第四章 十三幕
太刀を振るい、回り、構える。
矢を捌き、刀を捌き、攻めに転じ、引き、また攻める。
防の先に攻、攻めの内に防。
時に後の先を取り、休む間もなく先の先で捲り、刃を重ね、捌き、振るう。
玄之丞の肩が荒く上下する。
椿の膝が地に付く。
榊の目が霞む。
須王の両腕が震える。
戦いの最中、思わず見惚れる程、美しく舞う化け物。
だが時は掛けられない。
姫も家臣も胸に手を当て呼吸を荒げている。
城の下では藤原の兵が今にも城に踏み込まんとしている。
水際で食い止める暁衆も疲労困憊である。
定道の前に再び玄之丞が立ち上がる。
既に満身創痍な体を無理やり奮い立たせ、二刀を構える。
呼応するように放たれた、須王の渾身の一矢。
定道はこれを捌くも、僅かに刀を下げる。
そこに振り下ろされる玄之丞の打刀。
すでに鍔は無く、それでも定道の赤い太刀を僅かに沈める。
榊はちらり、と椿を見る。
椿は己が居合の刀と別に佩いた、黒の太刀の柄を握る。
何かを言いかけ、榊もまた定道へと切りかかる。
その手には星のような輝きを放つ刀。
玄之丞の打刀を弾き、紫の太刀を振り下ろす定道。
その背後から榊。
紫の太刀を脇差で受ける玄之丞。
そのまま体を回し、榊を吹き飛ばす定道。
その開いた体躯に目掛け、椿の黒太刀が振り上げられる。
定道の赤の太刀が黒太刀と交わる。
刹那。
黒太刀は赤太刀をすり抜け……。
椿の残心。
定道の鉄の様な眼が空を彷徨う。
その胸元から飛び散る飛沫。
椿もまた、血を吐き膝から崩れる。
振り返らんとする定道の喉に突き刺さる脇差が横から縦へ。
定道の両手が太刀を落とす。
脇差を引き抜き玄之丞は歩く。
膝を着いた椿が倒れる間際——。
その襟を玄之丞が引く。
椿は眼を開き、あたりを見渡す。
「あら、お気づきになりましたのね。」
そこは朝霧の膝の上。
野羽織が赤、紫、黒の妖刀をそれぞれ封じ、運んで行く。
「私は……一体。」
椿は自分の胸に手を当てて、無事を確かめる。
「椿さん、黒いの抜きました?」
朝霧の表情は少し硬い。
「……はい、多分……必死で。」
そして思い描く、赤と紫を構える殿上眉。
「え、じゃああの公家絶対おかしい!」
椿は勢いよく体を起こすともう一度周りを見渡す。
「藤原定道は、直正殿……いえ須王殿が引き摺っていきましたわ。」
「え……じゃあ勝ったんだ……。」
その目に映ったのは姫……が飛び込んで来る姿。
「うわ、ちょっと姫様、まだ全身痛い!」
「すまぬのう!ありがとうのう!」
姫は何度も礼を呟き、椿の胸で泣きじゃくり、やがて寝た。
朝霧が悪戯に微笑む。
「こうなる前に、お二人は逃げて行きましたわ。」
そして静かに煙管に火を入れる。
椿はじっとその横顔を見詰めていた。
「そうか……。」
そして朝霧の顔をしっかと覗き込んだ。
「じゃあ、早速……。」
朝霧は煙を吐き出し、そそくさと。
だが椿の手が裾を掴む方が早かった。




