第六章 十幕
少年の手は柄に重なる。
浪人が刀を抜く。
少年の体が、ぶれる。
少年は重心を落とし、踏み込むと浪人の足元に体をねじ込み吹き飛ばす。
振り返りざまに後方の浪人の足を払い、膝を入れる。
奥の浪人の肩まで跳ねると首を足で挟み、空を回る。
地面に叩きつけると同時に、最後の一人の刃を握る手を蹴とばすと、踏み込みと共に股間を膝で殴打する。
町人たちが見たのは、急に蹲る浪人と、去る子供。
「今、一瞬で斬ったのか?」
どよめきが立つ。
「まさか、例の……。」
玄之丞は顎に手を当てて呟いていた。
「……ほう。」
椿は頭に響いた声に背筋を震わせる。
「人聞きが悪いって……お前妖刀だろ!」
椿はどこを向いていいかわからず空に叫ぶ。
少年は頷く。
「みたいですね。」
手を叩きながら銀二が間に入る。
「はいはい、落ち着いて。」
少年が顔を上げる。
銀二は少し止まり、振り返る。
「はは、彼に何かあるかな?」
玄之丞は煙管を燻らせる。
少年の手が玄之丞を指差す。
「刀が……。」
椿は首を傾げる。
「籠釣瓶が……死ぬって。」
少年は眉を下げる。
銀二が眉を寄せる。
椿は頬を膨らませる。
「おい妖刀!何を言っている!」
椿は玄之丞へ振り返り、再び刀を睨む。
「ええい、お前だって沢山斬ったのだろう!?」
刀に向かい、吠える。
「斬り飽きたってなんだ!お前それでも妖刀か!」
銀二は小さく息を吐き、空を見上げた。
天領水守宿。
朝霧はざわめきの中に居た。
「朧だ。」
町人が騒ぎ立てる。
「今日も朧が拝めるか。」
その名を耳にし、朝霧は端に寄り、平伏する。
じゃらじゃらと音を鳴らし、金棒引き二人が道を清めていく。
まるで双子の様な禿に大仰な煙管一式を持たせ、屈強な男と傘持ちが続く。
四人の新造と番頭が列に続く。
その中央。
三枚歯の黒漆塗りの高下駄を大きく外側から内側へと。
地面をすりながら弧を描く。
交互に、ゆっくりと……美しく。
間着と打掛に輝く金糸銀糸の刺繍。
前で結ばれた、巨大な帯。
鼈甲の簪を幾重にも重ね、切れ長の瞳が妖艶に周囲へと注がれる。
すんだ口元は時折笑みを覗かせ、目を合わせた人々を釘付ける。
長い長い時間を掛け、朧は朝霧の前を通過していく。
顔を上げた朝霧は一息つくと、改装された個室料亭へと先を急いだ。




