐに朝食を作るよ」
「よろしく~。今日は馬と歩くからイッパイ食べておかないとね」
「了解。多めに作るよ」
いつも通りの黒炎に苦笑しながら、ダスクは鎧を脱いで井戸水を汲み上げ、手拭いを濡らして全身の汗を拭き始める。今日は長い距離を移動する予定なので、念入りに拭いてから引き締まった身体に持ってきておいた着替え用の服を着る。脱いだ服は簡単に洗濯して軒下に吊るしておいた。さっぱりしたダスクは家に入って昨日の残りのシチューを温め、加えて焼いたベーコンと生野菜を挟んだサンドパンを宣言通りに多く作って黒炎と一緒に全て平らげる。満足そうな黒炎に笑みを浮かべながら、火の元と家中の戸締りを確認したダスクは、装備を整え黒炎の背に保存食の入った鞄を背負わせると、自分も着替え等に加え、念の為に入れた食材のせいで大きく膨れた背嚢を背負う。
「さあ、行こうか」
「オッケー」
扉に施錠したダスク達は、校舎の外を回って正門前に向かう。その歩みは装備や膨れた背嚢の重さを感じさせない軽さであった。少し早い時間なので人気の無い校舎の間を通って正門まで来ると、まだ誰も居ないと思っていたダスクの予想に反して、既に馬を従えた三人分プラス一人分の人影が見えてくる。こちらから声を掛けようと思ったダスクよりも一瞬早く、こちらを見付けた一人が手を挙げて早い時間にも関わらず大きな声を出してくる。
「おはよっ、ダスクに黒炎。お前達が一番最後だぞ~」
「おはよう。もうみんな揃ってるのか」
「おはよ~。ボク達が遅いんじゃなくて、みんなの方が早いんだよ~」
「うふふ、ソラ様が一番速かったんですよ。まるで、遊びに出掛ける子供の様でした」
「ぐっ、そんなんじゃないって。
あ~~、そうっ、上に立つ者としてのミッションに掛ける意気込みのようなモノがだなぁ」
「あははっ、お子様だな~」
「ちがっ、はぁ、もういいやそれで。サフィも余計な事言うなよな~」
「いいじゃないですか。それだけやる気が有るって事でもあるのですから」
「そうだな。サフィさんの言う通りだ」
「ちぇっ」
ダスク達の笑い顔に不貞腐れたような顔になったソラリスは、告げ口をしたいつも変わらぬ笑顔のサフィーラや尻尾を大きく振りながら遠慮無く笑う黒炎を金の瞳で睨みながら、サフィーラ寄りの発言をしたダスクの兜に覆われた顔へと不貞腐れたような視線を向ける。普段通りのメイドさんの格好をしているサフィーラとは違い、ソラリスは赤系の動き易そうな格好の上から橙色に染めた皮製の胸当てと籠手を装備しており、背には精緻な模様が施された黄金色の弓が背負われ、腰にはこれも橙色に染めてある矢筒に複数の矢が矢羽根の色で二つに分けて差してある。
「おはよ、ダスクに黒炎。今日も昼食用にサンドパンを作ってきたからね」
「おはよ~、ローラのサンドパンは美味しいから楽しみだよ」
「うむ、余も楽しみであるぞ」
「おはよう、ローラにウィリアム。君達も早いんだな」
「なんか目が覚めちゃって。どうせだから一番に来ようと思ったら、ソラ達に先を越されちゃったわ」
「ふむ、余はダスク達の少し前であるから、早いというわけではないぞ」
「なるほど。まあ、早めに合流地点に行っておいた方が良いと思うから、良かったんじゃないかな」
「それもそうね」
話をしていたダスク達の輪に加わった残り二つの人影は、ソラリスと似たような理由で早く来ていたせいで照れ臭そうに微笑むフローラルと、いつも通りで変わらぬ態度のウィリアムであった。フローラルは緑系の動き易そうな服装と、腰に差した小振りなナイフに加えて旅行用の外套を纏っている。ウィリアムは質の良い造りの動き易そうな服の上から要所要所を覆う銀色の鎧を身に着け、腰に長剣を佩いている。
「それじゃあ、出発しよう。合流は西門の前で良かったんだっけ」
「うむ、西門の前に馬車に乗って来る予定であるな」
「貴族の馬車だから紋章で分かるわね」
「へ~、紋章が付いてるならわかりやすくていいね」
「よっしゃ、今日から本格的なミッションだから、腕が鳴るぜ」
「いってらっしゃいませ、皆様。お気を付けて下さいね、特にソラ様は」
「一言多いぜ、サフィ。子供じゃないんだから大丈夫に決まってるだろ」
「うふふ、ソラ様は調子に乗ると失敗しますからね~」
「ちぇっ、言ってろ」
ソラ達のやり取りを見て笑顔になったダスク達は、見送るサフィーラに手を振って学院から出発する。この後サフィーラは屋敷へと戻るのだが、ダスク達が見えなくなるまで、笑顔を浮かべていても瞳には心配そうな光が浮かんでいた。
合流場所の西門に着いたダスク達一行は、早い時間から行き来する旅人や荷車の流れを眺めながら待ち人が来るまで時間を潰していた。今日もいつもの週末と同じかそれ以上の、たくさんの荷物が王都に運び込まれており、同盟締結で安全性が増したこの地域での交易が盛んに行われているのが分かる。この場所からでは見る事は出来ないが、港の船の出入りも増えており、隣国とも積極的にやり取りが成されている事を実感している人間も多かった。談笑をしながら待つ事しばし、待ち合わせの時間ピッタリに依頼主の貴族の紋章を掲げた馬車が現れてダスク達の目の前に止まり、中から従者らしき人が出てきたので、確認を取る為にフローラルとウィリアムが近付いて声を掛ける。短時間のやり取りの後、従者らしき人は馬車に戻り、フローラル達も戻ってきた。
「依頼人に間違いなかったわ。これからすぐ出発だから、付いて来るようにって」
「うむ、馬車を急がせないで欲しいと頼んであるから心配せずとも良いぞ」
「ありがとう、ウィリアム。それじゃあ馬車の右にフローラルを挟んでウィリアムが付いてくれ。
反対側にはソラを挟んで僕が付く」
「うむ、承った。馬車もそなたも守って見せよう、ローラ」
「よろしくね、ウィリアム。ダスクも徒歩なんだから無茶しないでね」
「わかってるよ、ローラ。いちおうソラも戦えるから大丈夫だと思うよ」
「大丈夫だぜ、ローラ。敵が襲ってきても、近付く前にオレが射抜いてやる」
「ふふっ、大丈夫そうね。だけど、怪我をしないように気を付けて、ソラ」
「ああ、近付いてきたらダスクに任せるから大丈夫さ」
「出来るだけみんなを護れるように頑張るよ」
「あ、馬車が動いたよ。早く行かないと置いていかれちゃうよ」
その黒炎の言葉に皆は頷き合って馬に跨り、早足で分担通りに馬車の両側に付く。馬車の早さも抑えてもらっているので、徒歩のダスクや黒炎の足取りも余裕の見えるものであった。
王都の西門から出た一行は、朝日に輝く大河アヴァストを左手に眺めながら街道を西に進んで行く。最初は徒歩のダスク達の事を気にしていたローラ達であったが、先日の言葉通りに余裕で馬車の速さについてくる様子に、改めて驚いていた。そのまましばらく進んだところで、大河アヴァスト沿いであった街道は徐々に北に進路を変えて行き、太陽が昇りきる前には大河の煌きは見えなくなっており、周囲には木が増えて次第に林の中に向かって街道は続く。昼になったので、一度休憩を入れる為にウィリアムが御者に馬車を見通しの良い場所で止めてもらい、その旨を貴族へと伝えて了承を貰ったダスク達は、馬車の近くの何かあってもすぐに動ける場所で休憩を取る事にする。依頼主の貴族は、従者に用意させたテーブルセットに座って、ワインを飲みながら優雅に食事を摂り始めた。
「優雅にワインなんか飲んでるけど、酔って馬車に乗ったら気持ち悪くならないのかしら?」
地面に座る為のシートを敷いて、昼食用に作ってきたハーブを効かせたサンドパンを出していたローラは、声をひそめてダスク達だけに聞こえるように疑問の言葉を口に出す。
「ふむ、午前中と同程度の速さならば気にする事は無いだろうな」
「オレ達の馬もほとんど疲れてないくらいだからな。こんなんで時間までに目的地に着けるのか?」
「それは僕も思っていた。このペースで大丈夫なのか?もっと早くしてくれても僕達は大丈夫だぞ」
「うんうん。なんか思っていたよりゆっくりだから全然疲れてないよ」
「ふむ、昼食と休憩が終わったら足を速めるように伝えるとしよう」
「よろしく。暗くなってから森を通りたく無いからな」
「昼食の準備出来たわよ。急ぐなら早く食べて一服しましょう」
「待ってました~。疲れてないけど、お腹は空いてるからいっぱい食べれるよ」
「ふふっ、わかってるわ。はいっ、多めにしといたから」
「やった、早く食べようよ」
「そうだな、後は食べてからにしよう。それじゃあ、いただきます」
「「いただきます」」
いつも通りに美味しいローラ手製の昼食を食べてから、これまたローラの淹れたお茶を飲んで一服したダスク達は、のんびりと休憩を楽しむ依頼人を急かすようにして出発をする。午前中よりも速いペースで進んでいると、疎らだった木々が増えてきて林から森へと変わり、街道の周囲は葉に陽光を遮られて薄暗くなってしまう。ダスク達は打ち合わせていた通りに、これまで以上に周囲を警戒する為に位置を変えながら樹上にも注意を払う。もし襲撃が有るならこの森を通っている間だと考えていたのだが、予想に反して何事も無く進む事が出来てしまったので、森の出口が見えてきて街道が夕陽になりかけの陽光に照らされた瞬間、ホッとして気が抜けてしまっていたのかもしれなかった。
シュッ……ドガッズザザザッ
「ひゃぁっ」
何かが空気を裂いて飛来した直後に大きなモノが倒れた音がして、ダスク達の目の前で馬車を牽いていた馬が二頭同時に前のめりに倒れる。そのまま慣性のまま馬の死体に乗り上げた馬車は倒れはしなかったが死体を引きずりながら少しの距離を進み、馬車を操っていた御者は短い悲鳴を残して御者台から飛ばされて地面を転がってしまう。御者は気絶しているらしく、小さく呻き声を発していたが地面の上で動けなくなっているようであった。鳴き声をあげる事も出来ずに倒れた馬は、正確に急所へと同時に攻撃されており、襲撃者の力量の高さを思い知らされた。
「ウィリアムとローラは御者さんを頼む。ソラは馬車の中の安否確認と周囲の警戒をよろしくっ」
そう言いながら、ダスクは凶器の飛んできた方向へと駆け出す。指示された三人は無言で頷いて馬から飛び降りると、それぞれの役目を果たそうと動き出す。黒炎は指示されていないが、周囲の気配を探りながらダスクの後を追い駆けた。御者に駆け寄ったローラが傷の具合を確認している間、ウィリアムはローラを守りながら周囲を警戒する。ソラリスは馬車に駆け寄って依頼人達の無事を確認した後は、馬車を盾にするようにしながら周囲を探り、すぐに攻撃できるように弓に矢をつがえる。
「気配は感じるか?黒炎」
目星をつけた木の下で樹上を窺いながら、ダスクは近くに来た黒炎を見る事も無く声を掛ける。
「ちょっとわからないよ。気配を消すのが上手いんだと思う」
「そっか、馬も二頭同時に倒してたから手練だと思ってたけど、どうするか……」
「あっちが動くのを待つなら、みんなのトコに戻った方がいいんじゃないかな」
「そうだな。後ろを見せないように下がろう」
そう言って後退るダスクに合わせて、黒炎も気配を探りながら下がっていき、御者を診ているローラ達の近くに来たところでダスクは顔は動かさずに様子を聞く。
「御者さんはどんな様子?動かせるようなら馬車の中に入れてもらって」
「気絶してるけど、怪我は思ったほど酷くないわ。運ぶから手伝って、ウィリアム」
「うむ、承った。すまんが警戒頼む、ダスク」
「了解。運び入れたらソラと一緒に固まって警戒してくれ。こっち側は僕と黒炎がやるから」
「わかったわ。気を付けてね、ダスク、黒炎」
「ダイジョブだよ。ボクとダスクが一緒なんだからね」
御者を運ぶローラ達に続いて下がっていたダスクであったが、何かを感じて視線を上げた瞬間、ソラリスの居る場所へ黒ずくめの人影が襲い掛かるのが視界に飛び込んでくる。
「ウィリアム、ここは頼んだっ」
襲撃者に向けて飛び上がりながらそれだけ言うと、武器を抜く暇も無く、馬車の屋根を蹴って勢いをつけて、そのまま体当たりを喰らわせようとする。途中で落下方向は変えられないだろうと思っていたダスクであったが、それに気付いた相手の方が上手だったらしく、突然落下方向が変化して再び木々の間へと姿を消してしまう。何かロープを使いながら飛び降りていたらしく、黒く塗られたそれらしきものを確認するのがやっとであった。
「大丈夫か?ソラ」
地面に着地して襲撃者の消えた方向を見ながら、後ろに居るであろうソラリスへと声を掛けるが、返事は言葉では無かった。
バシュッ
風を切るような音と共に、ダスクの背後から放たれた矢が薄暗い樹上へと吸い込まれていく。
「ちっ、外したか。ダスクに気を取られてそうだったから、少しタイミングをずらしたんだけどな~。
ん?何か言ったか?ダスク」
「いや、何でもない。それより、どんな奴だったか見えたか?」
「ご丁寧に目の所しか外に出てなかったよ。今の矢も避けられちまったぜ」
「良く見えたな。矢を撃った時にはほとんど見えなかったよ」
「仮にも飛び道具を使ってるんだ。目は良い方だぜ、オレは」
「なるほどな。矢を撃った後、気配が消えたけど、居なくなったかな?」
「姿も見られたし、一旦下がって次の機会を狙うんじゃないか?」
「そうかもしれないな。とりあえず、乗ってきた馬を使ってさっさと森を出よう」
「そうだな。オレとローラの馬を繋いで二人で御者の代わりになるぜ」
「頼んだ。僕とウィリアムで周囲を警戒する」
頷き合ったダスク達は、御者を馬車に運び込んだローラ達にも同じ事を伝えると、馬車から馬の死体を外して繋ぐ場所が破損していないのを確認した後、フローラルとソラリスの乗ってきた馬を代わりに繋げて御者台に二人とついでに黒炎が乗り、ソラリスが周囲を警戒しつつ手綱はフローラルが操ってすぐに発車させる。ウィリアムも自分の馬に跨ってそれに続き、馬車の後ろから後方に注意しながらダスクも続く。その場所から森の外に出るまではたいした距離は無かったが、再び襲ってくるかもしれない襲撃者を警戒していたダスク達は、その距離が何倍にも感じていたので、森から出て周囲が見通せる場所になった時には、思わずホッと息を吐いていた。
「ちょっと待っててくれるか?馬達を埋めてくる」
森から充分に距離を取った所でダスクがそう言うと、同じ気持ちだったので尻尾を嬉しそうに振る黒炎であったが、他の面々は反対意見だったらしく渋い顔になる。
「ふむ、襲撃があったのだから急いだ方が良いのではないか?」
ウィリアムの言葉に頷くフローラルとソラリスであったが、それでもダスクの意思は変わらないようで、すまなそうな声になる。
「すまない、本当にすぐに済ませる。あのままじゃ、馬達がかわいそうだから」
そう言うと、それ以上の議論は無しという風に足早に森へと走り出す。その背を見送った黒炎以外の面子は、しょうがないなという顔で肩をすくめていた。森に消えていったダスクから視線を戻して周囲を警戒し始めてすぐ、森からダスクが走って戻ってくるのに気が付き、一人じゃ無理だったのかと思った黒炎以外の面々であったが、戻ってきてからの会話の内容で驚かされてしまう。
「さあ、目的地ももうすぐだろうから、また襲撃が来ないうちに早く行こう」
「馬の埋葬はやめたの?」
「ん?埋めてきたよ。石を載せるだけの簡単な墓しか出来なかったけど」
「えぇっ!?あの短時間で馬を二頭も埋めてきたの?」
「そうだけど、驚く事かな?」
「あ~、何でもないわ。ダスクだものね……」
「???」
不思議そうな顔をするダスクを、黒炎以外の面々は呆れた顔でみつつ、どこか納得させられていた。
そこから更に足を速めつつ周囲の警戒も忘れずに街道を進み、どうにか夕焼けが出ている間に目的地に到着した。門では馬車の貴族を表す紋章のおかげですんなりと通る事が出来たので、従者の誘導に従って立派な造りの宿屋へとすぐに向かう。そこで何かの話し合いをするらしく、ダスク達もそのまま宿内での護衛を続ける事になった。部屋の窓には鎧戸もあったので、依頼主に許可を得てしっかりと閉めて戸締りを確認し、人の入れる場所を出入り口の扉一つに絞れたので、交代で扉の外に立つ事に決める。隣に部屋を取って待機場所にしたダスク達は不寝番を話し合い、戦える者として前半をウィリアムに加えて前半の前半にフローラルを前半の後半にソラリスを割り振り、後半をダスクに加えて後半の前半にフローラルを後半の後半にソラリスを割り振り、黒炎に関しては黒炎自身に任せる事に決めた。交代で夕食を食べた後に、さっそく分担通りに扉の外で警備を開始する。部屋への出入りはその時点で警備をしている人間が武器の持込が無いように必ず確認をしていたが、怪しい人物の出入りは全く無かったので時間が経つにつれて次第に緊張感が薄れてきていた。前衛がウィリアムからダスクに変わった時点では既に話し合いも終了し、建物の外も内も静かになっていたので、こまめに休憩を取ってもらっていたのが逆に良くなかったのか、フローラルとソラリスには疲れもあって強い眠気が襲ってきているようであった。眠そうな顔でフラフラしているソラリスが部屋から出てきて、同じく眠そうにしているフローラルと最後の交代をしようとしたところで、それは起こった。
ガシャンッ
廊下の突き当たりの窓のガラスを割りながら飛び込んできた黒ずくめの人影、昼間に襲撃してきた人物が間を置かずにとっさには動けない状態のフローラルとソラリスに向けて投擲用のナイフを複数同時に投げてくる。
ガキッ
ガラスが割れると同時に動き出していたダスクが二人を庇うように身体を割り込ませて全てのナイフを大剣で叩き落す。襲撃者は既に間合いを取っており、無茶な攻撃はしないでこちらの隙を窺っていた。
「二人共っ、ウィリアムを起こしてきてくれっ」
「わ、わかったわ。ちょっと待っててね」
「そっちは任せた、ローラ。オレも戦うぜ、ダスク」
「駄目だ。二人はウィリアムと入れ替わりで部屋に居てくれっ。弓とかは狭い廊下だと邪魔になる。
部屋で黒炎とローラを守ってくれ」
「ちぇっ、わかったよ。そっちも気を付けろよ」
渋々とではあったが納得したソラリスは、ローラに続いて部屋へと入っていく。それを見ていた襲撃者からわずかに迷いを感じたダスクは、相手の考えが良く分からないので、守りを固めながら情報を求める質問を思わず口に出していた。
「お前は何者だ?それに護衛が一人だけになったのに攻撃してこないで迷ってるのはどうしてだ。
数が増えれば不利になっていくというのに、目的は貴族の人じゃないのか?」
「……」
ダスクの質問に無反応のままの襲撃者であったが、部屋からウィリアムが出てくるのを見て、ダスクに向けて何かを投げてくる。それを反射的に打ち落とそうと大剣をぶつけた瞬間、それが弾けて煙が広がり、周囲が真っ白になってしまう。間を置かずに濃い煙幕を切り裂くように再び何かが投擲され、その飛来音に反応しながら、合わせて攻撃を仕掛けてくると思ったダスクは隙を見せないように打ち落とす。
ガチャンッ
予想に反して再び廊下の突き当たりの窓が割れる音が聞こえてきたので思わず足を踏み出そうとするが、これも戦術かと思ってその場で出かたを待つ事にした。
「ふむ、敵は撤退したのか?ダスク」
「わからない。
僕は煙が晴れるまでここに居るから、いちおうウィリアムはローラ達の所に戻ってもらっていいか?」
「ふむ、心得た。おぬしも気を付けるのだぞ」
それにダスクが無言で頷くのを確認したウィリアムは、再びローラ達の居る部屋に戻って行った。そのまま身構えているうちに、周囲の煙が晴れて廊下の様子が分かる。襲撃者の姿を探してみるが、既にその場には何者も見付けられず、用心しながら廊下の突き当たりの窓へと近付き外の様子を探る。
「……完全に居なくなったみたいだな」
「追い返せたみたいだね」
「うわっ……ふぅ、気が付かなかったよ、黒炎。それにみんなも」
外に意識を向けていたからか、声を聞くまで近付いてくるのに気が付かなかったダスクは驚きながら黒炎に答える為に振り返ったが、その後ろにチームの全員が揃っている事にも気が付かなかった事でさらに驚いていた。
「安全を確認したら呼びに行こうと思っていたんだけどな」
「争いの気配が無くなったからみんなで来たんだよ。
ちゃんとみんなで用心はしてたからダイジョブだと思ったからね」
「まあいいや。とりあえず追い返したけど、朝まで全員で警戒しようか」
「休まなくて大丈夫?ダスク」
「大丈夫だよ。
それじゃあローラとソラは扉の前で、僕が窓の方に立って二人をウィリアムと挟む感じにしようか」
「うむ、それが良いだろう」
「ふわぁ、外も明るくなってきたな。それにしても警護って大変なんだな、かなり眠いぜ」
「まあ頑張ろう。何かあれば容赦なく起こすから、壁に寄り掛かって居眠りしててもいいけど」
「あははっ、ボクはソラとローラの近くで遠慮なく寝てるよ」
その言葉に続いて言葉通りに足元で丸くなって眠り始めた黒炎の姿に、羨ましそうな顔になるソラリスと苦笑するフローラルであった。
その後は襲撃が無く、起きてきた宿屋の主人が破損した窓に溜息を吐きつつ割れたガラスや窓枠を掃除して下がり、この人物が宿屋を出るまでにダスク達の居る廊下に来た唯一の人間であった。部屋で朝食を食べる依頼人を護衛しながら、ダスク達は交代で朝食を摂り、明るいうちに王都に戻る為に午前中に宿場町を出発する。馬車の馬は新しい馬が補充されていたので、フローラルとソラリスは戻ってきていた馬の首を笑顔で一度抱き締めてから跨っていた。前日に襲撃があった森で再度の襲撃があるかと予想して身構えていたが、街道脇の馬達の墓を過ぎて木々がまばらになってきても全く何も起きなかったので、戦闘の苦手なフローラルはホッとしているのが周りから見ていても分かった。そこからは移動速度を上げて襲われそうな場所から速やかに離れたので、王都に到着したのは往路よりも復路の方が早かった。西門の前でフローラルとウィリアムが依頼人に護衛の終了を伝えて了承をもらったので、その場で解散という流れになりそうであったが、襲撃者の行動に少し不安があったダスクは改めて皆に声を掛ける。
「ちょっと聞いてもいいかな?僕と黒炎それにフローラルは学院の寮とかに住んでる。
でも、ウィリアムとソラはどこに住んでいるんだ?」
「ふむ、余は城の近くの屋敷に住んでおる」
「オレも城の近くに用意してもらった屋敷にサフィと住んでるぞ。
ウチの国の大使館とも隣接しているし、他にも住んでる人間が居るから結構デカイぜ」
「へ~、ちょっと興味があるから近くまで見に行ってもいいかな?」
「うんうん、ボクもちょっと気になるな~」
「そうね、まだ明るいから少しくらい遠回りしてもいいかも」
「ふむ、まあ近くまでなら構わぬだろう」
「別に寄っていってもいいぞ」
「まあ、お邪魔するのはまた今度にさせてもらうよ。
ここに立ち止まってると邪魔になるから、とりあえず行こうか」
皆を促して歩き出したダスクは、念の為に周囲に気を配りながら先を歩く一行の後を付いていくが、混んでるせいでダスクの肩に乗せて貰った黒炎だけは、ダスクの様子がいつもと違う事に気が付いていた。
「なにか気になる事でもあるのかい?」
「ん?ちょっとね。気になった程度だから気にしないでいいよ」
「ふ~ん、そっか。とりあえず、帰ったらいっぱいご飯食べたいな」
黒炎らしい言葉に苦笑しながら、何か楽しそうに話しているフローラル達へと視線を向ける。いつもこんな風に皆が楽しそうにしていてくれると嬉しいな、とダスクは思っていた。
城の近くでウィリアムと別れ、ソラとは屋敷の門の前まで一緒に歩いた後、ダスク達は学院に向かう。混んでない道を通るので黒炎は既に降りて機嫌が良さそうに尻尾を振って歩いていた。
「ふふっ、私達だけで歩いていると、出会った時の事を思い出すわね」
「そうかもしれないな。あの時はローラに追い剥ぎ扱いされたけど……」
「あははっ、完全装備で殺気を出してるダスクが悪いんだよ」
「そうそう、本当に殺されるかと思ったわ」
「ちぇっ、あの時は色々あったからしょうがないじゃないか」
「そうなんだよね。最初の町があんなだったからな~」
「それでも全部が悪い事ばかりじゃなくて、良い事もあったんじゃない?
その後は人前でしゃべらないようにしたんでしょ?」
「まあ確かにそうだね。それからはそういった人間にちょっかいかけられる事も無かったから。
手におえる相手の時に知る事が出来て良かったと思う」
「そういうのもあったけど、ボクはローラに会えて嬉しかったよ。ダスクもそう思ってるでしょ?」
「そうだな。ローラと友達になれたから、悪い事があったけどそれに囚われる事は無かったよ」
「ふふっ、お役に立てて良かったわ。
私もあの日が王都に出発する前の最後の薬草摘みだったから、会えたのは奇跡みたいなモノね」
「そっか~、とにかくこれからも仲良くしてね、ローラ」
「こちらこそ、お願いするわ。ついでにダスクもね」
「なんだかついでみたいだな……」
そんなダスクに黒炎とフローラルは声を合わせて笑い、それを見るダスクは憮然とした顔になっていた。
学院に戻ってきたダスク達は、門の所で別れて寮と我が家へと向かう。扉を開けて中に入ったダスクは、くつろげる場所に戻ってこれて我知らずホッとしていた。装備を外して着替えをしたダスクは、多めに作った夕飯を黒炎と綺麗に平らげると、黒炎と同じく寝床に入った瞬間、心身共に疲れていたらしく、あっという間に眠りの世界に落ちていった。
週が明け、ダスクが自分の感じた違和感も付け足して提出した報告書が原因かは分からないが、受ける依頼が再び戦闘系じゃないモノに戻ってしまっていた。本人がどう思っているかは定かでは無いが、ソラリスという重要人物が加わっている事で、極力危険の無い依頼がまわされているのだろう。そのまま一ヶ月が経ったところで、再び今迄やった事の無い種類のミッションに赴く事になる。今回はソラリスが諸事情で欠席だという事は納得出来たのだが、ダスクと残りのメンバーが離れた場所に居なければならないので、何かがあった時にすぐに駆けつける事が出来ない。それでもソラリスが欠席でローラの事はウィリアムに任せられるので、自分一人ならどうとでもなると思い直していた。
初めての護衛任務であったが、襲撃者の狙いがどこにあったのかを把握できずにダスクは少し不安になる。それでもやりなれた依頼をこなしているうちに気にならなくなっていたところで、再び新たなミッションがやってきた。ミッションはチームを組んで受けるという必須条件を根底から覆すような内容に、疑問や不安に思いつつもこういうのも鍛錬には良いのではないかと考えていた。果たして今度のミッションも全員が無事のまま達成する事が出来るのだろうか。
楽しんで頂けたでしょうか。続きも早く読んで貰えるように頑張ります。




