第五章 焼野の月 十一幕
置屋。
女将は店前を掃く。
振り向くと、鷹の様に鋭い眼をした青年が立っていた。
「あら玄さんいらっしゃい、小夜だね。」
笑いかける女将。
決まり悪そうに眼を逸らす玄之丞。
置屋の勝手口から出てきたのは朝霧。
口に運びかけた煙管を下げ、微笑む。
「小夜……白妙ならまだお稽古中だからあと半刻くらいかな、上がっていきなよ」
玄之丞は静かに頷いた。
軒下に腰掛け、煙管を手に取り見詰める。
上に向け、下に向け、軽く振ってみる。
首を傾げる玄之丞。
「葉を詰めるんですよ。」
後ろから声が聞こえた。
白粉の香りが、隣へと移る。
視線を向けると、白妙が微笑んでいる。
「はじめるんですか?」
玄之丞は眼を細め、白妙に煙管を渡した。
「道雪のだが。」
細く、柔らかい手が煙管をそっと受け取り、丁寧に葉を詰める。
そのまま、顔を上げる白妙。
ゆっくりと、手を伸ばす。
その指先が、玄之丞の顎に触れる。
白妙の細い親指が、少し下がる。
玄之丞の口が、少し開く。
白妙は微笑み、煙管の吸口をゆっくりと、合わせる。
顎から離れた手が、玄之丞の掌を運ぶ。
玄之丞の指先が、ぎこちなく煙管を支える。
白妙も煙管を取り出し、葉を詰める。
袂に手を添え、火種を自分の煙管に重ねる。
上体をわずかに傾け、ふ、ふ、と短く吸う。
そして玄之丞へ顔を寄せる。
雁首をぴたりと触れさせ、微笑む。
玄之丞も倣う。
ふっ、ふっと息を吸い……。
盛大に咳き込んだ。
白妙は口元を隠し笑う。
そんな二人を眺めて、朝霧も笑う。




