第五章 焼野の月 一幕
村を襲った山賊に攫われた幼子は、少年へ。
彼は薪を割り続けた。
薪が無くなれば木に斧を叩き込み、運び、また割った。
お互いに故郷も知らない子供達は自分より弱いと思った。
だから、人一倍割った。
その子達がまた折檻されないように。
静かにしろと怒鳴られるから、夜は木の棒を振った。
剣術、そんな言葉も知らないままに。
無心で振り続けた。
いつからか、山賊の「仕事」も手伝いに行かされた。
食料を運ぶ。
金目の物を運ぶ。
歩けない女を運ぶ。
子供を乗せた車を運ぶ。
大人達の為の炊事をさせられた時ふと、脳裏をよぎった。
この鍋に——。
「やめとけよ。」
声を掛けて来たそいつは、少し年上の新之丞だった。
「その草の毒はたいして効かない。」
まっすぐと見つめる目は少し、呆れていた。
少年が右手に持っていた草を取り上げると、竈へ放り込む。
「ちょっと腹が痛くなるけど、そんな量じゃ大人には効かない。」
言いながら新之丞は、その草を隠すように、竈の薪を入れ替えた。
火にくべられた毒草は青臭い匂いと共に一瞬、吐き気を催すような異臭を放ち、燃えた。
「物知りなんだな。」
新之丞は少年の左手から杓子を受け取ると、鍋をかき回すのを再開した。
「もう試したんだよ。」
「え?」
言いながら、鍋を見つめる新之丞。
「力じゃ勝てない。草や虫と一緒に、それも試した。」
少年は自分の手の豆を見つめた。
そうか、だから新之丞も従っていたんだ。
素振りをする傍ら、目についた草は口に放り込んでみた。
焼けるような喉の痛みを起こす草や実も、火を通してしまうとそのほとんどが毒じゃなくなる。
だから厳選した。
そのつもりだった。
「悔しい……。」
「ああ。」
それは、どちらが言い出したのか。
「強くなるぞ。今よりもっと力を付けて、あいつらを殺して自由になるんだ。」
双方の視線が重なる。
二つの影は、小さく頷いた。
その洞穴へは、数日の内で半刻程通った。そこにも子供が居たからだ。
山賊達は気付いていない。
その子供は、気を抜くと見失いそうになるくらい、影が薄い奴だ。
だから、ずっと前に山賊がこの洞窟を調べた時にも、見つからなかったのだろう。
口数が少ないが、色んな事を知っていて教えてくれる。
話を聞くのも上手だった。
何よりも、その子供の笑った顔が好きだった。
一つしかない大きな目を歪ませながら、目尻に涙を溜めて笑う顔が。
その子供は皆が洞窟に来るだけで嬉しそうに笑った。
味噌が好きな奴だった。
たまに胡瓜と味噌を持って行ってやると小躍りしていた。
そして、その日はやってきた。




