↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/84

第五章 焼野の月 終幕

 玄之丞は笑った。

 心の中で、楽しげに笑った。

 皆に囲まれ、幸せそうに笑った――。


 朱手拭いが火筒を投げ付ける。

 当たれども爆ぜども盲蜈蚣は怯みもしない。

 虚ろな瞳で項垂れ、座る玄之丞。

 その口から微かに音が溢れた。

「……はは。」

 朱手拭いは眼を見開き、駆け寄る。

 盲蜈蚣が一歩、また一歩と近付く。

 朱手拭いは動かない人間を引き摺り、下がる。

 振り返ると東の柵。

「……不味いな、この先には奴が。」


 ひゅうぅ……。

 ひゅうぅ……。


 掠れた息遣いがもうすぐ眼の前に迫る。

 盲蜈蚣は刀を振り上げる。

「……これまでか。ん?」

 朱手拭いは玄之丞の胸元に眼を向ける。

 それはぼんやり光っていた。

 真二つに割られた、若葉色の勾玉。

 そして。

 盲蜈蚣が刃を振り下ろす、その刹那。


「何やあれ……?」

 榊は眼を擦る。


 蛍のように光る蝶の群れが、天に登って行く。


 朱手拭いは眼を疑う。

 その蝶の群れが、今まさに玄之丞の胸の勾玉から溢れ出ている。

 玄之丞は呆然と何処かを眺めている。

 胸の勾玉から溢れる蝶の群れが枯れ、勾玉からは輝きが失われた。

 緑色に光る蝶の群れは盲蜈蚣の周りを飛び交い天に登って行く。

 盲蜈蚣の顔は蝶を追っていた。


 後方でがちゃりと閂が外れる音がした。

 朱手拭いは力を振り絞り、玄之丞を担ぐ。

 走る。

 息を切らせ走る。

 やっとの思いで柵の外へと玄之丞を連れ出すと、そこに役人は居なかった。

「……最後の手向け、と言ったところか?」

 一頭だけ、置いていかれた馬に跨り玄之丞を乗せ走り出す。

 振り返る。

 村は炭となり、炎は静まり、闇に静寂が戻りつつあった。

 朱手拭いは呟く。

「焼野の月か。……皮肉な話だ。」

 朱手拭いと、銀白髪。

 馬で駆けるお尋ね者二人。

 走り去る背中を、月が照らしていた……。


 ベンベンベン。

 ベンベンベン……。

 

 梅屋始末帖 第五章 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。