第五章 焼野の月 四幕
玄之丞と父、無月は高瀬の街を訪れた。
無月の周りに人が集まってくる。
傘屋の主人は言う。
「先日は荷物を取り返して頂きありがとう御座いました。」
花屋の看板娘が走ってくる。
「あの辻でまた赤羽織を見ました。」
置屋の女将がおにぎりを差し出す。
「娘達が無事で帰ってきたよ、ありがとう。」
玄之丞は無月の背中を見詰めていた。
不意に無月が振り向く。
「んー?どうしたどうした?」
顔を近付け、徐に玄之丞を肩に乗せる。
「おい!やめろって!」
呉服屋の店主が肩を叩く。
「おいおい、旦那。こんなめんこいの何処で攫って来た?」
「ははは、人聞き悪いこと言うない親父さん。」
暴れる玄之丞が大人しくなるころ、無月は呟いた。
「……俺が救われてんのよ。」
呉服屋の店主は微笑んだ。
「……忘れられそうかい、旦那。」
無月も微笑む。
「忘れるってのが必ずしも良いことって訳でもねえさ。」
高瀬の一角、氷雨家。
玄之丞は無月の肩から飛び降りる。
「おっとっと。ん?」
玄之丞を見て、そのまま庭で遊ぶ二人の子供に眼をやる。
頬を上げると、玄之丞の背中をばんと叩いた。
「行ってこい。」
軽くよろけた玄之丞は無月へと振り返る。
「俺はここの父君に用があるから。」
無月は片目をつむって玄之丞を送り出すと、屋敷の中へと向かっていった。
二人の子供の前に立つ玄之丞。
一人は緋色の瞳の子供。
「何だお前、置いてかれたのか?」
もう一人は小熊のように大きな子供。
「今から天狗をからかいに行くけどお前も来るか?」
玄之丞は静かに頷いた。
緋色の瞳の子供が手に持った葉を差し出す。
「いろいろ試したらこれ、甘いんだ。齧りながら行こうぜ。」
一瞬胸がちくりとするのを感じた。
その日も無月は、飯を掻き込む玄之丞を眺める。
元気良く器を置くと、玄之丞は顔の前で手を合わせる。
「ごちそうさま!」
その挨拶に笑顔で返す。
「おう、行ってこい。」
玄之丞も笑顔を返す。
「今日は河童捕まえに行ってくる!」
元気良く開かれた先に眼を向けると、子供が二人、迎えに来ていた。
「そうかそうか、俺はちょっと腹痛えから気を付けてな。」
ぐるぐる鳴く腹を抑えて少し大きめに。
「こないだみてえに緒方の屋敷入るなよ!」
無月は厠へ駆け込んだ。




