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第五章 焼野の月 十六幕

 仙蔵は一人、居酒屋で猪口を煽る。


 隣には赤く染まった水色の陣羽織。


 何気なく、手に取ると首を傾げる。


 眼を見開く。


 何度も何度も見た月影衆の薄水色の陣羽織。


 そこに描かれていた、月の紋。


 手に取った陣羽織を広げる。


 そして、机を叩きつける。



 

 氷雨家。


 礼装に身を包んだ者達や町人が列を作る。


 棺桶に手を合わせる人々。


 坊主が念仏を上げる中、氷雨雪真は拳を震わせる。


 眼帯で覆われた片目。


 そのもう片方の緋色の瞳がゆらゆらと光る。


 棺桶の中の道雪の顔には、あの緋色の瞳が無かった。



 

 石見守邸の畳に頭を伏す熊五郎。


 その眼の前に置かれた書状を両手で恭しく受け取る。


 早馬が駆けつける。


 伝言役の報告を受け、大頭は眉を顰める。


 熊五郎もまた、奥歯を噛み締め、震えた。


 大頭は庭に控える忍び装束へ眼を向ける。


 忍び装束は眼を見開き、頷く。


 覆面を脱いだ男は、指先で顔のつぼを複数押す。


 好々爺の表情を顔に貼り付け、平子芝は屋敷を後にする。



 

 緒方の屋敷。


 赤羽織が書斎から出てくる。


 手に握るのは莫大な、銭。


 ちらりと眼を向けると、書斎の壁にもたれて瞳を伏せる銀柳眞。


 扉の奥では、異国の文字で綴られた書類や経文を並べる机の前で男は両腕を広げる。


 眼の前に置かれた透明な容器。


 液体に浮かぶ緋色の眼を前に、緒方興成は恍惚とした表情を浮かべる。


 そして窓から外を眺める。


 視線の先には、朝霧と歩く玉琴の姿。



 

 藤原氏北家の分家、定道の屋敷。


 須王は弓を引く。


 茜羽の矢が、その前に刺さっていた茜羽の矢を裂きながら的の中央へと突き刺さる。


 その背を早馬が掛けていく。


 定道は封筒を受け取る。


 乙号処分場報告書。


 白法衣の男が口角を上げる。


 呪印で封された鞘の刀を手に虚空へと消えた。


 見上げる須王は殲樹莫を睨みつけ、奥歯を鳴らす。




 そして榊万来は氷の様に冷たい眼を向ける。


 東の柵。


 燃え盛る村。


 逃げ惑う人。


 追う人。


 斬り合う人。


 斃れる人。


 ……その中に、異形。


 榊の奥歯が鳴る。




 "それ"は、刀を振る。


 人は斃れる。


 構えた刀の刀身ごと、人は斃れる。


 鍔も、茎も、刃渡りも。


 "それ"がただ振り回す刃には、なますのように寸断される。


 火の赤、血の赤……。


 柵の中の地獄から目を逸らし、役人が呟いた。




「まるで……鉄まで喰ってるみてえじゃねえか……。」

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