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第四章 十幕

 天守閣から見下ろす姫は、思わず息を吐いた。

「あの者共、すごい練度じゃ。」


 家臣も息を飲む。

「初めはぞっとしましたが……。今だけでも我らに手を貸してくれるのはありがたい。」


 眼下では数で劣る野羽織の集団が藤原の兵に食い下がっていた。


 城の兵も加わり、戦況は一方的ではなくなり、押されているに留まる。


「しかし、あそこで茫然と立つ者……あれの存在感だけ異常じゃ。」

 姫はそこで背筋を冷やし、あとずさりした。


「姫!お気を確かに!どうなさいました!」

 家臣が同じく下を覗く。


「ひいっ!」


 一切の頭髪も無く、白塗りに殿上眉を引いた顔にただ、ある、鉄のような眼がまっすぐこちらを向いている。


 その紅を引いた口は微笑みも噛み締めもしない。


 それどころか、顔も肩も何も動かずに、走り出す。


 門の兵は刀を振り下ろす。


 門の内側から矢が放たれる。


 藤原定道は真っ直ぐ走り、跳ぶ。


 虎口へ飛びつき、みりみりと握り腕の力だけで登ってゆく。




 兵は門をよじのぼる定道へ向け矢を放つ。


 定道は意にも介さず上へと進む。


 足も腰もピンと張られて垂れ下がる。


 肩から腕だけが絡繰りのように交互に上へと伸びる。


 その握られた箇所だけが窪んで異様な跡が残る。




 やがて門の上に立ち上がった定道は、足元に手を突き立てると捲った。


 音を立てて門が形を変える。


 瓦が下に落ち、支柱が姿を現す。


 定道は抜き取った支柱を城に向け、投げる。


 石垣に突き刺さった支柱に飛び移ると、再び指を城の壁面に突き刺しては登っていく。




「何なんだあれは、どうしろっていうんだ!?」

 椿は榊の羽織を握り揺さぶる。


 榊はちらりと須王を見る。


 須王は小さく咳ばらいをし、椿に向き合う。


 椿はその真剣な眼差しを見詰める。


「兄です。」


「そんなこと聞いていない!」


 その隙に榊は玄之丞の隣に並ぶ。


 玄之丞の眼が榊に向く。


「感動の再会やな。」

 玄之丞は煙を吐き出し、呟く。


「……ああ。」


 榊は懐から先程の玉をそっと取り出す。


 緋色の瞳の眼球を。

「これ終わたら、話あるで。」


 玄之丞は頷くと歩を進める。




 天守閣の中では姫も家臣もがたがたと震えている。


「じい、妾はどうしたら……どうしたら良い?」


 家臣達は恐る恐る下を眺める。


 城壁の小窓から弓兵が登ってくる異物を狙う。


 定道は視線も動かさずにゆっくりと登り続ける。




「榊様、こちらから。」

 灰色の野羽織が隠し通路を案内する。


 榊は椿から黒太刀を取り上げると野羽織に渡す。


「おい!」

 椿が取り返そうと手を広げる。


 榊はため息を付くと、椿に向き合う。

「お前、あんなん振り回しとったら死ぬで。」


「何だと?」

 椿は一瞬身構える。


 その背中に朝霧が手を付き、耳元で囁く。

「妖刀ですわよ。沢山血を吸って、刀身が真っ黒に染まった……。」


 椿は野羽織から黒太刀を奪い返して腰に履く。

「面白いじゃないか。向こうは化け物、ならこちらは妖の刀という事だ。」


 榊は頭を掻きながら呟く。

「……好きにせえ。」


 そして、榊は須王に向き直る。

「せやった、伝右衛門のど頭ぶち抜いたんお前やんな?」


 須王も向き直る。

「あの籠か。ああ、私だ。……友人だったか?」


 榊の口角が上がる。

「……友人?ちゃうで。」


 榊は掌の裏で軽く須王を叩く。

「悪うい悪党が一人、闇に消えた……そんだけや。」


 須王は俯き、口を開く。

「……すまない。」


 榊は肩を竦める。

「ちゃうやんけ。真面目か。」

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