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第五章 十三幕

 大牢の一角で男が二人、膝を曲げて腰掛ける。


 殺気立った周りの囚人達ですら、二人の近くには寄り付かない。


 一人は全身に入れ墨を入れた箒頭の男。


 もう一人は放り込まれて間もない、鷹の様に鋭い眼の青年。


 箒頭の男はちらりと隣に眼を向ける。

「なあ。」


 玄之丞は牢の外をただ睨みつけている。


「おいって。」

 箒頭は玄之丞に向けた目線を戻す。


 二人はただ座って時を過ごす。


 囚人達に混ざり、二人をずっと眺める男が居た。


 男は額に朱手拭を巻いていた。




 囚人達がざわめき始める。


「なんだとてめえ!」

「何を人様の足踏んでんだこら!」


 殴り合う音が木霊する。


 箒頭は顔を顰め、膝と地面に手を付けると、腰を起こす。


 それを見た囚人たちがどよめく。


 殴り合っていた二人は手を止める。


 箒頭はずかずかと近づき、二人と見合う。


「わ、悪かったよ、もう騒がねえ。」

 囚人が震える喉を開いた。


 箒頭は冷たく見下ろし、二人に頭突きをした。


 一人は膝を付き、一人は蹲る。


 そのまま箒頭は振り返り、座っていた場所に戻る。


 玄之丞は牢の外をずっと睨みつけていた。




 徐に箒頭が口を開く。

「お前さ、殺しでもやった?」


 玄之丞は牢の外を睨んでいる。


 箒頭がちらりと眼を向け、また前を向く。

「でも本当は違う、か。」


 玄之丞の表情が凍り付く。


 箒頭は再び眼を向ける。


 そして両手を後ろ頭に組む。

「わかるよ。」


 玄之丞の視線が少し、下がった。


「見ろよ、ここの奴らは俺に近付いても来ねえ。」

 箒頭も牢の外を眺める。


「お前は潜ってきた修羅場が違う。」


 玄之丞は小さく瞳を閉じ、再び牢の外を睨みつける。


 箒頭の眼は遠くを見詰める。

「いや、違うな。見て来た世界、そのものがだな。」




 付役と鍵役が現れ、囚人達に縄と目隠しがされる。


 一人。


 二人……。


 箒頭も従う。


 玄之丞は……付役の股間を蹴りぬく。


 鍵役を裏拳で壁にめり込ませると、駆け出す。


 しかし。


 その肩を引く男が居た。


 朱手拭の男は瞳を閉じて首を振る。


 玄之丞の拳が朱手拭の米神目掛け振り下ろされる。




 その拳は遮られ、届くことは無かった。


 振り返ると、熊五郎が奥歯を噛み締め立っていた。

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