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第六章 七幕

 壁にもたれ掛かり、夢千代は掠れた息を吐く。

「ひゃあっ……はっ……はっ……は。」


 その口からは血が溢れる。

「最後まで……甘ちゃんだな坊や。」


 玄之丞は見下ろす。


 夢千代が静かに手を差し出す。


 その手に大鍔の赤鞘が渡される。


 玄之丞は一度だけ隣へ眼を向け、再び夢千代を見下ろす。


 玄之丞の隣で、氷の様に冷たい眼が同じように夢千代を見下ろしていた。


「だが……褒美だ。見ろよ。」

 夢千代は力無く大鍔の太刀を抜く。


 玄之丞の毛が逆立つ。


 榊も身震いする。


 夢千代の太刀は、刃渡りが無かった。


 "折れて"居たのではなく……。


 "斬られて"居た。


「おどれ、また逃げよったんけ。」

 榊の眼がぎらりと見開く。


 夢千代の口角が上がる。

「ひゃは……来る、ぜえ。鉄喰いがよお……。」


 夢千代の手の中で、先の無い太刀が首に当てられる。

「俺はもう……ごめんだ。……せいぜい苦しめ、無月の倅ぇっ……!」


 赤く染まりながら、夢千代の手が力なく垂れ下がる。


 二人は等しく奥歯を噛み締め、夢千代を見ていた。


 小さく、榊が呟く。

「九鬼宗玄。……不鳴きの名や。」


 玄之丞は眼を向ける。


 榊は背を向け、手をひらひらと去っていく。




「もういい?」

 羽織に顔を包まれたまつりが苦しそうに声を上げる。


「あ、ごめんごめん。」

 その羽織を銀二が優しくどかす。


 まつりは顔を上げる。


 玄之丞が煙管を燻らせ、歩いてくる。


 まつりが駆け寄る。


 玄之丞は頬を緩める。


「おかえり、おっさん。」


 まつりの頭に手を乗せる。


「……ああ。」


 銀二は微笑む。




「御用だ!神妙にしろ!」

 梅屋を取り囲む提灯。


 その間を割って現れるのは目付支配。


 熊五郎は玄之丞と向き合う。


 ちらり、と夢千代に目線を向け、玄之丞へと視線を戻す。


 提灯に緊張が走る。


 熊五郎が脇に抱えていたものをひょいと差し出す。


 銀二が呆れた顔を見せる。


 まつりが苦笑いをする。


 玄之丞は片手で顔を覆う。


 熊五郎につままれて、椿は首を傾げている。




「此度は下手人、天海夢千代の討伐……大儀であった。」

 熊五郎が声を張る。


 提灯は颯爽と夢千代の亡骸へ駆けつける。


 玄之丞は熊五郎を見上げる。


 熊五郎は振り返ると、歩き出す。


 その後ろから声が飛ぶ。

「熊ぁ!」


 熊五郎は立ち止まる。


「……お前はいつも遅え。」


 熊五郎は、歩き出す。


 振り向かずに声だけ返す。

「うるせえばーか!」


 そして頬を緩めた。




 水守宿の梅屋。


「すいません、暖簾出て無かったんですが依頼いいですか?」

 男と女が敷居を跨ぐ。


 その視線の先では……。


 仰向けになり、膝に三吉を乗せてべろべろばあをする朱手拭の医者。


「あの……。」

 困惑する依頼人。


 硝之介はあやす顔を変えずに声だけで答える。

「相分かった。暫し待て。」


 三吉がきゃっきゃと笑っていた。




 数日後、烏鳴の梅屋にも、暖簾が掛かる……。

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