第五章 焼野の月 十四幕
高瀬を離れ、幾日。
役人に連れられ、野を歩く一同。
目隠しをされ、縄で縛られた囚人達。
辿り着いたのは、村。
高い柵で囲われたその村の中にほかされた一同は、役人の気配が無い事に気付く。
おそるおそる目隠しを取る囚人。
見渡せば、それはのどかな風景だった。
「外敵に向けたものじゃねえな。」
箒頭は柵を眺めて呟く。
玄之丞は野草を拾い、全身の痣に当てている。
箒頭が苦笑いする。
「おい、これ見て見ろよ。」
囚人が荷物入れを見付ける。
そこには刀や小物入れ等、没収された物が雑に詰めてあった。
しかし。
「おい、俺のが無えぞ。」
「俺のもだ。」
「いや、そもそもこれ誰のだ?」
その荷物に見覚えのある者は一人もいなかった。
囚人達は思い思いに村を探索する。
民家はある。
生活もある。
住民もいる。
活気だけが、見当たらなかった。
朱手拭の男が民家から包帯を借りて歩いて来た。
朱手拭は座る玄之丞に近付き、膝を着く。
玄之丞は腰を回して朱手拭の男の顔面目掛け蹴りを入れる。
よろけた朱手拭に飛びつき、馬乗りになり……。
殴る。
殴る。
……殴る。
やがて玄之丞は眼を見開き、震えた。
朱手拭はふうと息を吐くと鼻血を拭い……。
体を起こして玄之丞の顔面を殴りぬく。
仰け反る玄之丞。
朱手拭の手が玄之丞の襟を掴む。
玄之丞の鷹の様に鋭い眼が朱手拭を睨む。
朱手拭は静かに呟く。
「殺したければ好きにしろ。」
その眼は玄之丞をじっと見詰める。
「先に、治療だ。」
箒頭は肩を竦ませると、そっと近付き玄之丞を羽交い絞めにした。
火を囲み、三人。
誰も口を開く事無く時を過ごす。
ふと、声が聞こえた。
「おい、女だ。女がいるぞ。」
箒頭が振り返る。
朱手拭が顔を上げる。
玄之丞は……走り出していた。
囚人達が女達を取り囲んでいる。
女達の前で手を広げる子供。
その目はきりと囚人達を睨みつける。
女の一人が袖で隠しながら咳をした。
袖はじんわり赤く染まっている。
その袖を眺め、視線を上げると、囚人達が誰かと争っている。
箒頭の男と朱手拭の男、そして鷹の様に鋭い眼をした……。
「玄之丞様……?」
女は呟く。
玄之丞はちらりと眼を向ける。
そして瞳を見開き振り向く。
その眼に飛び込んで来たのは——。
涙ほくろが印象的な、女。
西の門から、東の門から、南の門から役人に連れられて囚人達が入ってくる。
玄之丞は名を呼ぶ。
役人達は姿を隠し、囚人達は村を探索する。
ある者は武器を手に取る。
白妙も名を呼ぶ。
村中で出合い頭に争う声が響き渡る。
村人たちは身を寄せ合い、震える。
玄之丞は駆け出す。
囚人は別の門の前の荷物箱から自分の所有物を見付ける。
咳き込む村人。
白妙は走り出そうとして、よろける。
刃と刃が交わる音がする。
激しく殴り合う音がする。
倒れそうになる白妙を、玄之丞は抱きとめる。
村を囲む役人達の後ろで、手を合わせて何かを唱える術士達。
村に火が掛けられる。
玄之丞と白妙は顔を見合わせ、微笑んだ。




