闇の贄(後編)
文章力がなかなか上達していかないですね。投稿ペースを守れるだけじゃなんとも・・・。
パチパチッパチッ
夜の闇に閉ざされた廃村の教会跡には、焚き火の薪が爆ぜる音以外に聞こえて来る音は、息を呑んで何かを凝視している人影達の微かな呼吸音くらいで、焚き火に照らされて石壁に映し出されている影が、動けなくなっている持ち主達の代わりのようにユラユラと動いている。屋根が落ちているせいで見える夜空からは、唯一の目撃者とも言える月が変化の無い状況を無言で照らしている。
「なんで、この三人が……」
ようやく最初に動けるようになった人影のつぶやきからは、心底驚いている事が伝わってくる。その近くの人間よりも低い影だけは、驚きから動かなかった訳では無かったようで、つぶやいた人影を見ながら不思議そうに口を開く。
「知ってるヒト?ボクは会ったコト無いよね?ダスク」
最初に動けるようになったダスクは、不思議そうな様子で紅い瞳を向けてくる黒炎の言葉に、同じ学院に通っている事で勝手に知っていると勘違いしていたと気付かされてハッとしていた。
「そういえばそうか。僕達と同じ、オルフィエルド学院の生徒だよ、黒炎」
「キミと同じ生徒が何でボク達を襲ってきたのかな?」
「う~ん、それは本人達に聞いてみないと分からないよ」
動けないようにダスクが縛った三人、気絶している金髪・銀髪・銅色の髪の三人組の生徒にどうしてココに居て襲ってきたかを聞こうと思って状態を確認してみるが、少々やり過ぎたらしく、当分の間は目を覚まさなそうであった。
「ちょっとやり過ぎたらしい。ちょっとやそっとじゃ起きないだろうな」
「あらら。まあ、しょうがないよ。本気で襲ってきてたみたいだし」
困った顔になるダスクを少々呆れ混じりで見る黒炎であったが、ダスクを責める気持ちは全く無く、チームメイト全員が無事である事を、尻尾を大きく振りながら喜んでいた。そんなある意味いつも通りの調子で会話をするダスク達に、残りの二つの人影達もなんとか気持ちを立て直し始めたらしい。
「こやつらが、この様な狼藉を働くとは思ってもみなかったぞ。一体何があったのだ?」
しっかりと疑問を口にするウィリアムは、その口調からは内心は分からないが、その表情は苦いものが含まれているのが見てとれる。
「そんなの分からないわ。本気で同じ学院の生徒を殺そうとするなんて……今でも信じられない」
真っ青な顔で未だに呆然としているフローラルはそう呟き、無意識のようだが耳の前に一筋ずつ垂らされてワンポイントになっている髪を指に絡めたりして弄っていた。
「とにかく、僕達だけで話していたって真相は分からないよ。
明日になれば彼等も気が付くだろうから、その時に詳しい話を聞こう」
「ダスクの言うとおりだね。直接聞いたほうが早いよ」
「うむ、それが良いだろうな」
「ええ、そうね。でも、聞くのが怖い気もするわね」
最初の衝撃から立ち直ってきたローラとウィリアムであったが、それでも表情は曇りがちで、完全に元に戻るのは無事に学院に戻ってからだろうと、ダスクは予想していた。
「目が冴えちゃったし、熱いお茶を淹れたわ。良かったら飲んで」
眠気の飛んでしまった一同は、焚き火を囲んで座り、ローラの淹れてくれた鎮静作用の有るお茶を飲みながら、これからの事を考えようとする。熱々のお茶は黒炎の好みに合ったらしく、護るようにローラに寄り添いながら嬉しそうに尻尾を振っていた。
「このお茶もおいしいね。熱いお茶を飲むと、なんだか心もあったかくなるよ」
「ふふっ、お茶ってそういうところが良いわよね」
黒炎との会話で和んでいる風に見えるローラに、内心安堵したダスクは、こういう時には黒炎の性格が良い影響を与えるんだなと、自分の相棒を心強く思う。ローラの事は黒炎に任せておけば大丈夫だと判断したダスクは、同じく安堵しているウィリアムに表情を引き締めた顔を向ける。
「襲撃があの三人で終わると思うか?」
「ふむ、普段なら、森での警告後の本襲撃という事で終わりかと思うところだが。
今回は学院の生徒が襲ってくるという異常事態だからな。未だに予断を許さない状況と言える」
「うん。僕もそう思う。このまま明るくなるまで起きていた方が良いかもしれないな」
「うむ、心得た。皆で無事に王都に帰ろうではないか」
意思を確認し、頷きあったダスク達は、死角を補い合いつつ周囲を警戒し始めた。
来るか分からない襲撃への警戒は、時間が長くなるほど心身共にきつくなってくる。何かあるなら早く来てくれと思っていたダスクの希望を叶えた、という訳ではないだろうが、それに最初に気付いたのはやはり黒炎であった。
ザッ、カラン、ザッ、カラン
益々生ぬるくなってきた空気に不快そうに身体を振るったことろで、教会の外の暗がりから、ピンと立った鋭敏な耳に何かが近付いてくる音が飛び込んでくる。突然動かなくなり、顔を出入り口に向けたまま小さな音を逃さないように耳だけを動かしている黒炎の様子に、ダスク達も息を潜めて聞きやすいように見守る。
「何かが近付いてくるってのは分かるんだけど、これって何だろうな~」
「何人くらい居るんだ?」
「何人っていうか、ヒトじゃないような気がするよ」
「は?ヒトじゃないって……一体何が近付いて来るっていうんだ」
「ボクにだって分からないよ。同じようなのがイッパイ近付いてきてるみたい」
そんなダスクと黒炎のやり取りに、ローラは不安な顔になり、ウィリアムは更に厳しい表情になる。そのまま全員が今の格好のまま余計な音を立てないように動かなくなる事、しばし、黒炎以外にも同じ様に何かが近付いてくる音が聞こえて来る。それは、近付いてくる速さは遅いようだが、普段聞き慣れない軽くて硬い何かが触れ合う音を立てながら、いくつも進んできているようであった。教会を囲むように聞こえて来る音に、ダスクは状況が良くない方向に進んでいるのではないかと危惧する。動けずに待っていた一同の視線の先で、暗闇の中から出入り口の石壁へと掛けられた白い手を見て、それが敵だったとしても普通の人間が現れたんじゃないかと思ったが、良く見てみると少し違っていた。
「うそっ!?あれって肌が骨のように白いんじゃなくて、骨そのものじゃないのっ」
「うむ、そのようだな。これは面妖な……」
そう言っている内に、手に続いて身体も明るい場所に出てくる。骨しかない身体には、ボロボロになった衣服が申訳程度に引っかかっており、片方の手には錆び付いた肉切り包丁のような物を持っている。
「あれってどうやってつながってるんだろうね」
「分からないけど……そんな事言ってる場合じゃないだろ、黒炎」
緊迫感の無い調子で会話をしているダスクと黒炎を、フローラルとウィリアムは呆れ半分感心半分に見ていたが、最初に入ってきた骨人間に続いて同じ様な状態の骨人間がゾロゾロと続いてくるのを見て、緊張感で顔が引きつってくる。
ガタッドサッ
背後から聞こえてきた音に振り返ってみると、骨人間が窓枠の残骸を落としてその場所からも中へ入ってくるのが見えた。そちらは壁を乗り越えてくるので侵入速度は遅いものの、前後を挟まれる状態が心を掻き乱そうとしてくるが、それに全く動じない者も居た。
「黒炎はローラの側に居てやってくれ。ウィリアムは背後の窓から入ってくる方を頼む」
「りょ~かい。やっちゃえ、ダスク」
「うむ、心得た。すまんが正面は頼んだぞ」
焚き火の側で不安になっているフローラルの傍らに黒炎が安心させる様に身体をピッタリと付け、それを護るように長剣を鞘から抜いたウィリアムが骨人間に立ち塞がる。それを見たダスクは安心したように笑みを浮かべて、続々と進入してくる骨人間達へと厳しい視線を向けながら、巨大な盾は背負ったまま大剣を両手で構えて正面に向ける。
ドガッ
一振りで正面から教会跡に進入していた骨人間のほとんどが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられてバラバラになっていた。その音に振り向いたフローラルとウィリアムは、ダスクの力量を知らなかったので驚きを隠せなかった。そのまま入ってくる度に壁際に骨の砕けた白い山が高くなり、その安定感に恐怖の大部分が消えていく。反対側ではダスクほどではないが、ウィリアムの洗練された剣技によって骨人間は退治されていき、バラバラになった骨がそこかしこに散らばっていった。集中していた為に、長かったのか短かったのか分からない時間が過ぎたところで、ピタリと骨人間の侵入が止まる。しかし、依然として周囲の暗闇からは、至る所から骨のぶつかり合う軽い音が聞こえてくるので、第一波を凌いだだけなのだと痛感させられた。
「ひとまずは凌ぎ切ったみたいだけど、これは一体何が起きているんだろうな」
「世間は広いね~。まさか骨が勝手に動くなんて」
「私も初めて見たわよ。骨が勝手に動き回るなんて、見た事も聞いた事も無かった」
「うむ、この様な事が起きたとは聞いた事が無い。軍部にも情報の無い現象か……」
「とにかく、外にはまだたくさん居るみたいだから、油断しないようにしよう。
普通に相手をすれば大した事の無い敵だからな」
「うむ、落ち着いていれば問題は無い。おぬし程の力量は無いとしてもな、ダスク」
「この程度の相手なら、君にだって同じ事くらい出来るよ、ウィリアム」
笑みを浮かべて顔を見合わせるダスクとウィリアムの様子に、心配しなくても良さそうだと思った黒炎は嬉しそうに尻尾をふりながら傍らのフローラルを見上げる。
「ほら、安心していいみたいだよ、ローラ」
「ええ、二人が居れば安心して良さそうね。それでも私に出来る事をやっておこうかな」
「出来るコト?」
「ええ、ちょっとね」
そう言ってフローラルは自分の鞄をゴソゴソと何かを探すように検め始める。それを興味深そうな様子で眺めていた黒炎は、以前も感じた覚えの有る気配が突然現れたのを感じる。
ゾクリ
「!?」
直方体をした教会跡の、出入り口から近い座席が並んでいたと思われる場所に焚き火を焚いていたダスク達の居る場所とは反対側の、一段高く神像が置かれていたと思われる台座の有る場所には焚き火の明かりが届いておらず、黒炎の目には何か黒い影が有る様にしか見えない。
パチパチパチ
黒炎以外は気が付いていなかったので、その拍手の音が聞こえてきた時には黒炎以外はビクリと身体を震わせると、慌てて音の聞こえて来る方へと視線を向ける。暗くて見えにくい影を訝しげに警戒するダスク達であったが、恐ろしい気配を感じている黒炎は先日同様に毛を逆立てて身体が倍くらいになっていた。
「あの時の黒くて怖いヤツだよ、ダスク」
「そうか、もしかしてあいつがこの出来事の元凶かもしれないな」
「知ってるの?」
そう聞くフローラルと同じ事を聞きたい様子のウィリアムに向けて、ダスクは先日の出来事を短く説明すると、合点がいった様に二人は頷いた。
「そんな事があったのね。それがどうしてこんな事をするのかしら?」
「そうなんだよな。あの時何もしなかったのに、今回こんな事をする理由が分からない」
「ふむ、考えても仕方が無い事かも知れんぞ。尋常な相手では無い様な気がするのでな」
「そうかも知れない。とにかく油断しない様にしていこう」
そんな事を話していたダスク達の様子を面白そうに見ていた、ように感じる黒ずくめの相手に、油断無く厳しい視線を向けていると、拍手の手を止めた人影は数歩前へ進み出る。
『クックックッ、ナカナカヤルデハナイカ』
地の底から聞こえて来るようにくぐもった声だが、それに含まれた陰湿さは隠しようも無く、聞いている者は例外も無く不愉快な気持ちになってくる。出入り口にチラリと目を向けてから、ダスクは護るように皆の前に進み出る。
「あんたは誰だ?何でここに居て、何をしているんだ」
『聞キタイ事ハソンナ事デハナイダロウ?何故コンナ事ヲスルノカデアロウ』
「なっ!?あんたがやっている事なのか?こんな事が出来るなんて、あんたは一体何者なんだ」
『クックックッ、オ前ハトモカク、後ロノ者達カラ感ジル負ノ感情ハ美味イナ』
「質問に答えろっ!!」
『簡単ナ話ダ。王都デ一番権威ノアル学院ノ生徒ヲ殺シテイキ、人間ドモヲ混乱サセヨウト思ッテナ』
「なっ!?本当にそんな事の為に僕達を襲ってきたっていうのか?」
『街デ我ノ食事ヲ探シテイル時ニ、ソコデ気絶シテイル者達ニ会ッテナ。
個人的ナ欲求ヲ満タスツイデニ、ソノ者達ノ願イヲ叶エテヤッタノダ。
目障リナオ前ト、協力シテイルオ前達ヲ痛イ目ニアワセルトイウ願イヲナ。
ツイデニ今回ノ公的ナ目的ヲ果タスノニモ利用サセテ貰ッタガナ』
「……それじゃあ今回私達のミッションがここになったのも貴方が仕組んだ事だって言うの?」
『クックックッ、恐怖ニ捕ラエラレテイテモ、疑問ヲ問エルトハ見事ナモノダナ。
ソノ通リダ。ソコノ者達ヲ使ッテ書類ヲ作ラセタノダ。馬鹿ダガ親ハソコソコノ貴族ダカラナ』
フワッ……ヒュッ、ガキッ
突然黒ずくめの人影の足元から拳大の瓦礫が三つ浮き上がり、目にも留まらぬ速さで気絶している三人組へと襲い掛かったが、同じく目にも留まらぬ速さで大剣を振ったダスクによって全てが撃墜される。何が起きたか分かったのは、騎士であるウィリアムぐらいであり、黒炎とフローラルは砕かれる瓦礫の音にビクリと身体を震わせる。
『ドウシテソノ者達ヲ庇ウノダ?今回オ前達ガコノ様ナ事ニナッタ原因ダトイウノニ』
「そうだとしても、目の前で殺されそうになったら助けるに決まっているだろ」
『オ前カラハ不味イ感情ダケシカ感ジラレヌ。モウ少シ味付ケヲセネバナラヌカ。
訪レテカラ間モナイガ、真ノ姿ヲ見セタ時ノオ前ノ反応デモ楽シムトシヨウ』
「あんたが何をしようとも、皆を必ず護ってみせる」
『クックックッ、ソレガドコマデ続クカ見物ダナ』
そう言ってから、黒ずくめの人影は足を踏み出して数歩進んでくる。ダスクはチラリと黒炎の様子を見ると、益々警戒しているのが確認出来たので、隙が出来ないように注意しながら近くに置いてあった兜を拾って頭に被る。その行動が引き金になったか、足を止めた人影はローブに包まれた両手を広げ、夜空に浮かぶ月を仰ぐように顔を上へと向ける。
グシャッ、パンッッッ、ビシャッ
何が起きるのかと警戒しながら見ていた一同の目の前で、突然黒ずくめの人影のローブの中から肉の潰れるような音が聞こえてきた次の瞬間、ローブごと人影が破裂して血と肉が辺りに飛び散って瓦礫や埃で汚れた床に降り注ぐ。
「ひっ!?」
予想外の惨劇に、フローラルは悲鳴を上げて傍らの黒炎にしがみつき、ダスクとウィリアムは顔をしかめて何が起きたのかを確認しようと、さっきまで人影が立っていた場所を注視する。
「自殺?一体何がしたかったんだ……ん?あれは……」
そう言ったダスクの目の前では、飛び散った血と肉が独りでに動き出して何かの図形を床に描き始める。ダスクの言葉を聞いた黒炎達は、引き寄せられる様に床へと視線を向ける。
「魔法陣?」
そう呟いたフローラルの言葉が正解であるように、描き終わった瞬間、血と肉の線が赤く光りだす。
「っ!?」
息を呑んだ黒炎の身体が先程まで逆立っていた毛が直って縮むと同時に、大きく震え出したのが抱き締めているフローラルへと伝わってくる。耳を伏せ、尻尾も丸まってしまい、さっきまでのフローラルよりも恐怖を感じているようであった。
「大丈夫?黒炎」
「ヤバイよ、ダスク。もっと怖いモノが出てくるみたいだ」
「下がって黒炎とローラを護ってくれ、ウィリアム」
「うむ、心得た。気を付けるのだぞ、ダスク」
無言で頷いたダスクが魔法陣の中央へと視線を向けると、そこから赤黒い光と共に何かが出てくるのが見える。全てが出てくると、魔法陣の赤い光は消えてしまう。出現したモノへと向けるダスクの視線は見上げられており、それだけで普通の人間とは違うモノだと察せられた。
「悪魔……」
フローラルの呟きを聞いて、出現したモノはその牛の様な顔の口をニヤリと歪める。身の丈はダスクの倍以上で、牛そのものの頭の両側には羊の様な角が歪んで生えており、その下の上半身は筋肉隆々な人間の体で、下半身はヤギのように毛が生えた蹄の有るガッシリとした足が有り、その後ろには尻尾が揺れている。両手で持っている巨大な金属の棍棒には、相手を攻撃する部分には棘がいくつもあり、何か赤黒いモノがこびり付いていた。
『クックックッ、良ク分カッタナ。我ハオ前達ガ悪魔ト呼ンデイル存在ダ。
細カク言エバ頭ニイロイロ付クガ、オ前達ノ言葉デ分カリ易ク言ウナラバ、中級悪魔ダロウ』
「中級悪魔だとっ!?それが本当ならば、我らでは太刀打ちできぬぞ」
悪魔の言葉を聞いたウィリアムは、強張った顔になって思わず叫んでしまう。その言葉でその場の雰囲気は益々暗いものへと変わり、悪魔は心地良さそうな顔になるが、最初から全く変わらない者が居るのに気付いて不愉快そうな顔になる。
『何ガソコマデオ前ヲ支エテイルノカ分カランガ、我ノ力ヲ身ヲモッテ味ワエバ変ワルダロウ。
セイゼイ泣キ叫ンデ許シヲ請ウガイイ』
「……」
それでも無言で立つダスクに苛立ちを覚えた悪魔は、手に持った得物をダスクに近い軌道で軽々と振って恐怖を誘発させようとするが、全身鎧に包まれたダスクの顔色は分からず、少しも後退りもせずに仁王立ちしたままであった。
ズドンッ
何の反応も無く、感情にも変化が無いダスクに、少し掠らせてやろうと悪魔が思った瞬間、ダスクが地響きがする程の強さで持っていた大剣の先を床に突き立てる。動きの止まった悪魔を無視したダスクは、衝撃で恐怖を一瞬でも忘れて自分の背中を見る黒炎達へと言葉を掛ける。
「僕がこいつの相手をするから、皆は自分のやるべき事をやってくれ」
そう言ったダスクは、背中の盾を外して左手に持ち、床に突き刺さっている大剣を右手で引き抜いて構える。何を言われたかすぐには分からなかった黒炎達であったが、その内容が次第に理解出来てくると、驚いたように改めてダスクの背中へと視線を向ける。
「無茶だ、ダスク。悪魔族は低級でも手に余るというのに、おぬし一人で相手をするなど……」
「そうよっ、無茶な事はやめて逃げましょっ!!」
二人の言葉を聞きながら、先程とは違って落ち着いた様子に戻った黒炎は、呆れたような口調になる。
「やれるのかい?ダスク。というより、強い敵と戦えるから嬉しいっていう感じか」
「まあ、見ててくれ。絶対に皆を護ってみせるから」
ダスクと黒炎の会話で驚きの感情に支配された二人の感情が、好みのモノから遠ざかった事に加え、ダスクの正の感情が強くなって不快さを増してきた事で、悪魔は怒りに顔を歪める。
『コノ期ニ及ンデ世迷言ヲ言ウトハナ。良カロウ、ソノ言葉、後悔セヌト良イガナ』
そう言った悪魔の目が赤黒い光を放つと同時に、今迄止まっていた骨人間が再び外の闇から教会跡へと侵入を開始する。
『クックックッ、我ノ相手ヲシテイレバオ前以外ハ安全ダト思ッテイタノダロウガ、ソウハイカン。
自ラノ無力サヲ噛ミシメルノダナ。ソレデハ、セイゼイ楽シマセテモラオウカッ』
ガキッ
振り下ろされた棍棒を盾で受け止めたダスクは、悪魔の規格外の力に平然としながらも、皆を援護する余裕は持てずに歯噛みする。
「くっ、皆っ、大丈夫かっ?」
「こっちの事は気にしないで自分の相手だけに集中しろっ。
おぬしが倒れれば、必然的にこちらに悪魔の攻撃が来るのだからな」
「そうよっ、私達は私達に出来る事を果たすわ。貴方には負担をかけちゃうけど頑張って、ダスク」
「やっちゃえ、ダスク」
ダスクを安心させるように声を掛ける黒炎達であったが、実際はウィリアム一人で戦っているようなものなので、ウィリアムは内心冷や汗を流しながらであった。その様子を見詰めるフローラルは、少し前にやっていた作業を再開する。鞄を検めていたフローラルは、森で襲われた時に採取した青白い草の入ったビンを取り出し、中の草の乾燥状態を確認する。納得のいく状態だったらしく、一つ頷くと、大きな乳鉢を取り出してその中に青白い草と一緒に様々な薬草を加えていく。それを磨り潰していると、興味を持った黒炎が近付いてきて覗き込む。
「それは何をやっているの?ローラ」
「ん?襲われた時に取ってきた草よ。
使う機会は無いかと思っていたけど、その機会がすぐに訪れるなんて皮肉なものね」
ドガッガラガラッ
何かが石壁にぶつかって崩れる音が聞こえてきて、その方向に黒炎とフローラルが視線を向けると、壁際で膝を床に着くダスクの姿が飛び込んでくる。
「ダスクっ!」
驚いた黒炎は名前を呼び、悲鳴を押し殺したフローラルは不安な顔になって動けなくなる。心地良い負の感情にニヤリと口を歪める悪魔は、棍棒を肩に担いでダスクを見下ろす。
『クックックッ、口ホドニモナイ奴ダ。
モットモ、ソコマデ後ロヲ気ニシテイレバ誰デアッテモ同ジダロウガナ』
「くっ」
立ち上がったダスクは、ダメージはほとんど無いようであったが、その動きは鈍く、集中出来ていないのが近くに居なくても感じられた。
「急がないと」
そう言ったフローラルは作業を再開して何かの調合を続ける。その間もダスクは何度も吹き飛ばされ、骨人間と戦っているウィリアムも気絶している三人組を加えた皆を庇いながら戦っている為、全身に細かい傷を無数に受けてしまう。その様子をダスクの相手をしながら機嫌良く窺っていた悪魔であったが、思った以上に耐えている事を疑問に思っていた。
(『僕ノ数ガ思ッタヨリモ少ナイカ?マッタク、役ニ立タナイ奴等ダナ』)
その頃、廃村の入口では侵入者に自動的に反応した骨人間が、その侵入者に返り討ちにあっていた。侵入者は自らが片手に持ったランプで照らされており、猛禽類の様に鋭い碧瞳と短く刈った金髪の二十代後半位の抜身の剣の様な男性で、見上げるような身長に分厚い筋肉がバランス良く付いた戦う身体をしている。もう一方の手に持った普通なら両手で持つ大剣を軽々と振り回して、近寄ってくる骨人間を次々と粉々に砕いて吹き飛ばしていく。
「悪い予感は当たると言うが、これは面倒な事になった。やれやれ……」
退けるそばから次の骨人間が襲ってくる事に加え、その背後には周囲を埋め尽くすような数が控えているのが見える。侵入者の男性は、一つ溜息を吐くと、作業をこなす様に大剣を振り続けていった。
作業をしていたフローラルは、普段の調合よりも急ぎつつ細心の注意を払っていたので消耗も激しかったが、汗の浮かんだ額を拭いながら最善を尽くせた者らしい笑みを浮かべて手元の小瓶を見詰める。
「出来たわ。これで少しは楽になるといいんだけど……」
光明の見えない戦いに、次第に動きの鈍くなってきたダスクとウィリアムであったが、教会跡に侵入している骨人間が突然崩れ落ちると共に、出入り口や窓の外側に居るのが入って来れなくなったのを見た悪魔が、原因を確認しようと動きを止めた事で一息吐く事が出来た。
『コレハ一体ドウシタ事ダ。娘ッ、ソコデ何ヲシテイルッ』
その場の視線が集中したフローラルは、恐怖に負けそうになる心を奮い立たせて毅然とした顔を正面に向ける。
「邪悪なるモノを退ける魔法薬を調合したのよ。ここに来る時に偶然材料を手に入れる事が出来たから」
「おぉ、見事だ。我が愛しのローラよ」
「すごいよ、ローラ」
「さすがは専門分野には強いな、ローラ」
『クッ、小娘ノ分際デ生意気ナ奴ダ。今スグ叩キ潰シテクレルワッ』
「!?」
巨大な棍棒を振りかざして向かってこようとする悪魔の恐ろしい姿に、フローラルは動けなくなるが、足を踏み出そうとした悪魔の目の前に進み出る者が居た。それは言うまでも無くダスクであったが、先程よりもその背中が大きく見えていた。
『性懲リモ無ク、我ノ前ニ立チ塞ガルカ。全員叩キ潰シテ我ガ糧トシテクレルワ』
「やっと本気で戦えそうだ。念の為、そっちで周囲を警戒していてくれ、ウィリアム」
一緒に戦おうと足を踏み出そうとしたウィリアムに、ダスクは兜の中で笑みを浮かべながら力強い言葉で皆の事を頼む。足取りも軽く足を踏み出したダスクは、大剣を数度振って自分の状態を確かめた。
『先程マデ手モ足モ出ナカッタ奴ガ、何ヲ言ッテオルノダ。サッサト潰レルガイイッ』
ガキッ
渾身の力を込めて振り下ろした棍棒が受け止められるのではなく、軽く振った様に見えたダスクの大剣で横に弾かれた悪魔は、目の前の出来事が信じられない様子であった。それは黒炎を除くフローラル達も同じで、ダスクの本気を見た事の無かった二人は、ポカンとした顔でダスクの背中を見ていた。
「その程度じゃ僕には通じないよ。あんたも本気を出さないと叩き潰されるのはそっちだぞ」
『グゥ、生意気ナ奴ダ。確カニ武器ダケデハ手コズリソウダナ。オ望ミ通リ我モ本気ヲ出シテヤロウ』
そう言って棍棒を片手に持ち替えた悪魔は、もう片方の手を頭上に上げて掌を真上に広げる。そのままダスク達には分からない言葉を呟き始めると、掌の上に炎の塊が出現して加速度的に大きくなっていく。それは以前見た人間の魔法使いの魔法の炎とは違って、赤黒い色をした見ているだけで何かが吸い取られそうな禍々しいモノであった。
『燃エ尽キルガイイ』
ゴゥッ
力みも何も無く軽い仕草で放り投げられた炎の塊は、急に速度を上げてダスクへと向かってくる。それを見ても動じる事のないダスクは、盾を構えて迎え撃つ素振りを見せるが、フローラルとウィリアムは焦ったような顔になる。
「駄目よ、ダスクっ!逃げてっ!」
「うむ、直撃したらさすがに致命的だぞ」
「ダイジョブだよ。あれくらいならダスクには効かないから」
ダスクが炎の塊を避けるのに合わせようと身構えながらそう言う二人に、黒炎は落ち着いた様子で宥めるように言葉を掛ける。自分自身の感じている恐怖と、ダスクの実力については完全に別物と考えているので、実力を発揮できる状態になったダスクの事は全く心配していなかった。それ以上何かをする時間も無いまま、炎の塊は盾を構えるダスクへと襲い掛かる。
「きゃぁぁぁっ」
「ぐっ」
盾にぶつかった炎の塊は炸裂して光と炎を撒き散らす。その光に目を細めながら、ウィリアムはフローラルを庇い、フローラルは最悪の結果を想像してギュッとつぶった目の端から涙を滲ませていた。すぐに襲ってくるであろう炎の熱を想像していたが、いつまで待っても届かない事に訝しそうな顔になってダスクの居た場所へと視線を向ける。そこには想像していなかった光景があった。何も無かったかの様にダスクは先程までと同じ格好で立っており、その足元を見ると、そこから左右に向けて床が焦げてうっすらと煙を上げている。それだけが、炎の塊が確かに襲い掛かってきた事を証明していた。
『無傷ダト?何故ダ、我ハ手加減ナドシテイナイトイウノニ……』
「残念だけど、魔法攻撃みたいなのは僕には効かない。それじゃあ、今度はこっちの番だな」
ダッ
力強く踏み込んだダスクは、真っ向から悪魔に大剣を叩きつける。それを慌てて両手で持ち直した棍棒で受け止めるが、人間が打ち込んできたとは思えない重さの斬撃に、受け止めた格好のまま短くない距離を押し込まれていく。ようやく止まったところで、力比べの様な状態になるが、悪魔が両手で構えているのに対して、ダスクは片手で大剣を構えているので、その優劣は歴然であった。
『グッ、何ダコノ力ハ。本当ニオ前ハ人間ナノカ?』
「失礼な事を言ってくれるじゃないか。人間に決まっているだろ。
それより、おしゃべりをするなんて余裕だな。これからどんどん上げていっても大丈夫そうだ」
『クッ、待ッ……』
悪魔の言葉を待たずに大剣を引いたダスクは、そこから振りの速さを段々と上げていく。防戦一方になった悪魔は、更に上がっていく大剣の斬撃に、ここで初めて己の中に恐怖の感情を意識し始めた。それを認めたくなかった悪魔は、斬撃の嵐に訪れた一瞬の隙間を狙って反撃を試みる。限界まで力を込めた筋肉は倍くらいに盛り上がり、先程までのダスクのお株を奪うかのような嵐の様に激しい乱打であった。周囲から見ると防戦一方になっているようなダスクであったが、兜の中のその口元には笑みが浮かび、強敵と剣を交える事を楽しんでいるかのようであった。
『ソロソロ負ケヲ認メテモ良イノダゾ。ソウスレバ、一思イニ止メヲ刺シテヤロウ』
「楽しくなってきたところだから、もっと本気を出してくれるといいんだけどな」
呼吸が荒くなり、動きが鈍くなってきた悪魔の様子に、見えてはいないがダスクは残念そうな顔になり、黒炎は嬉しそうに尻尾を振っていたが、他の二人はホッとしつつも不安な顔のままであった。
ガキッ
『グッ、オ前ニハ何カ望ミハ無イノカ?』
棍棒と大剣が噛み合って動かなくなったところで、ダスクは悪魔から唐突にそんな言葉を掛けられる。
「望み?それがあんたに何か関係があるのか?」
『モシオ前ガ我ノ僕トナルノナラ、何デモ願イヲキイテヤロウ』
「それだけで何でもきいてくれるって言うのか?」
『クックックッ、金デモ名誉デモ、ナンナラ女デモ良イノダゾ』
「それはすごいな」
肯定的なダスクの受け答えにニヤリと口を歪めた悪魔の顔を見ながら、フローラルとウィリアムは心配そうな顔になる。ダスクならその申し出を受けないと希望を交えて予想していたが、どんな人間でも何でも願いが叶うなら少なからず心が揺れ動きそうだと思ったからだ。そんな二人の様子に、黒炎は呆れたように息を吐きながら首を振る。
「ダスクは絶対にボク達を見捨てないよ」
「そうよね。私も信じているけど……」
「うむ、そのような者では無いと思っているが」
「だったら信じようよ。みんな仲間なんだからさ」
そんな会話が背後でされているとは思っていないダスクは、悪魔の顔を見ながら一つ頷く。
「それじゃあ願いを叶えさせてもらおうかな」
『ククッ、サア願イヲ言ウガ良イ……ハ?叶エサセテモラオウ、ダト?』
「ああ、僕の願いはあんたのような奴から、皆を護る事だからなっ」
『グッ、貴様ァッ!』
力で棍棒を悪魔ごと弾き返したダスクは、勢い良く踏み込むと、こちらを叩き潰そうと振り上げた棍棒を振り下ろしにくい懐へと入り込み、目にも止まらぬ速さの突きを放つ。踏み込んだ足の下の床には足型が残り、その周囲は蜘蛛の巣の様にひび割れ、その突きにどれ程の力が込められたかが想像できた。
『グアァッ、コノ程度デ我ハ死ナンッ!コノママ叩キ潰シテクレルワッ』
身体の中心に突き刺さった大剣は、悪魔の背中まで抜けており、誰が見ても致命傷に見えていたが、悪魔の生命力は並ではないらしく、振り上げた棍棒を両手で逆手に持ち直すと、ダスクの頭上から突き刺すように落とそうとする。しかし、次の瞬間、悪魔は動きを止めて苦しみだした。
『グガァッ、何ダコレハ!?我ノ身体ガ崩レテイク……オ前ノ仕業カ?一体何ヲシタッ』
「僕の武装は材質が少し特殊なんだよ。それよりも、人間を見くびり過ぎだ」
霞む目をダスクの背後へと向けた悪魔は、そこでこちらを見ている黒炎の姿を今初めて意識しながら目にすると、何かを失敗したかのように悔しそうな顔になる。
『クッ、火獣ノ加護ガアル装備ダッタトハナ……』
「カジュウ?良く分からないけど、さっさと元の世界へ消えてしまえっ」
『グゥッ、申シ訳アリマセン、我ガ王ヨ……』
その言葉だけを残して赤黒い細かな光の粒まで砕けた悪魔は、魔法陣が有った場所へと吸い込まれるように消えていく。その瞬間、外で蠢いていた骨人間の全てが、細かく崩れてそこかしこに白くて小さい山を作っていった。
「ふぅ、なんとかなったみたいだな。皆は大丈夫かい?」
「ダイジョブだよ。やっぱりダスクは強いな~」
振り返ったダスクは、兜を脱いで皆の無事を確認するが、嬉しそうに尻尾を振る黒炎以外は固まったまま何か怖いモノを見たかのような顔になっていた。
「二人共どうしたんだ?揃って変な顔してるけど、僕の顔に何か付いてるとか?」
そう言って笑顔になったダスクの顔を見た瞬間、ハッとしたフローラルとウィリアムは気まずそうな顔になってしまう。
「はぁ、何やってるのかしらね。
信じられないくらい強くても、ダスクの内面が変わるわけじゃないのに。
助けられておきながら、こんな事を思っている私達って駄目な人間ね」
「うむ、貴族にあるまじき心の狭さだった。まずは感謝するのが最初であるというのにな」
「ん?二人が何を言ってるのか分からないけど、皆が無事で良かったよ」
「そうそう、みんなが無事って以上にイイコトなんてないって」
全員が笑顔になって、皆が命の危機を乗り越えられた事を喜び合う。もう安全だと思った一同は、力が抜けて焚き火の周りに座り込む。この瞬間に再び何かが襲ってきたらすぐには動けないだろうと、ダスクも含めて全員が思っていた。
ジャリッ
教会跡の出入り口から聞こえてきた物音に、気が抜けていた一同はビクリと身体を震わせて顔だけそちらへと向ける。皆が向ける視線の先の暗がりから、何者かの足の先が焚き火の明かりに照らされながら近付いてくる。案の定、動けなくなっている一同の視界へ一人の男性が現れた。
「なんでそんな顔をしている?」
呆気に取られてボケッとした顔になった一同を見渡しながら、呆れた顔になった男性はそう言って肩を竦める。最初に我に返ったダスクは、良く知っている人物の登場に驚いていた。
「アーノルド先生?」
「ああ、そうだが。まさかお前達、何か悪い物でも食べたのか?」
「そんな事しませんよ。先生がこの場所に居るのが不思議で驚いているだけです」
「ん?ああ、ちょっと野暮用でな。ふむ、その三人も無事だったか」
「え?先生はこの三人がここに居るって知っていたんですか?」
「少し様子がオカシイという報告があってな。心配した学院長の命で探しに来たという訳さ」
「そっか、学院長のおっちゃんは何かオカシイって分かってたんだね」
「ああ、だからお前達の行き先、これもその三人に無関係じゃ無かったからな。
そうやって追いかけて来たら、まさか動く人骨模型に襲われるとは思わなかったがな」
「あ、やっぱり先生も襲われたんですか?先生だったら無事だとは思いますが、大丈夫でしたか?」
「ん?ああ、手応えは無かったが、なにぶん数が多かったから時間はかかった。
それで、さっき急に残り全部が崩れたから、明かりの見えるここに来たって訳だ」
「なるほど」
「とにかく、お前達は明日一番で王都に帰れ。この三人の事は私に任せておけばいい」
「えっ、でも、私達のミッションはどうなるんでしょうか?」
ダスク達の会話を黙って聞いていたフローラルが、ふと疑問に思って質問をする。
「元々、この依頼は嘘の依頼だったからな。
評価についてはお前達の報告書から出す事になるから心配するな」
「わかりました」
「今回は学院の不手際もあったから、割り増しでポイントは加算されるだろう。
今後はこんな事が起きないように注意するから、増えたポイントで納得してくれ」
不服そうな顔をしていたフローラルの顔に、苦笑しながらアーノルドは頼んでくる。それに溜息を吐いて頷いたフローラルは、教師の存在のも助けられて、やっと安心した顔になった。
それからは、不寝番を代わろうとするのをダスクに説得された皆は、緊張の糸が切れたようにあっさりと眠りの世界に入っていった。その様子を見ていたアーノルドは、真剣な表情に変えた顔をダスクに向けて確認を取る。
「お前達を襲った奴が悪魔族だったのは、確かか?」
「はい。僕達の言葉では中級悪魔らしいです」
「中級悪魔か……良く無事で退けられたな。
お前の力量なら分からなくは無いが、強力な魔法には苦しめられたんじゃないか?」
「そうでもないです。僕の装備は魔法に強いですから」
「ふむ、なるほどな。武具は戦闘職にとって命とも言える物だから大事にするといい」
「はい、そのつもりです。父親の形見でもありますから」
「そうか。ところで、お前は寝ないでもいいのか?私が起きているから心配しなくてもいいぞ」
「ありがとうございます。でも、僕達もチームを組んでいる以上、僕達でやらないと」
「なるほどな。それなら悪魔との戦闘の話でも聞かせてもらうかな」
「はい。まず最初は……」
戦闘中は長く感じていたが、それ程長い時間戦っていた訳ではなかったらしく、まだまだ明日の朝は来ないようである。焚き火を囲んで会話をしながら、色々な事が有った一日だったと思うダスクであった。
命の危険を退けたダスク達一行は、ひとまず三人の事は任せて明日には王都へと帰れる事になった。今回のミッションでは色々な事が有ったが、終わり良ければ全て良しという風に、ダスク達は無事に学院に帰って週末の最終日をゆっくりと過ごせるのだろうか。
楽しんで頂けたでしょうか。続きも早く読んで貰えるように頑張ります。




