第六章 十五幕
仄暗い闇の中を這いずる男。
下を覗き込む。
刀に向かいぶつぶつ話す少年。
双子のような禿。
角のある少女。
(……なんだこいつら。)
顔を押し当て部屋を覗く。
(……居た。)
朧。
禿に連れられて角の少女が部屋を後にする。
男の口角がにやりと上がる。
十郎太を眺める朧。
相変わらず、十郎太は一人で何かを呟いている。
「もし。」
朧の口元が優しく動く。
十郎太はびくっとして振り向く。
「な、何でしょう?」
朧が微笑む。
「私にもお話を聞かせて下さいませぬか。」
その愁いを帯びた瞳が十郎太を捉える。
「お側に寄っても?」
十郎太は喉を鳴らし、頷く。
月明かりが、夜を照らす。
騎馬が一騎、野を駆ける。
玄之丞達の脇を役人達が駆けていく。
「始まったみたいやな。」
榊の声に、椿は喉を鳴らす。
争う声がやがて耳に届き始めた。
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
「鉄喰いを街に入れるな!」
「何としてもここで食い止めよ!」
矢が飛び交う。
刀が金属音を立て飛び散る。
槍兵が隊列を直す。
盲蜈蚣は手に持っていた桑を捨て、腕を拾う。
飛んできた矢を、上体を捻り躱す。
その手を振ると人が赤い血袋に変わる。
具足が斬られ、転がる。
甲冑が真っ二つに割れる。
ずたぼろになった腕を捨てると弓を拾う。
黒目が限り無く薄い白眼は微塵も動かず、血が吹き出る度に恍惚とした表情を浮かべる。
天領水守宿が赤く染まり始める。
朧の膝に乗せられ、十郎太の心臓はかつて無い音を立てる。
そんな十郎太をよそに、朧が袖で口を隠す。
その肩は小刻みに揺れている。
十郎太は話すどころでは無い。
視線をきょろきょろとあちこちに向ける。
「まあ、そんな事が……くすくす。」
朧は楽しそうに受け答える。
襖が開く。
十郎太は眼を向ける。
入ってきたまつりの眼が見開く。
十郎太の表情が強張る。
まつりは駆け出す。
十郎太が慌てふためく。
地を蹴り、跳ぶまつり。
十郎太は両手を広げて身を守る。
その腰から、鞘が抜かれる。
まつりの蹴りが、朧と十郎太の後ろへ。
十郎太は立ち上がり、慌てて振り返る。
そこには、村正の鞘を握り、柄に手を掛ける男。
ゆっくりと、優雅に振り返る朧。
朧の瞳が男を見詰める。
男の瞳が爛々と輝き、引きちぎれんばかりに口角が上がる。
「はあ、はあ、朧ぉ。……朧ぉお。朧おおっ!」




