63/84
第六章 冒頭
三吉の手を引く椿。
梅屋の前に立ち、茫然と立ち竦んだ。
そこに梅屋の暖簾は無かった。
まつりが書いた、依頼者に向けた歓迎の文言も、簡易だけど可愛い料金看板も無かった。
店の中に人の気配は無く、煙管の香りも、酒の匂いも……。
通りがかりの男に声を掛ける。
「すいません、梅屋に何かあったのでしょうか?」
すぐに答えは返ってきた。
「あの怖い顔した旦那が店じまいしてたよ。」
椿の眼が見開かれる。
「依頼も片っ端から断ってたみたいだな。」
男は指で眼を吊り上げる。
「帰れっていつものやつで。」
椿は後ずさる。
男が眉を下げて付け加えた。
「鬼っ子と優男の旦那が何か説明してたけど、聞こえてはこなかったなぁ。」
椿は男に頭を下げ、三吉を抱き抱える。
そして、宛もなく走り出した。
仙蔵は煙管を口に当て、その姿を見詰めていた。




