第五章 焼野の月 十五幕
村の中央に籠が置いてあった。
注連縄で塞がれ、余すところ無く呪符が打ち付けられている。
囚人達は取り囲むも、誰も近付こうと思わない。
「おい、何か熱くねえか?」
囚人が口を開くと、他の者も続く。
「焦げ臭えな。」
一人は肩を抱き身をゆする。
「なんかあっちこっち不気味な声が聞こえるんだよな。」
他の者は怯えながら呟く。
「お経……かあ?」
ある者は向かってくる囚人に怒鳴る。
「おいてめえ!何で俺の荷物持ってんだ!」
「ああ?これおめえのかよ。貰っといてやらあ。」
囚人達は当然の如く争い始めるが……。
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
それは風に乗って微かに聞こえた。
囚人達は籠に顔を向ける。
そして青醒め、汗を拭い、生唾を飲み込む。
籠が真二つに裂かれ、中を覗かせていた……。
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
喉が潰れた獣の呼吸音が静寂を支配する。
歩き出せる囚人は一人も居なかった。
籠から這い出て来た"それ"は足だった。
右足、左足と順に地面に着くと仰向けの胴体がぐぐっと起き上がる。
そのまま前屈みにゆらゆらと立つ。
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
俯いたまま一歩ずつ、前進する。
ひらひらと揺れる手が、地面に転がっていた囚人の鞘を拾う。
そのまま一歩、また一歩と近づいていく。
囚人たちに近付いていく。
そして、鞘を握る手が大きく開く。
大きく、大きく開き、反対の肩が地面に着きそうな程に開く。
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
誰もがその手が、鞘が、消えたと錯覚する程に——。
その手が握る鞘は異常な速度で囚人を振り抜いた。
囚人の首から上は何処かへ消え失せる。
残された胴は、刀を落とし、膝を地に付け、やがて斃れた。
ひゅうぅ……。
ひゅうぅ……。
蜈蚣の描かれたずたぼろの羽織。
病的なまでに痩せぎすな体。
その手がゆっくりと刀を拾い、顔が上がる。
首まで全身に彫り刻まれた経文。
白目を剝き出しにした顔は、囚人の血を恍惚と眺めていた。




