第六章 八幕
烏鳴、梅屋の朝。
まつりが大声を張り上げる。
「だから!人斬ったまま寝るなって言ってるだろ!」
玄之丞は眼を擦る。
「ほらぁ!布団まで血の匂い染み込むだろ!」
玄之丞の羽織を剥ぎ取る。
椿はその様子を呆れた顔で眺めている。
玄之丞は煙管を口元へ運ぶ。
まつりがその煙管を奪い取る。
「おっさん、朝食べるだろ?」
玄之丞はゆらりと体を起こす。
「……ああ。」
客間には朝食の支度が整っていた。
銀二と硝之介が顔を向ける。
玄之丞は眼を細める。
「珍しいでしょ、硝之介のオジキが朝から来るの。」
硝之介は眼を真っ直ぐに向け、口を開く。
「起こして欲しかったか?」
玄之丞は苦虫を嚙み潰した顔を見せ、手を顔の前で振った。
三吉が硝之介の腕の中できょとんと見詰める。
「ひとつ、聞いていいか?」
椿は茶碗を置き、切り出す。
まつりが振り返る。
銀二は眼だけを向ける。
玄之丞は煙管を口に運ぶ。
硝之介はしゃもじを手に取る。
「違う、違う。」
椿は両手を突き出し、否定する。
「おかわりじゃない。」
少しだけ口籠り、椿は問う。
「梅屋の由来を教えてくれ。」
銀二の瞳が玄之丞へ。
玄之丞は煙を吐く。
硝之介は残念そうにしゃもじを置く。
まつりも玄之丞へと眼を向ける。
「そういえば俺も知らない。」
まつりと椿の瞳が真っ直ぐに玄之丞へと注がれる。
銀二は微笑む。
玄之丞は灰を落とし、呟く。
「……赤だ。」
硝之介が味噌汁をよそいながら、静かに頷く。
「赤?」
椿は無意識に味噌汁を受け取ると、口に運び、問う。
「それは……血の色か?」
銀二が瞳を閉じ玄之丞へと徳利を渡す。
玄之丞は手酌し、盃を口に運ぶ。
硝之介が前掛けを脱ぎながら席に戻る。
その眼が椿を見詰める。
椿は呟く。
「いや、旨いけど……。」
烏鳴の街を瓦版売りが駆け抜ける。
妖刀村正現る、と……。




