↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファイアボール・キリング  作者: 桜山うす(J.I.A)
第二話 風魔法使いの非行少年
PR
10/26

配達

 大魔導(アークメイジ)フードル警部は、失踪した。


 あの朝、ファイアボールに焼かれて転がった男は、市警が城に踏み込むまでのわずかな隙に、部下ごと煙のように消えた。

 残ったのは、押収記録の合わない台帳と、生きて帰った証人がひとり。本部は貝になり、市警は騒ぎ、書類の上の戦争が始まった。それはまだ、終わっていない。


 証人のほうは、というと。


「もう平気ですってば」


 毛布にくるまれて署の長椅子に座った早鐘アイヤは、三日目にはピザを焼いていた。ボルダーが毎日、飽きもせず様子を見に来て、飽きもせず同じことを訊くからだった。眠れてるか。飯は食えてるか。怖い夢は見てないか。


「見ますよ、そりゃ。でも」娘は、焼き立てを一切れ、ボルダーの皿に載せた。「結界の中で何もできなかったのが、いちばん悔しかったんです。怖かった、より、悔しかった。だから次は、魔法がなくても勝てる手を考えます」


 言い方が、負けた棋士のそれだった。ボルダーは妙に感心して、ピザを三切れ食べて帰った。二人の距離は、事件の前より、少し近い。


 そして、考えます、と言った女は、本当に考える女だった。


 半月後、タダノフは街の空に、見慣れない影を見た。


 箱を提げた子どもが、屋根から屋根へ、風に乗って飛んでいく。背中の羽根に、揃いの腕章。あの晩、灯りで照明弾を背負わせた子らだった。


「早鐘飯店・空とどけ、らしいっすよ」ボルダーが、注文票みたいな紙を振った。「土魔法で作った飯を、風の子らが運ぶんす。作るのも運ぶのも、店なし、元手なし。注文が入ったら、その場で作って、空から届く」


 正規の空輸は、運送ギルドの縄張りだ。身元のない子は、門前払い。だが、あの娘は正規の枠に、最初から入っていない。自分の作った飯を、自分の店の子が届けるだけなら、誰の縄張りとも絡まない。締め出された翼を、締め出された女が、まとめて雇った。


 闇バイトの群れが、半月で、出前の群れになっていた。


 特別な魔法を、使ったわけではない。常識もない。それでも世界を変えてしまう。異世界人とは、そういうものらしかった。


「たいしたもんすよね」ボルダーが笑った。「おれらが一年かけてやる更生を、出前が半月っすよ」


 タダノフは、空を横切っていく箱の列を、しばらく黙って見ていた。それから、少しだけ、顎を引いた。彼なりの、盛大な拍手だった。


 * * *


 その日、ラルクは五件目の配達を飛んでいた。


 仕事は、悪くなかった。まっとうな金で、まっとうな飯を運ぶ。夜に跳ばなくていい。中身の知れない瓶を運ばなくていい。

 兄の羽根は、いまは出前の羽根だった。それで、いいのだと思えた。


 ただ、ひとつだけ、気になっていることがあった。


 この飯は、どこから来るのだろう。


 店はない。厨房もない。畑も、牧場も、仕入れの荷も、見たことがない。なのに注文が入るたび、あの姉ちゃんの手元から、焼き立てが湧いて出る。


 五件目の箱は、シロップ瓶の詰め合わせだった。信号待ちの屋根の上で、ラルクは、魔がさした。蓋のすきまから、中の瓶を、ちょっとだけ覗いた。瓶には、法律で決まっているという、例の表示ラベルが、行儀よく貼ってあった。


  品名:てづくりシロップ

  材料:早鐘アイヤ(21)

  使用魔法:おいしくなーれ、おいしくなーれ、萌え萌えきゅーん 他


 ラルクは、蓋を、そっと閉じた。


 材料。材料とは、その食べ物が、何でできているかを書く欄のはずだった。


「とんでもない物を運ばされてる気がする、」


 風の少年は、青ざめた顔で、それでも配達先へ飛んだ。仕事は、仕事だった。


 そしてまもなく販売停止になった。

 食品表示法違反だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。