第六章 十七幕
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
弧を描くように刃が月をなぞる。
羽織の背、蜈蚣の紋が前を向く。
椿の頬を汗が伝う。
「あいつの体……。」
玄之丞は椿を突き飛ばす。
轟音。
続けて風が抜ける。
体勢を戻し椿の視線が地面をなぞる。
細く、深く、溝が続く。
後方まで眼を向け、椿は身震いする。
そこには宗玄の背中があった。
椿の横顔を矢が抜ける。
宗玄は振り返り様に矢を切り払い、滝の様な打根を切り落とす。
加えて玄之丞の大小を一振で打ち払い、刃を上げる。
椿は咄嗟に走った。
遠間から踏み込み、抜き付けの一閃。
玄之丞も切り込む。
打根を投げつけながら榊も間合いを詰める。
須王の矢が容赦なく打ち込まれる。
三人の呼吸が重なる。
その一進一退の攻防を。
宗玄の一振が防ぎ、反撃する。
刃を合わせない。
鉄喰いと呼ばれた異形への唯一の対処。
玄之丞は眉を寄せる。
椿の背筋に悪寒が走る。
榊から笑みが消える。
その小さな隙間を完璧に矢を通す須王。
それでも。
宗玄に今一歩届かない。
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
喉の瞑れた獣の様な呼吸だけが、乱れず響く。
玄之丞の脳裏に一瞬、あの夜が過る。
榊の瞳に一瞬、笑っている役人が重なる。
然し。
男二人は一矢乱れず斬り掛かり、退くを繰り返す。
椿も食らい付く。
二人よりも素早く、手数を重ねる。
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
椿は刃を合わせない。
だが。
きいんと金属音が響き始める。
玄之丞の大小が時折、宗玄の刃を防ぐ。
椿は守られる度に奥歯を噛み締める。
(情けない……!)
それでも。
否、それ以上に。
椿の手数が加速する。
呼応する様に矢が掛けられる。
地獄で息をするように、静かに役人が呟いた。
「……次元が……違う。」
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
きいんと一際甲高く、美しい金属音が響き渡る。
榊の打刀もまた、宗玄の刃を受けた。
(……また!)
椿の眼に焦りが浮かぶ。
そして、遂に……。
椿の居合い刀は刀身を失った。
ぞん……。
鈍い音と……吹き出す……赤。
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
まつりの眼が見開かれる。
朧も表情を崩す。
双子のような禿が顔中を広げる。
十郎太は静かに眺めていた。
男は腰を抜かし、思わず刀を手放す。
刀は刃先から畳の上に落ちると、吸い込まれるように。
鍔が当たるまで畳に沈んだ。
きょろきょろと、男が畳を、壁を見る。
まつりも周囲を見回す。
朧は瞳を閉じ、遠くを向く。
十郎太は歩くと村正を拾い、答える。
「いやいや、たまにはじゃないって。」
遊郭が二つに割れて居た。




