第六章 六幕
御用の提灯が慌ただしく駆ける。
奉行所からゆらりと身を出す熊五郎。
目線を向けるとそこには……。
「……またお前か。」
立っていたのは、椿。
「目付支配殿、お話よろしいですか?」
熊五郎は小さく息を吐く。
「言いたい事はまとめられたのか?」
椿はまっすぐに目線を向ける。
熊五郎は顔を背ける。
「あれ?」
椿の表情が崩れる。
熊五郎は歩き出しながら言葉を置く。
「玄之丞が斬り合ってる。」
椿は少し止まり、熊五郎の背を追う。
夢千代は奥歯を鳴らす。
顔中の皺が集まり、まるで泣く赤子の様に震える。
「おっさん……。」
まつりの瞳は真っ直ぐに玄之丞を見詰める。
玄之丞の大小を握る手が一瞬、ゆるみ、持ち直す。
項垂れた姿勢を正し、大小を構える。
夢千代の視線が玄之丞へと向く。
「ひ……ひ……ひっひっひ。」
肩を震わせる夢千代から溢れ出る笑い声に、まつりの手が震える。
「ひゃあっはっはっは!」
夢千代は仰け反り、嗤う。
「こりゃ傑作だ!てめえの最後を見届けに来てくれたぜ!」
玄之丞の顔を覗き込むように低く、姿勢を落とす。
玄之丞は羽織に手を掛け、重心を落とす。
「これで安心して死ねる、なあっ!」
夢千代は振りかぶり長脇差をまつり目掛け投擲する。
玄之丞は走り出していた。
まつりの顔に羽織が投げかけられる。
長脇差が打刀で叩き落とされる。
「……て、め、え……!?」
夢千代の胸元に突き刺さっていたのは玄之丞の脇差。
もぞもぞと羽織を顔から取ろうともがくまつりを、後ろから抱きしめる腕があった。
まつりの後ろから聞き覚えのある声が囁く。
「もう少し、ね?」
羽織の中でまつりは頷く。
玄之丞の眼が声の主へと向く。
眼を合わせ、二人は頷く。
玄之丞はゆっくりと夢千代に向けて歩を進める。
夢千代は後ずさりしながら胸に刺さった脇差を抜き、握る。
もう片方の手は懐へ……。
取り出したのは透明な容器。
中には液体が詰まっている。
その手を打根が貫き、容器は地に落ち、割れた。
じゅわ、と煙を上げて液体が散る。
玄之丞は上に目線を向けず、夢千代に迫る。
ゆっくりと、打刀を振り上げる。
月に照らされ、その刃は美しく輝いていた。
熊五郎は背後から飛んでくる声に、眉を顰める。
「赤羽織とは何だ!」
「お前は友ではないのか!」
「何故玄之丞を追うのだ!」
「梅屋に……何があったのだ!」
熊五郎は振り返る。
椿は肩で息をしている。
熊五郎の表情が、少しだけ緩む。
「どうやら、もう終わったようだ……。」
椿は首を傾げる。
熊五郎の体を避けるように前を覗き込むと……。
椿は両手を広げて走り出した。




