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第六章 二十幕

 十郎太は見詰めた。


 その赤く裂かれた藍染羽織の背を。


 まつりは笑った。


 その銀白髪を見詰めて。


 椿は再び立ち上がる。


 宗玄の刃を受ける二刀を見詰めて。


 硝之介も振り返る。


 よろよろと榊に駆け寄り、傷口に手拭を当てながら。


 須王の弓に力が戻る。


 鷹の様な鋭い眼と同じ敵を睨んで。




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。



 

 恍惚とした表情を浮かべる宗玄。


 玄之丞が立ちはだかる。


 二の太刀、三の太刀。


 振り下ろされる鉄喰いの刃。


 肩車の刃は欠け、往反の鍔が落ちる。




 炎に包まれたあの日から。


 全てを失ったあの地から。


 銀白髪の幽鬼が生まれた、あの時から。


 一日たりと夢に見ない日は無かった。


 片時も忘れた事など無かった。


 勝つ為だけに二刀を学び。


 殺す為だけに剣を磨き。


 辿り着く為だけに人を斬ってきた。




 そして、得た。


 帰る場所。


 人としての生。


 血生臭くとも、穏やかな、日常。


 家族。




 玄之丞の大小が、少し、開く。


 その隙間を刃が通る。




 あの時見た、盲蜈蚣。


 今、対峙する、宗玄。


 その見えない瞳が、唯一追う物。


 その話せない口が、唯一笑う瞬間。



 

 それを吹き出させ、玄之丞は振り向く。




 まつりが頷く。




 玄之丞の頬が少し、上がる。




 榊の眼が微かに開く。


「……同じや……あの夜と。」


 硝之介の全身を鳥肌が駆け抜ける。




 宗玄は恍惚とした表情を浮かべながら、それを顔で追う。




 椿は眼を見開き、言葉を失った。


 須王もまた、それを眼で追う。


 まつりも見惚れる。


 十郎太はその美しさに涙を溢した。




 熊五郎は眼を細め。


 朝霧はうっとりと眺める。


 朧は煙を細く吐き出し、それを見詰めた。




 三吉の寝顔を眺めながら、銀二は外を眺め、微笑んだ。



 

 それは、空一面に広がりながら飛んでいく。


 それは、蛍の様に眩い緑に星空を染める。


 その蝶の群れを誰もが茫然と眺める。




 唯一人。


 その光を胸元の勾玉から放ちながら、肩車を振り下ろす。


 袈裟懸けに宗玄を深く裂く。


 宗玄の着流しから何かが零れ落ちた。


 それを拾い上げながら、反対の手で刃を振り下ろす宗玄。


 玄之丞の手から肩車が弾かれ、その胸元から再び赤が飛び散る。


 恍惚とした表情を浮かべる宗玄に倒れこむように……。


 その喉深く、往反を突き立てる。


 宗玄はそれでも体を返し、刃を振り上げる。


 玄之丞は最後にもう一度、頬を上げた。




 その刃は十郎太の村正で遮られた。


 まつりがよろける玄之丞を抱きしめ、支える。


 十郎太はその刃に巻き付く糸を見詰めた。


 眼を向けると、榊が震える指先を向けている。


 その糸を握り、硝之介が引く。


 宗玄の腕が下がる。


 その胸元を茜羽の矢が通り抜ける。


 糸を断ち切り、それでも振り上げられる刃を握る腕に一閃。


 着地と共に、椿は血を吐いて膝を付いた。


 そして。


 玄之丞は上体を反らし、往反の柄を蹴り、押し込む。



 

 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




「……さ……よ……。」




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




 ひゅうぅ……。


 ひゅ……。




 ……。


 ……。




 残る腕には。


 薄汚れた小さな小さな草履が、握られていた。

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