↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/84

第六章 十六幕

 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。



 

「何なのだ、これは……。」

 椿は息を飲む。


「血の海やな。」

 榊の氷の様に冷たい眼がその惨状を見詰める。


 玄之丞は目を細める。


 既に其処には戦意が無く。


 絶望をただただ斬り刻む盲蜈蚣が動くのみ。


 榊の奥歯が鳴る。


 椿は居合い刀に手をかけ、重心を落とす。

「こんなの、許せる訳がない。」


 玄之丞も抜く。


 脇差しを半身で前に翳し、打刀を後方に構える。


 椿がちらりと目を向ける。

「朝霧殿が言っていた、父君からの刀だな。」


 玄之丞は重心を落とす。


 そっと瞳を閉じ、椿が呟く。

「良い刀だな。」


 ぼそりと玄之丞は口を開いた。

「……頑丈だ。」


 椿は一瞬、瞳を広げ、小さく微笑んだ。

「ああ、確かにな。」


 榊も抜く。


 その刀身は……月明かりを帯びて星のような輝きを夜空に返す。


 柄を逆手で握り直し、左手も柄に添える。


 胸の前で一文字を描くように右半身を引く。


 椿は顔を向ける。

「前にも見たが……消失していなかったのか。」


 榊は口角を上げる。

「色々あんねん。」


 三人は歩を進める。


 盲蜈蚣の顔がゆっくりと動く。


「宗玄……もう楽にしたるわ。」




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




「朧ぉっ!朧ぉっ!」

 言葉すら失っている男を見詰め、朧は眉を下げる。


「あんたさんは、善き人でありんした。」


 まつりが朧の前に立つ。


 喧嘩屋の法被にさらしを巻いた鬼の子が拳を構える。


「それは偽りのない本心でありんす。」


 十郎太は歩き始めた。


「真っ直ぐな想いもくれました。」


 朧の横を抜け、まつりと並ぶ。


「でも、最初にお伝えしました。」


 男は眼を瞑ると奥歯を噛み締め顔を振る。


「あの日、疾うに果てているはずのこの身。」

 朧は手を差し出す。


「生きる道を与えてくれた、この廓の道。」


 禿がはっとして煙管を持ち、駆け寄る。


「ゆえに私は出会うお方全てに寄り添いんす。」


 朧の手に渡すと、葉を詰める。


「出会った皆々様を支えにして、こうして生きておるのゆえ。」


 禿は火を寄せると走って遠ざかる。


 朧は煙を細く吹き出す。


「私は誰のものにもなりませぬ。」


 ぴんと張った指ごと、男へ向けた。

「あんたさんだけのものにはなって差し上げられぬのでありんす。」


 男は震え、歯を喰い縛る。


 眼を見開き……。


 抜いた。


 それだけだったのに……。




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




 盲蜈蚣……九鬼宗玄は握りしめていた刺股を捨てると、刀を拾った。


 三人は広がりながら、ゆっくりと間合いを測る。


 ひゅんと宗玄は刀を振る。


 遅れてぼっ、と空気の壁が抜ける音がした。


 壁に突き刺さったのは、綺麗に真縦に割られた茜羽の矢。


 椿の顔が上がる。

「お前は!」


 騎馬の男は弓返しした弦を掴み直す。

「我は藤原須王直正!」


 新たな矢を番え、構える。

「恩義に報いる為、梅の斬裂屋殿に助太刀致す!」




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




 宗玄は刀を振りかぶる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。