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第五章 焼野の月 十幕

 仙蔵は煙管を片手に街を歩く。


 耳を傾けると、屈強な男二人の会話が耳に入る。


「おい、聞いたか?水守宿の商人の話。」

 強面の男は眉を下げている。


「あれだろ、月影が入ったって。」

 鼠顔の男が半目で答える。


「その後だよ。」


「何でえ。」


 強面の男が声を潜める。

「赤羽織が来て皆殺しだとよ。」


 最後の一言に仙蔵は奥歯を噛み締めた。


「まだ小せえのまであんな……」

 強面の男が震えながら話すその奥の花屋の前。


 鷹のような鋭い眼の青年と、涙ほくろの芸者がすれ違い様に会釈する。



 

 氷雨の屋敷でいそいそと薄水色の陣羽織を羽織る。


 そんな玄之丞を眺めながら道雪は口を開く。

「なんか最近、変わったな。」


 腕と胸元を見る玄之丞。

「……傷が増えた。」


 道雪は苦笑いしていた。




 夜道を歩く白妙。


 橋を渡る最中に眼を遣ると、柵に腰掛け、刀を抱き眠る青年。


 白妙はそっと微笑むと、首巻きをその肩に掛けて背を向けた。


 しばし後、上品な香りの煙が風に乗って漂う。




 榊が走る。


 その目線の先には薄水色の陣羽織。


 面を付けたその男を角に追い詰める。


 立ち止まり、悠々と煙管に火を点ける。


 深く煙を吐き出し、眼を向けると、そこには誰もいなかった。


「あかんわ、目え離してもうた。」

 榊は口角を上げる。


 追い付いてきた熊五郎が榊を睨みつける。



 

 狐面を外す玄之丞。


 道雪はにこりと笑いかけ飲みに誘う。

「久々に、いいもん食い行くか。」


 首巻きを手に取り、玄之丞は首を振る。

「悪い、今日こそ返さねえと。」


 道雪は口角を上げる。

「お熱いねえ、お二人さん。」


 玄之丞は眼を細めた。

「そんなんじゃねえ。」




 朝霧が料亭から出てくる。


 ちょうど向かいから歩いてくるのは白妙。

「あら、今から?」


 微笑み返す白妙。

「ええ、姉さんもお疲れ様です。」


 朝霧は煙管を口に運んだ。


 白妙が火を寄せる。


「白妙……最近また綺麗になったね。」

 微笑む朝霧。


 白妙が口元を袖で隠す。


 ほんの一瞬。


 何事もなかったように微笑んだ。


 そして胸に手を当てて俯いた。




 月夜の下、狐面と熊五郎は、刃を交える。


 その後ろを翁面が走り去る。


 提灯が追う。



 

 橋を歩く涙ほくろの芸者。


 目を向けると、鷹の様に鋭い眼をした青年が立っていた。


 青年はそっと、首巻を差し出す。


 手を差し出す芸者。


「玄之丞だ……。」


 名乗られ、くすりと笑う。


 玄之丞は首を傾げると、眉を寄せた。

「……道雪か。あの野郎。」


 首巻を受け取る芸者と、微かに手が触れた。


 見ると芸者は微笑んだ。


「小夜……と呼んでください。」


 目元の涙ほくろが……白妙の最初の印象、だった。




 置屋の女将が一間置いて芸者たちに伝える。

「新しい子が入ったからね。」


 朝霧は煙を吐き出すと、口を開いた。

「じゃあ白妙、時雨。玉琴を見てあげてくれる?」


 白妙は微笑む。


 時雨も頷く。


 それからわずか数日。


 玉琴の放つ傾国の美貌は街中を魅了した。

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