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第五章 焼野の月 十七幕

 その掌はか細く、弱く。


 柔らかく。


 玄之丞の頬をそっと撫でる。


 その瞳は儚く、真っ直ぐで。


 口元で微笑む。


 白妙は顔を寄せ、頬を玄之丞の胸に押し当てる。


 玄之丞も背に手を回す。


 もう二度と……。


 手放さないように……。




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




 風が気味悪く鳴いていた。


 胸に熱いものを感じ、玄之丞が目を向ける。


 そこにあった筈の白妙の顔は、力無く項垂れている。


 玄之丞の胸元は赤く染まっていた。


 朱手拭いが駆け寄る。


 白妙の額に手を当て、背に耳を寄せる。


 瞳を閉じ、小さく首を振る朱手拭。


 玄之丞は静かに腕の中の白妙を見詰めていた。




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。 




 白妙は顔を向けると、申し訳無さそうに微笑んだ。


 弱々しく、口を開く。


「――。」


 玄之丞は眉を寄せる。


「――。」


 真っ直ぐに玄之丞を見詰める白妙。


 玄之丞は唇を噛みしめ、頷いた。


 白妙は真っ直ぐ微笑んだ。




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




 出来るだけ優しく。


 出来るだけ丁寧に。


 白妙を座らせる。


 白妙の肩が荒く上下する。


 ただじっと見詰める玄之丞。


 背を向ける。




 ひゅうぅ……。


 ひゅうぅ……。




 一歩。


 二歩。


 立ち止まる。


 再び白妙の方へ向き直す。


 朱手拭いが玄之丞へ近付く。


 その手に握られた打刀を突き出す。


 柄を握り、そのままゆっくりと抜く。


 白妙の顔が上がる。


 息が荒い。


 玄之丞は打刀を振り上げ、構える。


 一度だけ、瞳を強く閉じ、開く。


 少しずつ、距離を測る。


 白妙が微笑んだ。




 白妙を庇うように、子供が飛び出す。


 両手を広げ、きりっと玄之丞を睨み付ける。


 玄之丞の表情が、一瞬崩れる。


 しかし眼を細め、玄之丞は声を上げる。


 子供は首を振る。


 そして叫ぶ。


 玄之丞が声を荒げるのを、朱手拭いは首を振り、制す。


 白妙の手が子供の背に触れる。


 振り返る子供。


 白妙は優しい表情で口を開く。


「――。」


 子供は眼に涙を浮かべ、白妙に抱き付く。


 叫ぶ。


 白妙が頭を撫でる。


 子供は頷き体を直す。


 玄之丞へと振り返り、口を開く


「――。」


 玄之丞は頷く。


 子供は歯を噛みしめて最後に笑顔を作る。


 玄之丞が口を開く。


「――。」


 子供は頷いた。


 だから玄之丞は構え直す。


 子供が退いたら……。




 玄之丞の瞳が見開かれる。




 朱手拭いが駆け出す。




 箒頭は急いで刀を拾い上げる。




 ひゅうぅ……。

 ひゅうぅ……。




 木霊する、玄之丞の叫び声。

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