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第六章 三幕

 仙蔵は烏鳴を歩く。


 ふと足を止めたのは、夕烏の前だった。


 並べられた花に手を合わせる。


 その横で、浪人が二人で話している。


「聞いたか、赤羽織の話。」

 屈強な方は眉間に皺を寄せる。


「おう聞いた聞いた。あれだろ?」


 仙蔵は手を合わせたまま耳を傾ける。


「不死身の熊五が動いてるって話。」


 仙蔵の眉が動く。


「おう、でもよ。……実はその上も、らしい。」

 屈強な方は声を潜めた。


「じゃあ例の噂がいよいよってことかい。」


 仙蔵は煙管を口に運ぶ。


「盲蜈蚣がこの街に来るかも知れねえ……。」


 かたんと音がした。


 浪人二人は顔を向ける。


 仙蔵が落とした煙管を拾っていた。


 拾いながら仙蔵は胸を抑える。


 冷や汗が頬を伝って地に落ちた。




 同じ頃、水守宿の街を熊五郎が歩く。


 供として従う役人達はみな神妙な顔付きをしている。


「虎殺しだ……。」

 街の住民は一様に顔を伏せる。


 熊五郎は立ち止まり、手を翳す。


 役人達は街中に散って行った。


 正太郎はそれを影から眺め、仙蔵の元へと駆けて行った。




 そして裏路地の水守宿梅屋から、椿が駆け出して行った。


 梅屋の中では、銀二が四つん這いになり、三吉を乗せて歩いている。


 まつりは味噌汁の味見をする。


 ふう、ふうと息を吹きかけ、一口。


 眼を見開き、頬を上げる。


 そのまま銀二に顔を向ける。


 銀二はまつりに眼をやり、微笑んで頷く。


 そっとまつりが呟く。

「おっさん、帰ってくるかな……。」


 銀二は眉を一瞬だけ下げたがすぐに戻す。

「はは。どうだろうね。」



 

 水守宿の街を椿は走る。


 通りすがる役人が眉を潜める。


 町人達が首を傾げる。


 同心が気付き、立ち塞がる。


 岡っ引きも道を塞ぐ。


 それらを飛び越え、椿は地に足を着ける。


 熊五郎がゆっくりと振り返り、眉を寄せる。


 椿は肩を上下させて顔を上げる。

「目付支配殿。お話宜しいか!」


 熊五郎は古い人相書を手に取る。

「……首落としの椿か?」


 椿は真っ直ぐに熊五郎を見詰める。


 そして口を開いた刹那、取り抑えられた。


 熊五郎は顎に手を当て、引きずられていく椿を見ていた。




 数日の後、烏鳴と水守宿、高瀬の街中で月夜を彷徨う銀白髪の幽鬼が相次いで目撃される。


 仙蔵を筆頭とした岡っ引きは夜毎街を警戒し、歩く。


 昼は同心が街を駆け回る。


 赤羽織の手によるものと思しき凄惨な現場は鳴りを潜めていた。


 梅屋は依然として依頼を受けない。




 そんな緊張が半月程続いた……。




 十五夜の夜。


 烏鳴の千歳屋の前に立つのは赤羽織。


 赤子の様に顔中の皺を集めて笑う。


 その足が一歩、店に向けて踏み込んだ、すぐ後ろで。




「……抜け。」

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