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第六章 十九幕

 榊の懐から赤が飛び散る。


 向かい来る矢を刃で斬り落としながら四足獣の如く宗玄が駆け出す。


 馬を駆り、呼吸の如く矢を放つ須王の頬を汗が伝う。


 椿は玄之丞をそっと俯せに寝かせ、榊を見る。


 その美しい刀身を杖のように支え、膝を付く榊。


 氷の様に冷たい眼が椿へと動き、榊は小さく首を振った。


 椿は静かに二人を見詰める。


 椿の手がゆっくりと、黒太刀の柄へと動く。


 榊の口元が動く。

「やめとき。」


 瞳を閉じる椿。


 ふう、と深く息を吐き、柄を握る。


 走り出す椿。


 矢を払いながら馬に迫る宗玄。


 須王はちらりと椿へ眼をやると、弓を引く手は休めず足で馬を叩く。


 馬は進路を曲げ、弧を描く。


 椿は重心を落とす。


 須王の騎馬が真っ直ぐに椿へ走る。


 息を整える。


 間合いを測る。


 瞳を伏せ。


 騎馬が横を抜ける。


 椿の瞳が見開き、一閃。


 黒い剣閃が走り、黒太刀が宗玄の刃と重なる。


 その黒い刀身は刃をすり抜け、宗玄の首元へ……。




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




 残心する椿。


 その手応えの無さに、急ぎ振り向く。


 宗玄は仰向けに体を反らしていた。


 その姿勢のまま、恐ろしい速度で向かって来る。


 椿の目が霞む。


 手が震える。


 荒れる息を沈めながら黒太刀を上段に構え、振り下ろす。


 宗玄は上体を半転させ、これを躱しながら刃を振り上げる。


 下半身が正常に前を向く。


 あり得ない角度で迫る刃。


 椿の構えが下がる。




 ぎいんと鈍い音を立て、何かが阻む。




 椿は吹き飛んでいく少年に手を伸ばした。


 が、足がもつれて倒れこむ。


 その体を抱き抱え、宗玄と距離を取る男。


 朱手拭が風に棚引く。


 後ろでは爆発音。


 煙を切り裂く宗玄。


 その周りを打根が飛び交う。


 月夜に照らされ、宗玄を絡め取る糸が光る。


 間髪入れずに斬りこむ榊。


 矢を打ち込む須王。


 椿は少年に眼を向ける。


 吹き飛ばされた十郎太を抱き止め、まつりは振りかぶり、投げ返す。


 村正が宗玄の刃と重なる。


 十郎太は歯を食いしばり、柄を握りしめるが、受けるので精一杯だった。


 榊は斬り込みながら、自身の刃に眼を向ける。


 一期一振の美しい刀身には、小さな亀裂が。

「さっきの一発でこれかい。かなんな。」


 宗玄の刃を村正の刀身が防ぐ。


 血管が切れんばかりに十郎太は堪える。


 椿も震える足を叩き、黒太刀を構える。



 

 宗玄の手が糸を握り、引く。


 榊の体勢が崩れる。


 宗玄と榊の間に割って入った、硝之介の小太刀が刀身を落とし、肩口から吹き出す。


 振り下ろした椿の脇腹が裂ける。


 十郎太へ向きを変える宗玄。


 その刃が月をなぞるように弧を描く。


 風が裂ける音と金属音。


 刃を受けた十郎太を支えたのはまつりだった。


 しかし二の太刀。


 十郎太の腕が下がる。


 まつりは十郎太を庇う様に抱きしめる。


 二人の視界に映ったのは、真紅に染まる白羽織。


 その背から刃が生えている。


 榊が口から血を吐き出す。


 宗玄は腕を振り榊を投げ捨てると恍惚とした表情を浮かべた。




 十郎太の瞳孔が開く。

「知らないよ、そんなの。」


 村正を握る手が震える。

「関係ないって言ってるだろ!」


 ぞわりと髪が一瞬逆立つ。

「……いやだ、斬るよ。」


 まつりが十郎太を見詰める。


 支えていた手で、抱きしめる。


 十郎太は声を荒げる。

「誰かが死ぬくらいなら僕だって!」




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




 宗玄の刃が振り下ろされる。


 奥歯を噛み締める十郎太。


 眉間に皺を集めるまつり。




 ……響く金属音。

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