第六章 二幕
氷雨雪真は背筋良く座る。
その眼帯の前で、玄之丞も正座で背筋を伸ばす。
雪真は玄之丞の銀白髪に視線を向け、眉を下げる。
玄之丞は眼を細める。
硝之介はちらりと玄之丞を見て、雪真に向き直る。
そして深々と頭を下げた。
「ご無沙汰しております。ご挨拶が遅れ申し訳ありません。」
雪真は硝之介が顔を上げるのを待つ。
「先日高瀬の仕事で街を出られたと伺い……。」
雪真は掌を前に突き出す。
「良い……。」
そしてその手で拳を作り、口前に運ぶ。
顔を逸らし、二つ、咳き込んだ。
二人に向き合い雪真は続ける。
「隠居した身だ。」
玄之丞は瞳を閉じ、顎を引く。
硝之介の眉が下がる。
雪真が眼を向ける。
従者は頷き、下がっていく。
「……して、こんな田舎まで来た用とは。」
雪真の瞳が玄之丞を見詰める。
玄之丞の瞳も雪真を見詰め返す。
「……刀だな。」
雪真の表情が少し、緩む。
玄之丞は頷き、背後から打刀を取り出し、膝前に置く。
鍔が割れ、柄には亀裂が入っている。
雪真は眼を丸くする。
「肩車をここまで破壊するとは。」
続いて雪真の視線が動く。
玄之丞は腰から脇差も抜き、打刀と並べる。
雪真が頷く。
「往反は無事か。相分かった。」
従者が入ってきて大小を受け取り、雪真の前に運ぶ。
雪真は手に取ると、玄之丞を見詰めた。
「玄之丞……何を斬った?」
玄之丞は静かに呟く。
「帝釈天。」
硝之介の眼が見開く。
雪真は呆れた顔をする。
「……はあ。茎も見ておけ。」
従者は深く頷いて大小を下げた。
酒膳が運ばれ、漸く二人は足を崩す。
雪真は煙管を口に運ぶ。
硝之介と玄之丞も煙管を取り出す。
雪真は玄之丞を見詰める。
玄之丞は視線に気付き、眼を向ける。
雪真が微笑む。
玄之丞は首を傾げる。
硝之介は……遠くを見て煙を吐いた。
串に刺して焼いた魚や海老、山菜が運ばれる。
「覚えているか?玄之丞。」
魚を齧ろうとして、玄之丞は動きを止める。
「これはお前に教わったんだったな。」
雪真は遠くを見詰めながら口角を上げる。
玄之丞は魚を見詰める。
そのまま目線を雪真に向ける。
「仇は討つ。」
雪真の緋色の瞳の奥が、微かに揺れた。
硝之介も振り向き、頷く。
玄之丞は軽く咳払いし、再び口を開く。
「……討ちます。」
雪真が笑う。
硝之介も苦笑いする。
玄之丞は眼を細める。




