ミッションは簡単じゃない
同じペースで続けられるように頑張っていますが、もう少し早く上手く文章を書けるといいのになと、いつも思っています。
バキバキッドガッ
木の裂ける様な音が連続で聞こえた後、何か重い物が落ちる音が続く。周囲には埃が舞い上がり、目で見ても何が起きたのかを確認する事は出来そうも無かった。少しして埃が収まってくると、そこに何か黒っぽい影が動いているのが分かり、その場所から何者かの声が聞こえて来る。
「ゴホッ、ゴホッ……床が抜けるとは思わなかったな。むぅ、これってまた反省文かな……」
舞い上がる埃に咽ながら、そんな事を呟く人影の正体は完全装備のダスクで、鎧を含めた重量は自分では軽々と動ける重さだったが、脆くなっていたらしい木の床はそうもいかなかったようで、その重さにあっさりと抜けて床下の地面へと落下してしまう。やれやれと、兜に包まれた頬を掻いていると、頭上の抜けた穴から心配そうな声が掛けられる。
「大丈夫?やっぱり重さに耐えられなかったみたいね。依頼主に怒られるかしら、コレ」
声の主は穴の縁から覗き込んでいるフローラルで、今は翠の瞳でダスクを心配そうに見ながら、依頼主の評価についてあれこれ考えているようである。
「ふむ、床が抜けるとは普請がなっとらんな」
続けてフローラルの隣から見当違いの言葉を掛けてきたのはウィリアムで、一応チームのリーダーで依頼について色々と心配しなくてはならない立場だが、他人事の様な態度で周囲の様子を眺めていた。
「あはは、またやっちゃったね、ダスク」
「笑い事じゃないって、黒炎」
穴の周りを前足で突付きながら覗き込んでいる黒炎は、ミッション自体よりもその場で起きる色々な事が楽しいらしく、面白そうに大きな尻尾を振りながら紅い瞳も楽しげに光っていた。
チームメイト達を見上げながら抜けようともがいていたダスクであったが、動く度に埃が舞い、周囲が崩れそうになるので慎重に動く事にする。しかし時間が思ったよりかかりそうだったので、ミッションを先に進めていてもらった方が良いと思い、見ている皆に声を掛ける。
「ちょっと抜けるのに時間がかかりそうだから、先に行って始めちゃっていいよ」
「無理しなくていいからね。今日こそはあまり周りを壊さないように注意して」
「ごめん。努力するよ」
「あはは、最近やっちゃってるからね~」
まだ心配そうなフローラルと、終始楽しそうな様子の黒炎に続いて、我関せずのウィリアムも建物の奥へ先程よりも慎重な足取りで向かって行き、すぐにダスクの居る場所からは姿が見えなくなる。自分も遅れている場合じゃないので、脱出する為に脆くなった建材をグラつかせながら、ミッション実習が始まってからの日々を思い返していた。
チーム決めの期限が切れた次の週からさっそく実習が開始され、チームごとに振り分けられたミッションを週一でこなし始めていた。チームごとに受ける日も違うので、週の頭に連絡を受けて当日、基本的に午後からの実習時間に現地に移動するが、中には午前から始めないと駄目なモノもあるので、その時は朝から居ない生徒達の席が空いているのですぐにそうだと分かる。それぞれのミッションには依頼主が居るので、実習の評価は依頼主の評価と実際に受けた生徒達の報告書を合わせたモノになり、そこから出されたポイントを積み重ねていく。最終的に進級の是非を問われる時には、このポイントの累計が大切になってくるので、良いチームメイトを得る事が重要であった。
ギリギリでなんとかチームを組めたダスク達は、さっそく今週のミッションへ向かう為に我が家へ集まると、リーダーのウィリアムが受け取ったミッションの内容を記す紙を皆で回して読んでいた。
「今日からみんなでジッシュウだけど、どんなコトをするのかな~」
「これによると、商業区、港に面した地区ね、そこで依頼主の商人の頼みを解決するらしいわ」
「くわしいコトは書いてないの?ローラ」
「ええ、現地で実際に商人から話を聞く、そこから自分達でやるみたいね」
「ふむ、余に足を運ばせるとは、その商人とやらは随分と大きな商会に所属しておるのだな」
「そんな事はないわよ。一個人の商人、自分で解決できる資金も時間も無いから、私達が手伝うのよ」
「ふむ、弱者の救済という事だな。余は貴族であるから、義務を果たそうではないか」
「はあ、頑張ってね、ウィリアム。そういうところは素直に感心できるわね」
「とりあえず昼御飯を食べてから行こうか。お待たせ、簡単なモノだけど食べてくれ」
台所で昼食を作っていたダスクが戻ってきて声を掛けると、黒炎は嬉しそうに尻尾を振りながら頷く。
「お腹空いちゃったから、まずは腹ごしらえからだね」
いつもの黒炎の反応に、微笑するフローラルと、昼食が用意される事が当たり前だと思っているウィリアムは、いつもの席に座って出された料理を見る。今日は貝と野菜の濃いめスープの中に、穀物の粉を練って麺状にして茹でたモノが入っている。器の脇にはフォークとスプーンが添えられており、それぞれを使って食べてくれとダスクは説明した。フローラルやウィリアムはテーブルマナーも分かっているので、その言葉も必要無く綺麗に黙々と食べてくれていたのに加え、表情から味にも特に不満は感じられず、ダスクも内心ホッとしていた。
「ごちそうさま~。ボクにはちょっと食べにくかったけど、味は美味しかったよ」
「ごちそうさま。いつも思うんだけど、ダスクって器用よね。街で見かけた料理を即興で作るなんて」
「手先が器用なのは職業柄だから。でも、本物はもっと美味しいと思うけどね」
「余は満足しておる。謙遜せずとも良いのではないのかな」
「そっか、皆ありがとう。また何かあったら作ってみるよ」
「うんうん、それがいいよ。ボクは美味しいモノが食べられればオッケーだから」
最終的にはいつもの答えの黒炎に、一同は笑みを浮かべながらフローラルの淹れてくれたお茶を飲んで、昼食後の一休みをしていた。一服した後、片付けを終わらせ戸締りを確認すると、ダスクは完全装備になって先に出ていた黒炎達と合流する。フローラルは普段から持っている薬草類の入った鞄と制服の上に外套を纏っただけの格好で、ウィリアムは前述の鎧と剣を装備した状態で待っていた。チームでの実習は、基本的に自分の装備を着けて行う事になっており、どのような状況でもその格好で動けるようにするという意図があるという話であった。それでも黒炎は学院に所属している事を示すペンダントだけなので、見るからに身軽そうである。全員揃った一行は、学院の出入り口である門で守衛に目的を告げて外出の許可を貰った。
「たのしみだな~。どんなコトをやるんだろう」
「真面目にやらないと駄目よ、黒炎。これでも一応、学院の授業の一環なのだから」
「かたいよ、ローラ。どんなコトでも楽しんでやれれば、きっとうまくいくって」
そんな話をしながら先頭を並んで歩く黒炎とフローラルに続いて、偉そうに歩くウィリアム、そして最後尾で皆を護るように歩くダスクは南下し、一旦中央通りに出てから商業区へと向かう。商業区と港がちょうど接する場所の人気の少ない場所に、その倉庫はあった。木造のしっかりした造りの建物だが、かなりの年季が入っているらしく、外観はボロボロに見える。その倉庫の出入り口に、一人の初老の人物が立って誰かを待っている様に見えた。
「あのヒトじゃないの?なんだか誰かを待ってるみたいに見えるよ」
「そうかもしれないわね。それじゃあリーダーが……やっぱり私が声を掛けるね」
ウィリアムの顔を見たフローラルは、すぐに考えを改めて自分が交渉役をする事に決めたらしい。ダスク達にこの場所での待機を伝えてから、依頼主らしき人物へと近寄って行った。推測は当たっていたらしく、しばらく会話を続けてから、話をしていた人物はフローラルとこちらに軽く頭を下げてからどこかへ、おそらく自分の店に向けて去っていった。手招きに応じてダスク達が近寄っていくと、フローラルが少し微妙な表情で何かを呟きながら待っていた。
「う~ん、オルフィエルド学院への依頼だから、戦闘とか……これもある意味戦闘かしら?
私個人ならいいけど、これが学院の実習でやる事なのか、ちょっと疑問に思うわね」
「どうしたんだ?何か問題でもあったとか」
「えっ?ああ、なんでもないわ。依頼主に話を聞いたから、今から説明するわね」
「よろしく~。なんかドキドキするね」
「どの様な事であれ、余が来たからには万事解決であるな」
一様に期待しているような顔をしているダスク達に、少しためらいながらもフローラルは説明を始める。
「ええっと、期待してるところ申し訳ないんだけど、そこまですごい依頼では無いわよ。
もったいぶっていてもしょうがないから言うけど、この倉庫のネズミ駆除よ」
「ネズミか~、アイツラすばしっこいからタイヘンそうだよね」
「「は?」」
黒炎は遊びを楽しむような雰囲気だったが、ダスクとウィリアムは揃ってポカンとした顔になり、確認するようにフローラルの顔を見る。しかし、言った事に間違いは無いらしく、それに苦笑いをしながら肯定の頷きを返してくる。
「残念ながら本当の事よ。とりあえず暗くなると困るから、早く始めちゃいましょう」
「ネズミをさわると汚れるからイヤだけど、ボクもがんばるよ」
倉庫の扉を開いて入っていく黒炎とフローラルの背を見ながら、呆然としていたダスクとウィリアムは顔を見合わせる。
「敵は強敵だけど行こうか、ウィリアム」
「相手にとって不足は無いな、ダスク」
その言葉からは本気で言っているとは聞こえず、全くやる気が感じられない。そんな二人の様子に、倉庫の中で待っていたフローラルは不機嫌そうな顔になる。
「依頼をした人は困っているから頼んだのよ。いつまでもそんな態度なのは感心しないわ。
困ってる人を助けるのもあるけど、ミッションなんだからちゃんと解決してポイントを稼がないと」
それを聞いたダスク達は、ハッとして表情を気まずい物に変える。内容はどうあれ、これから先へと進んで行く為には、実習をこなして必要なポイントを積み重ねていかなくてはならない事を思い出す。
「ごめん。確かにローラの言う通りだ。実習だからって思い違いしていた。
僕も困ってる人が居たら助けたいと思う」
「皆の見本となるべき余が、不真面目であったな。許してくれ、ローラ」
「分かってくれたらいいのよ。さあ、協力してさっさとやっちゃいましょう」
皆で頷き合い倉庫へと入ると、一足先に入っていた黒炎が何かを前足で押さえながら、ダスク達へと不満そうに声を掛けてくる。
「遅いよ、みんな。もう一匹捕まえたけど、これってどうするのかな?」
退治の手段を何も考えていなかったダスク達は、顔を見合わせて困惑する。全て捕まえて退治する事なんて、自由に出入り可能なネズミに対して短時間では出来そうにないからである。困った顔の男性陣を余所に、何かを考え付いたらしいフローラルは、自分の考えが良い物かどうかを検討しているらしく、ネズミを押さえながら三人の方を見ていた黒炎にはそれが良く分かった。しばし考えていけると結論したらしく、フローラルは皆の視界に入る位置に移動する。
「私に考えがあるんだけど、聞いてもらえるかしら?
倉庫は広いし隙間も多いわ。例え今日全部を退治したとしても、すぐに周囲の倉庫から戻ると思う。
だからここは私の専門で解決するわ。ネズミ避けの薬草を焚いた後、周囲に散布して予防するの」
一気に言ってから周囲の反応をまつフローラルであったが、何も言ってこないダスク達に不安そうな顔を向けてくる。それを見たダスク達は、誤解させるような態度だったかと、笑みを浮かべて答えを返す。
「反対って事じゃないよ。逆にそれ以外に解決法が無さそうだから黙ってた」
「うんうん、そのとおりっ。ローラの考えた方法でいいんじゃないかな」
「余もその意見には賛成だな。さすがは、我が愛しのローラだ」
「それはもういいから……ありがとう、ダスクと黒炎、オマケでウィリアム」
「むぅ、オマケ……」
「僕達は皆、ローラの事を信頼してるよ。それじゃあさっそくやろうか、指示よろしく、ローラ」
「分かったわ。それじゃあ……」
ローラから受けた説明を元に、ダスク達はそれぞれの役割を果たそうと動き出す。薬草の準備をするローラを残してダスク達は、周囲の倉庫や建物に居る人達に今回の趣旨を伝えて煙が出ても問題無い事を説明して回る。黒炎は捕まえていたネズミを倉庫の外に追い出してダスクと一緒に歩いていた。全ての準備が終わって、全員が倉庫の前に戻ってきたところでフローラルが一歩踏み出す。
「始めるわね」
フローラルが倉庫に入って少しすると、出てきた彼女を追いかけるように真っ白な煙が湧き出してくる。それと同時に、どこにそれだけの数が居たのか分からないくらいのネズミが、煙を嫌って逃げ出してきてダスク達の足元を覆い隠す。少数なら平気だったフローラルであったが、これだけの数だと駄目らしく、思わずダスクにしがみついてくる。意外に思ったダスクであったが、少しでも遠い方が良いと思って、そのまま担ぎ上げて鎧の肩に座らせる。
「ひゃっ」
突然の事に普段聞かないような声を出してしまったフローラルであったが、安定して少しもぐらつかないダスクの様子に、兜につかまらせてもらいながら安心してネズミが居なくなるのを待つ。ネズミからは離れられたが、その状態で居る事は恥ずかしいらしく、その頬は少し赤く染まっていた。
「ボクも載せてもらえば良かったよ」
ネズミの集団から抜け出して近くの樽に飛び乗った黒炎が、身体を振って乱れた毛を直してから疲れたように言う。近くで聞いていたウィリアムも何故か同意するように頷いていた。
「ありがと、ダスク」
ネズミが出てこなくなったので、ダスクはフローラルの感謝の言葉を合図に地面に降ろすと、フローラルの方へ片手の掌を上にして差し出す。
「あとはネズミ避けの薬草を撒くだけだから、僕とウィリアムでやるよ」
「そう?それじゃあ、コレ。ダスクは内側の隙間がある所、ウィリアムは外側に薄く満遍なくよろしく」
「了解」
「承った」
薬草の粉末を受け取ったダスク達は、外と内に別れて倉庫の床や壁を検分する。暗い倉庫内に入ったダスクは、隙間を探すのに集中していたので、足元からのその音に気付くのが遅れてしまった。
メキメキッバキッ
木の軋む音が聞こえたと思った次の瞬間には、ダスクの足が床板を踏み抜いて大穴を開けてしまう。音に驚いた黒炎とフローラルが駆けつけると、気まずい様子で頭を抱えるダスクの姿があった。
「やっちゃったね~。依頼主さんに怒られちゃうかな、コレ?」
「むぅ、ごめん。古いけど頑丈そうに見えたから大丈夫かと思ったけど、やっぱり駄目だったか」
「はぁ、やっちゃったものはしょうがないわよ。交代するからダスクは外に居て」
「了解。申し訳無いけど後はよろしく、ローラ」
慎重に穴から足を引き抜いたダスクは、黒炎を伴って倉庫の外へと向かう。肩を落として出て行くダスクの背中を見送り、どう言い訳すればいいかと考えながら薬草を撒き始めるフローラルの顔は、どこか楽しそうな表情をしていた。
全ての作業が終わったところに依頼主が戻ってきたので、最初と同じくフローラルが話をする。説明をしながら倉庫内に入ったところで、穴を見付けた依頼主の怒りの声が上がったが、その事についても何かの説明をしたらしく、すぐに納得したような様子になった。倉庫から出てきた依頼主の表情は満足そうに見えたので、安心したダスク達は一礼する依頼主に礼を返して去っていく背を見送る。笑みを浮かべているフローラルに、依頼主にどんな事を言ったのか疑問に思ったダスクは聞いてみる事にした。
「ところで、あの穴の事は何て言ったんだい?」
「これからも定期的に薬草を撒く必要があるんだけど、床下にも必要だから穴を開けたって。
今回は足の大きさだったから丁度良かったけど、もっと大きかったら難しかったわね」
「それで納得してくれたんだ?あのおっちゃんも良いヒトだね」
「ネズミ避けに使う薬草が安く済むようなレシピを教えたのも効いたのかもね」
「そっか、助かったよ。ローラは頼りになるな」
「ふふっ、チームなんだから助け合わないとね」
「さすがだ、我が愛しのローラよ」
「はいはい、それじゃあ学院に帰りましょうか」
その言葉にダスク達は頷き、学院に向かって歩き出す。色々あったが、最初のミッションが成功した一行は、気分良く足取りも軽かった。
次の週からも週一でミッションを続けていくうちに、ダスク達のチームワークは良くなっていったが、肝心のミッション内容は考えていたモノとは違うモノばかりであった。
ある週の依頼内容は、商会の商会長のペット探しで、王都内の路地を駆けずり回り、最終的には黒炎の鼻のおかげで無事に保護出来たのだが……。
「そっちに行ったよ、ダスクっ」
「了解。ほら、怖くない……あっ、待てっ、うわっ」
ドガッバキッ
「あ~あ、やっちゃったね、ダスク」
「むぅ、困ったな」
置いてあった樽や木箱の成れの果てをみながら、兜の横を困ったように掻くダスクであった。
更に別の週の依頼内容は、従業員が怪我をして次の日まで代わりの人が入れない繁盛店の掃除や厨房で野菜の下ごしらえを山ほどやるモノで、最終的には料理の出来るフローラルの機転で挽回する事が出来たのだが……。
「ふむ、これをこのナイフを使って周囲を削れば良いのだな」
「ナイフじゃなくて包丁ね。周囲を削るっていうか、皮を剥けばいいのよ。本当に大丈夫なの?」
「任せるが良い。そなたの為に成し遂げてみせよう、ローラ」
「チームの為に、ね。それじゃあ任せるわ」
しばらくして戻ってきたフローラルの前には、元の大きさの半分位になった芋が山積になっていた。
「おお、ローラ、終わらせておいたぞ。余にかかればこの程度の事は造作も無い」
「……はぁ、貴方に任せた私が悪かったわ」
誇らしげに言うウィリアムの言葉に溜息を吐きつつ、自分のやっていた掃除と交代したフローラルは、身がたくさん残っていた皮を剥き直し、細かい身とハーブを使って別の料理を作る許可を貰っていた。ちなみに、フローラルと同じく料理の出来るダスクがどこに居たかといえば、店の修繕やその他の力仕事を頼まれていたのでこの場には居なかったのである。
更に別の週の依頼内容は、王都近郊の村の人手不足の農家へ収穫の手伝いで、この時は移動の時間もあるので学院からの許可もあって午前中に出発していた。農作物の収穫には力とコツが必要だったので、ダスク以外は、ウィリアムも力は有る方だが慣れない事であまり役に立たなかった。
「今回もボクは役に立てないや。前みたいに探し物とかだったら良かったのにな~」
「ごめんね、私も力がちょっと足りないから、最後の選別とかしか役に立てないかも」
「むむ、農作物とはこれ程厄介なモノだったのだな。なかなか土から出てこん」
「ははは、こういう時こそ僕の力の見せ所だな。収穫は任せてくれていいよ」
そう言って、ものすごい勢いで土を掘り返しながら地中の農作物を収穫していくダスクであった。
以上の依頼や、それに似た依頼をこなしつつ、失敗の反省文を主にダスクとウィリアムが書いているうちに、いつの間にか二ヶ月程が過ぎていた。週末前の授業が終わり、いつものように黒炎を迎えに学院長室へと向かっていたダスク達は、これまでの実習の内容を話しながら歩いていた。
「それにしても、見事に戦闘とは全く関係無い依頼ばかりだったな」
「そうね。少しはそういうのが有ると思って、回復用の薬草とか用意しておいたんだけどね」
「うむ。余は庶民の生活を知る機会が増えて、統治する側の者としては充実した毎日ではあったがな」
「困っている人を助けるのは良いんだけど、この学院らしい依頼って無いのかな?
今思うと、これってちょっと変じゃないか?」
「それもそうね。そういう依頼が少ないのは良い事だと思うけど、全く無いのは変な気がするわね」
「王都が平和な証ではないか。うむうむ、さすがは王家の治世だな」
「とりあえず、学院長に聞いてみるかな」
また気軽にそんな事を、という風な顔でダスクを見るフローラルではあったが、自身も気になっていた事に答えをもらえるチャンスなので、反対意見を引っ込めるように開きかけた口を閉じていた。
ノックをして学院長室に招き入れられたダスクは、黒炎を撫で始めたフローラルと、最初から質問しようとは思いもしていないウィリアムを余所に、さっそく学院長に質問をしてみる。
「少し聞いても良いですか?学院長。ミッションの依頼内容の事なんですけど」
質問の内容に、予想していたかの様に表情を変えなかった学院長は、壁際の机に座って書類を検めている女性に視線を向ける。
「ダスク君の質問に答えてあげてくれるかな、セシリアくん」
「全てですか?」
「特に内緒にしなければならない事は無いから構わんよ」
「畏まりました、学院長」
そう言って立ち上がったセシリアは、ダスク達の前まで歩いてくると、質問を待つ体勢でダスクの顔を見る。学院長はセシリアの後ろ、立派な造りの席に座って興味深げにダスク達を眺めていた。
「最初に聞きたいのは、僕達への依頼に戦闘に関するモノが一つも無いのはどうしてかって事です」
「なるほど。まず先に言っておきますが、生徒達に振り分けられる依頼は内容ごとに条件があります。
まず依頼主の希望する人数のチームで分けられ、次にチーム内の専門の分布を考慮します。
おそらくですが、貴方達のチームの人数が最少なので、同じ様な依頼が多いのでしょう。
戦闘がある様な依頼には、もう少し人数の多いチーム向けになっていると思います」
「それじゃあ、僕達には戦闘のある依頼は絶対に来ないという事ですか?」
「それは分かりません。少人数を希望する依頼主が居れば可能性は有ります」
「そういう人が居なければ、いつまでも変わらないって事か……」
「そうですね。ですが、戦闘職だからといって戦闘だけしている訳ではありません。
助けを必要としてくれる人間が居るなら、それを助けるのも良い経験になると思いますよ」
「確かにそうですね。答えてくれてありがとうございました」
「仕事ですので、気にしないで下さい」
溜息を吐いているダスクの様子に、話を聞いていた学院長が励ますように声を掛けてくる。
「君達が受けた依頼の依頼主達からは、失敗以上に仕事振りに満足していると感謝する言葉が多い。
急がば回れ。遠回りだと思っても着実に進んで行ければ、ヒトは確実に成長していけるのだよ」
「分かりました。これからも変わらず頑張ります」
「うむ。皆で協力して精進したまえ」
頷いたダスクは、皆を促して学院長室を退室する。その背を見送った後、笑顔の学院長と微かに笑みを浮かべたセシリアは顔を見合わせる。
「素直な良い子達だ。そういうところは、このまま変わらないで欲しいな」
「そうですね。身分で変わらないダスク君の態度は、他の二人にも良い影響を与えているみたいです」
そんな事を言われているとは思わないダスクは、今日の昼食は何を作ろうかと考えながら歩いていた。
宣言した通りにミッションをこなしていくダスク達は、依頼主達からの評判も良く、ダスク達には知らされなかったが依頼主から指名される事も何度かあった。そして最新の依頼中の状況へ、物語は冒頭へと続く。
なんとか抜け出したダスクは、大穴を開けてしまったので、背嚢から大工道具と木材を出して簡単な補修をする。何故、大工道具等を持ち歩いているかというと、これまでの依頼で分かるように、物を壊す事が度々あったからである。軽く踏んでみてグラつかないようなので、満足そうに頷いたダスクは、皆を追いかけて建物の奥へと向かった。今回ダスク達が来ているのは、城の近くの兵舎で、依頼内容は予備の武器庫の整理整頓と、武器防具の修繕等である。しばらく暗い廊下を歩いた先にダスクを除いた一行が、突き当りの部屋を覗いた格好で動かなくなっている様子が見えてきたので、不思議そうな顔になってその後ろから部屋の中を見てみる。
「これは……スゴイな。近場なのに午前中からな理由がコレか」
「あ、早かったわね。聞いていた以上の状態じゃないの、コレ」
「全部やる必要は無いって言ってたけど、やれるだけやってみよう」
「そうしましょうか。それじゃあ今日は、こういう事に詳しいダスクが役割分担を決めて」
「了解。ところでウィリアムは武器の手入れは出来る?」
「うむ。余は自分の剣の手入れは自分でやっておる」
「なるほど。それなら僕は防具の修繕で、ウィリアムが武器の手入れをやろう。
ローラには修理の必要が無さそうなモノを綺麗にしてもらおうかな」
「分かったわ」
「承った」
「ボクの事を忘れてないよね?何をやればいいのかな」
「黒炎は僕達の間で連絡役を頼もうかな。何か聞きたい事が有れば黒炎に伝えて」
「りょ~かい。適当にみんなのところを巡って歩いてるよ」
「それじゃあ、まずは物を全部外に出そうかな。ローラは軽い物を運んで、その後ここの掃除を頼むよ」
「分かったわ、任せて」
方針が決まったダスク達は、宣言通りに武具等を運び出していく。全て運び終わったところで、ローラは部屋の掃除に戻り、ダスクは鍛冶屋としての目線で使える物とそうでない物を分類していく。使える物の中で武器類は、その時点でウィリアムが手入れをしやすい場所に運んですぐに手入れを始めていた。全ての仕分けが終わったダスクは、ウィリアムに追加の武器が有る事とローラに汚れ落としを頼む武具が有る事を黒炎に伝言を頼んでから、兵舎に隣接した鍛冶場へと防具類を担いで運び込む。この鍛冶場は、街の鍛冶屋に修理を頼んだ時に使われているらしく、あまり手入れはされていないが、簡単な修繕には問題ない機能を有していた。さすがに鍛冶仕事の時に完全装備をしていると良い仕事は出来ないし、鍛冶屋としての自分もそんな状態でやるのは許せないので、ダスクは身軽な格好になってから防具の修繕を始める。
キンッキンッキンッ
集中して鎚を振るっていると、雑念が消えていくようで、ダスクはこの時間が好きだった。いくつもの修繕をこなしているうちに、いつの間にか少なくない時間が過ぎていたが、周りの状況は集中しているダスクの意識には入ってこなかった。
「見事なものだ」
突然後ろから掛けられた声に驚いたダスクは、力加減を間違えそうになって慌てて鎚を目標から外す。いったい誰が来たのかと背後に視線を向けると、そこに立って居たのは依頼主の部隊長だった。
「すまない、邪魔をしてしまったかな」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、何かありましたか?」
「特には無いよ。少し君達の様子を見に来ただけだ」
「そうですか……あっ、こっちから伝える事がありました。
すみません、武器庫へ行く途中の床を踏み抜いてしまったので、後で確認しておいて下さい。
補修はしておきましたが、もしかしたら本格的な修理が必要になるかもしれないです」
「分かった、後で確認しておくよ。君は真面目だな。前回頼んだ生徒達とは大違いだ」
「前回?オルフィエルド学院に同じ様な依頼をしたんですか?」
「ああ、他の仕事だったが、前回の生徒達は偉そうな事ばかり言って使い物にならなかった。
特に、リーダー格の金髪と銀髪と銅色の髪の三人組がひどかったよ」
話題の人物達にダスクは心当たりが有ったが、明言を避けて聞き役に徹する事にする。彼等の良くない評価を平民の自分が聞いたと伝わったら、ダスク自身は気にしないがフローラルがまた何か嫌な目にあうのではないかと心配したからである。
「彼等には依頼を回さないでくれと伝えてあるから、次に何か有ったら君達が来てくれると助かるな」
「良い評価をしてくれてありがとうございます。また依頼を振り分けられた時には頑張ります」
「ああ、またここのを受けたらよろしく頼むよ」
そう言って出口の方へ向き直った部隊長は、上げた片手をヒラヒラと振りながら鍛冶場から出て行った。それを見送ったダスクは、手を止める前と同じく防具の修繕を再開する。そこからは作業の進捗の早いフローラルとウィリアムには手入れの終わった物の運び込みを黒炎に言伝を頼んで進めてもらい、身を守る防具類の修繕は丁寧に行う必要があったのでそれからしばらく経ってからの運び込みになった。フローラルの指示で整理整頓しながらの作業だったので、時間はかかったが満足のいく結果を残せた事もあり、上手くいく事の少なかったミッション続きだった一同は、より一層の満足感を得る事が出来た。普段よりも遅くなり、疲労感も大きかったが、気分良く学園へと帰るダスク達であった。
翌日、日課を終わらせて朝食を済ませたダスクは、学院長室で黒炎と別れて教室へと向かっていた。今週のチームでの実習は昨日済ませたので、残りの日は実習後の教師との手合わせが楽しみだなと思いながら足を進めていく。教室に辿り着き、中に入ろうと扉に手を掛けたところで、廊下に面した窓から教室内の光景が飛び込んでくる。以前は距離を置いていた女生徒達が、フローラルと楽しそうに話をしており、その周囲の生徒達もその事を特に気にしていないようである。全員の顔を確認したダスクは、あの三人組が居ない事が分かり、やはりそういう事なんだなと納得していたが、ウムウムと頷いている背後から不機嫌な声が突然掛けられ、聞き覚えの有るその声に残念な気持ちになる。
「邪魔だぞ、平民。下賎の者が我らの前を塞ぐとは、路傍の石よりも役立たずな奴だな」
何を言ってるんだかと思ったが、フローラル達の事を考えて扉を少し開いて声が入るようにしてから、やれやれといった風に肩をすくめながら、普段よりも大きめの声で返す。
「すまないな。少し考え事をしていたんだよ。君達三人の邪魔をしようとは思っていなかった」
「どうだかな。聞くところによると、昨日は我らのチームを依頼先で批判していたらしいじゃないか」
「はっ、卑しい者らしい手口じゃないか。まったく、そこまでしてポイントを稼ぎたいらしい」
口の軽い、というよりも、部隊長さんが一方的に言っていただけなのだがと内心で思っていたダスクの背後から、教室からの物音が漏れてくる。思惑通りに教室内にこちらの声が届いているのだろう、少し騒然となりながらも慌てて自分達の席に着くのが、扉の隙間から聞こえて来る音で分かった。上手くいったのと安心したので笑みを浮かべたダスクに、何か勘違いしたらしく怒りの顔になる三人組であったが、担任の姿が廊下の先から歩いて来るのに気付いた金が、チッと舌打ちをして忌々しそうに睨んでくる。
「いい気になるなよ、平民。我ら貴族を愚弄しておいてタダで済むとは思わない事だ」
そう吐き捨てるように言うと、銀と銅を促して扉の前に居るダスクを突き飛ばすようにどかせて教室へと入って行った。それに続いて教室に入りながら、何か悪い事に自分以外のチームメイトが巻き込まれなければ良いなと思うダスクであった。
少しずつ良い方向に進み始めた、かもしれない学院生活であったが、再び金・銀・銅の三人組の不興を買ってしまったダスクは、何かあるなら自分だけにして欲しいと思いつつ、これからの生活に思いを馳せる。果たして実行力の無さそうな三人組ではあるが、何かを仕掛けてきた時に、ダスク達は無事に切り抜ける事が出来るのだろうか。
楽しんで頂けたでしょうか。続きも早く読んで貰えるように頑張ります。




