↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/84

第四章 十二幕

 最初に見えたのは、女の様な白く細い手だった。


 だがよく見ると筋張ったその指先には、木屑やら白漆喰やらが残っていた。


 その指が触れている縁は異様にへこみ、みりみりと悲鳴をあげている。


 そして肩。


 続いて膝。


 玄之丞は二刀を抜き走り出す。


 腰から胴が見え、筋張った首筋が頭を連れてくる。


 その白塗りの顔が覗いた瞬間、玄之丞の横を打根が通り過ぎる。


 玄之丞は打刀を振り下ろす。

「……!」


 金属音。


 その場に居た者は皆凍り付いた。


 その殿上眉は、紅を引いた口に咥えた打根で玄之丞の振り下ろしを防いでいた。


 玄之丞は咄嗟に跳ねる。


 定道は縁をもぎ取り横薙ぎに振っていた。


 定道の鉄の様な眼が真っ直ぐ玄之丞を見詰める。


 そして。


 ひゅうと咥えた打根を吹き出すと、金属音と共に玄之丞が空で一回転。


 地に降り立つ玄之丞。


 その足元に、打刀の鍔がことんと落ちた。


「其首。」

 定道は顔、肩、胸と玄之丞に向き合い、呟く。

「愉快。」

 

「兄者!この場を納めては貰えませぬか!」

 須王は前に躍り出る。


 定道は瞳すら動かさず、ゆっくり前へと進む。


 玄之丞は構える。


 ——毒草を、竈に投げた子供。

 ——一つ目の、子供。

 ——木の陰から覗いて見た、二刀を振る公家の子供。


 玄之丞は眼を細め、重心を下げ……。




 玄之丞は再び空中に居た。


 目の前を無数の畳が浮かんでいる。


 そしてその畳を突き破り迫る定道。


 定道は空中で体をひねり、袖で玄之丞を打ち落とす。


 どう、と玄之丞が地面に叩き付けられるのと同時に、無数の打根が定道に投げ込まれる。


 定道は浮かぶ畳を振り回しこれを回避するも、その畳もろとも茜羽の矢が貫いて迫る。


「なんだとっ!?」

 椿が声を荒げる。


 地面に降り立った定道は、左の手の甲を貫通した矢を握り潰した。


 その定道の周囲を地に落ちた打根が飛び回り、定道の衣服が締められる。


 椿はその軌道を眼で追う。

「例の糸か!」


「やかまし!」

 榊は掌を閉じて引く。


 定道をきつくきつく締め上げる。


 定道は掌でその糸をまとめて握ると、徐に引きちぎった。


 榊の口角が苦く上がる。

「手えずたずたんなるで!」


 榊は刀の柄に手を掛け、一息に抜く。


 刀身が陽の光を返し、星のような輝きを放つ。


 椿は榊の刀に眼を向ける。

「おい!その刀はまさか……。」


「後にせえ!」

 榊は息を吸い込み一瞬で間合いを詰める。


 定道の背後で、地面を蹴った玄之丞が立ち上がり、榊と玄之丞の刀が振り下ろされる。




 激しい金属音が鳴り響く。


 榊の刃を受ける赤い刀身の太刀。


 玄之丞の刃を受ける紫の刀身の太刀。


 そのどちらもが、悍ましい妖気を立ち込めさせながら定道の手に握られていた。



 

 椿は両手の塞がる定道の喉元目掛け、抜き打ちの一閃。


 しかし、定道は足元を踏み抜き、椿へと蹴とばす。


 同時に刀毎その場で回り、玄之丞と榊を跳ね飛ばす。


「あかんわ、あの二本は別物や。」


 玄之丞も定道の刀を見る。


 須王は矢を番える。

「兄の刀に触れてはなりません。」


 三本を同時に打ち込むも定道は刀で捌く。


「斬った相手の魂まで貪る太刀と……抜くだけで周囲の精気を吸う太刀……やったか。」


 須王は頷く。


 榊は定道を見詰める。その頬を汗が伝う。

「あんなえげつない色の太刀、よお二振りも持ちよるわ。」




 定道は二刀を振る。


 縦に横に、上から、下から。


 榊へ、玄之丞へ、椿へ。


 その太刀筋はあまりにも美しく。




 まるで舞そのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。