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第六章 十二幕

 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。



 

 術士は冷汗を拭う。


 弓を引く者達の腕が震える。


 前衛の武士の足が竦む。




 この日。


 幕府直轄の討伐軍が、消滅した。




 玄之丞はまつりと妖刀の少年を連れ、水守宿を歩く。


 まつりと少年は他愛無い話で盛り上がる。


 玄之丞は煙管を燻らせる。


 出迎えたのは番頭。


 通されるは……遊郭。




「ようこそ、おいでくださいました。」

 双子の様な禿が声を揃え、深々と頭を下げる。


 少年がぺこりと会釈する。


 きょろきょろと周りを見渡すが、まつりの手が眼を塞ぐ。


 新造が並ぶ間を抜け、襖を開ける。


 茉莉花の、澄んだお香が誘う畳の上を、三人は進む。


 中央で待つ朧は微笑み、袖を返す。


 少年は茫然と朧を見詰める。


 その頬をまつりはつねる。


 朧に促されるまま、三人は座った。




「それで、そのお客さんが付きまとってくるから追い払えって事ね。」

 まつりは依頼を纏める。


「つまり、用心棒ってことだね。」

 にかっと笑い、玄之丞へ振り向く。


 玄之丞は瞳を伏せる。


 禿が声を揃えて続ける。

「それでも良くして頂きましたので、荒事にはしたくないというのが朧様の願いです。」


 玄之丞は遠くを見ている。


 まつりがうんうんと頷く。


 少年は首を傾げる。


「じゃあ今回は俺が受けるね。いいよね?」


 玄之丞は小さく頷く。


 その眼が一瞬、朧に向く。


 朧とは目が合っていない……だが。


 朧は微笑む。


 禿が声を合わせ頭を下げる。

「噂に名高い梅の喧嘩屋様、何卒朧様をよろしくお願い致します。」


 ふふん、とまつりが胸を張る。


 少年の肩に手が乗せられた。


 少年は振り返る。


「……こいつもだ。」


 まつりが顔を歪める。

「ええっ!」


 少年も顔中を広げる。

「ぼ、僕もですか?」


 玄之丞は頷く。


 まつりは少年を見詰める。

「まあいっか。よろしくね十郎太。」


 十郎太もぎこちなく頷く。

「あ、はい、よろしくお願い致します。」


 十郎太の瞳が朧に向き、すぐ泳ぐ。


 まつりは蹴飛ばした。


 十郎太が広い客間をごろごろと転がり、綺麗に受け身を取る。


 ほおっと禿が声を揃える。


 朧は三つ指を付いて頭を下げる。




 まつりと十郎太は禿に遊郭内の構造を案内される。


 広い客間には朧と玄之丞。


 襖の向こうで人々が行き交う。


 朧の瞳が玄之丞を見詰める。


 玄之丞は眼を細める。


 線香が、じりじりと尽きていく。


 先に口を開いたのは、玄之丞だった。

「息災か?」


 朧の口元が小さく上がる。

「ええ。」


 二人は各々、煙管に火を寄せる。


「そうか。」


 朧は瞳を伏せる。


 玄之丞は頷くと、立ち上がった。


 背を向け、襖に手を伸ばす。


 朧の声が静かに届く。

「母の仇と、父の仇を、ありがとうございました。」


 玄之丞は小さく俯く。


 顔を上げ、少しだけ振り返る。

「……ああ。」


 襖を開くと、まつりと十郎太が耳を傾けていた。




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




 人は死ぬ。


 刀も死ぬ。


 異形は歩む。


 その道を、ただ、赤に染めて。


 赤羽織の後を追う様に。


 ……天領に向けて。

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