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第六章 一幕

 水守宿の薄暗い路地を椿は歩く。


 手にはしっかりと三吉の手を握って。


 壁にもたれかかり、ただ手に持った縄を見つめる男。下を向き何かを呟き続ける老人。虚ろな瞳の痩せた犬。


 息が詰まる細い道を、まっすぐな瞳で歩く。


 角を曲がるとそこには——。


 もう一軒の、梅屋。


 暖簾こそ外されているが、中から話声が聞こえる。


 椿は顎を引き、中へと足を踏み入れる……。




 高瀬の街より北に四日。


 馬を降りる朱手拭と銀白髪。


 高瀬の頃よりだいぶ小振りな屋敷。


 二人を迎え入れたのは、隻眼を眼帯で覆った緋色の眼の武人だった。


 痩せ細り、当時の面影は薄れているが、その眼光は鋭く濁りなかった。




 高瀬の街の居酒屋で、朝霧はまだ明るい内から盃を口に運ぶ。


 向かいに座るのはお玉と新兵衛。


「はあ。見受けされて目出度いってのはさ、何回も前にやってんのさ。」

 朝霧は煙管に火を寄せる。


「朝霧の姉さんはよか人おらんおですか?」

 お玉は隣を見詰めて微笑む。


「うちはこの新兵衛に長い人生のひと時ば預けるっちゃって決めたとですよ。」


 新兵衛は照れくさそうに後ろ頭を掻く。


 相も変わらず痩せこけた頬だが些か精気が戻っている。


 朝霧はため息をつく。

「玉琴の長い人生って途方もないじゃないさ。」


 お玉は頬を膨らませる。

「またそうやって玉琴って呼ぶ!今のうちは芸者じゃなくてお玉やけん。ね?新兵衛?」


 朝霧が二人目掛けて煙を吐く。


「けほけほ、朝霧の姉さん、それは礼儀のなかっちゃない?」

 お玉と新兵衛は目を擦る。


「ごめんなさいね、あんたの前じゃ私も芸者じゃないんだから。」

 朝霧は舌を出して笑う。




 烏鳴の郊外の茶屋では、草団子を片手に白羽織に金刺繍の男が氷の様に冷たい眼を見開いていた。


 その瞳の先には姫。


「何でこないなとこおんねん。」


 姫は白羽織の隣に座り、白羽織の持つ草団子に手を伸ばす。


 白羽織はそれを躱して、器にある手つかずの草団子を差し出した。


 姫は不満そうな顔を見せ、その草団子を手に取り、齧りつく。


 ぱあっと明るい笑顔で白羽織に振り返る。


 そしてすぐ顔付きを正すと、口を開いた。

「梅屋様にお礼の品をお持ちしたのですが……。」


 白羽織は升を口に運ぶ。


 そして心地よく喉を鳴らすと、言葉を返す。

「おらんかったやろ?」


 姫は力強く頷く。


 白羽織は升を見詰める。

「ケリ付けなあかんねや。ワシも旦那も。」


 姫の眉が下がる。


「朝霧にいろいろ聞いたやんな?」


 姫の草団子を持つ手が下がる。


「……そういう事やねん。」


 姫の瞳がうるうると揺れる。


 白羽織は顔を顰める。

「あの阿呆、どこまで話したん。」


 そして煙管に火を入れる。


「榊殿は、勝てると……?」

 榊はちらりと姫に眼をやった。


 ゆっくりと煙を吐きながら呟く。

「どうでもいいけど、変装下手やで自分。」




 水守宿の梅屋に踏み込んだ椿。


 そこには食事をする銀二とまつりが居た。


「ああああ!居た!見つけた!」

 椿は叫ぶ。


 二人はびくっとして振り返る。

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