第五章 焼野の月 十八幕
ぱちぱちと家が燃える。
村を包む炎は空高く聳える柵の様に。
闇夜を真昼のごとく照らし出す。
少なくなった怒号も悲鳴も掻き消す様に。
玄之丞の叫び声が村中に響いた。
口から血を吹き出し、子供が膝を付く。
貫かれた胸元が赤く染まる。
子供は掌を見詰める。
そのまま振り返……れずに倒れる。
その後ろで膝から崩れる白妙。
白妙の下腹部もまた、赤に染まっていた。
「てめえ、この化けもんがあ!」
箒頭と朱手拭いが斬りかかる。
玄之丞は倒れる白妙に駆け寄ろうとして……。
その眼の前に飛んできたのは。
箒頭の肩から上だった。
肩から下は、柄だけの刀を握り。
まだ、立っていた。
爆発が起きる。
朱手拭いが後転して立ち上がる。
煙から現れたのは、黒目が限り無く薄い白眼の男。
「噂に聞く盲蜈蚣か……。」
朱手拭いが奥歯を噛み締める。
玄之丞は白妙と子供を見詰めていた。
盲蜈蚣……そう呼ばれたそれは刃を下に。
玄之丞の髪が一瞬逆立つ。
盲蜈蚣の刃がそのまま後ろに、月に届くかの様に振り上げる。
玄之丞は駆け出す。
盲蜈蚣は地面ごと下から斬り上げる。
まるで逆雷の如く。
玄之丞は白妙の手を握り刀を躱す。
ぎりぎりと、奥歯を噛み締め子供に眼を向ける。
二つに寸断された体。
玄之丞の眉間に力が籠る、だが……。
玄之丞の眼に飛び込んだのは、子供だけでは無かった。
玄之丞はゆっくりと、左手を見る。
そこに白妙の手はあった。
しっかりと握られていた。
だが。
そこから先は……無かった。
「小夜……。」
玄之丞は羽織を脱ぎ、その手をそっと包み、置く。
構える。
駆ける。
重心を落とす。
盲蜈蚣の肩口目掛け、一心に振り下ろす。
しかし。
折れる刀。
開く傷口。
吹き出す鮮血。
のけ反る体。
地に付く膝。
……それでも。
足を踏みしめ、玄之丞は立ち。
きいんと甲高い音がして、二太刀目の傷が開く。
両膝で崩れる玄之丞。
涙の枯れた眼は空を見詰める。
そう言えば……あの日も空を見ていたっけ。
こんな色の空だった。
脳裏に映る赤い空が、青く染まる。
そこには、微笑む白妙がいた。
道雪が苦笑いをして。
熊五郎が申し訳なさそうに笑う。
雪真が頬を上げて。
無月が笑いながら近付いてくる。
ああ、思い出せるのってこれだけだっけ?
いや、まだいる。
新之丞。
まだあいつが笑う。
そして。
――ずっと一緒。
――忘れないから。
――だからまた、ね?




