第四章 六幕
天守閣。
姫は眼下に広がる藤原の兵を眺めていた。
手を右に開き声を張る。
「櫓を……。」
「下げております。」
振り返ると、臣下が真っ直ぐな瞳を向けている。
姫は微笑み、頷く。
城門前の兵たちは抜刀せずに喉を鳴らす。
その裏で城代は兵達に言い付ける。
「良いか、様子を見よ。仕掛けてはならぬ。」
そして息を大きく吸い、深く吐く。
弓兵に眼を向ける。
彼らはきちんと身を隠している。
そして城門内の兵たちに告げる。
「だが貴奴らの兵が踏み込んで来るならば、その時は……。」
城代は胸の前で少し抜き、静かに鞘に納める。
兵たちは頷く。
何かに背をもたれる様に立つ白の法衣が口角を上げる。
定道は鉄の様な眼をまっすぐに、その前を進む。
しゃりんと音が鳴り、法衣の男は消える。
具足の兵たちが道を開け、跪く。
その割れた道をゆっくりと、深紫の束帯が歩を進める。
その後ろを、弓を背負った須王が歩く。
玄之丞達は城下に入る。
人々の顔の向く先……城からは張りつめた空気が流れてくる。
玄之丞は椿に眼を向ける。
椿は頷き、朝霧を見る。
朝霧も頷き、二人を見送る。
歩み出す二人。
その後ろで、しゃりんと鈴の音が鳴った……。
烏鳴、梅屋。
まつりは玄之丞の寝床を片していると、ぽろりと煙管が転がり落ちる。
「んー?おっさんこんな綺麗な煙管持ってたっけ?」
その手の中で赤銅の煙管が陽の光を静かに返していた。
まつりはそっと外に眼を向ける。
「……大事な物だね、さては。」
夕烏の前を通りかかった銀二は眼を細める。
人だかりの奥には岡っ引きが五人。
雷が光る。
遅れてごろごろと音が鳴る。
大粒の水跡が一つ、二つ。
やがて振り出した空に傘が開く。
硝之介が隣に立っていた。
二人は唇を噛み締め、ただ凄惨な現場を眺めていた。
朝霧の瞳が見開く。
椿が鍔に指を掛け振り返る。
玄之丞は打刀を振りかぶる。
法衣の男の口角が上がる。
そして、二畝程の範囲の人間が、蒸発した。




