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第四章 五幕

 城を眺める小高い丘の上。


 かつて賊徒の根城があったその場所に、御小休所を張る軍勢。


 日暮らしの声が遠く響く。


 兵達は遠巻きに騎馬を見付け、陣幕を開く。


 茜羽の矢を背負う騎馬が、その割れた間を抜けていく。


 下り藤の家紋が眩い陣幕の表で具足の男が声を張る。

「定道様、須王様が御着きになられました。」


 殿上眉の男は、鉄の様な眼を動かしもせず、呟く。

「通せ。」


 具足の男は騎馬を震えながら眺める。


 茜羽の矢の男は下馬すると、拳をわなわなと硬く握りながら口を開く。

「聴こえなかったのか?開けよ。」


 具足の男は陣幕を開く。


 須王は大股に歩を進める。


 そして眼の前に立つと、歯を噛み締めながら声を荒げる。

「……此度は、何の冗談ですか?」


 藤原定道は立ち上がり、ゆっくりと水平に、須王へと顔を向ける。


「何故兵が動いておるのですか!」


 定道はその白塗りの顔を傾げ、紅を引いた唇を動かす。

「何か。」


 須王の奥歯がぎりと鳴る。

「あのお家は既に城主不在ではない!お取り潰しに遭う謂れは無い筈です!」


 定道の首が真っ直ぐに戻る。

「ほんの。」


 顔に合わせ肩が、腰が、足が須王と向き合う。

「戯れじゃ。」


 その言葉を受けた須王の眼は、定道の刀床へと向けられる。


 二つの太刀が、並べて寝かせられている。


 兵たちはその刀に眼を向けぬよう俯く。


 須王の睨みつける先で二刀がかたかたと……揺れた。




「玄之丞、どうしたんだ急に!」

 椿は玄之丞に肩を並べ、走る。


 玄之丞の肩に担がれた朝霧は椿に眼を向ける。

「恐らく……先程抜けた騎馬でしょうか。」


 椿も朝霧に顔を向ける。

「騎馬……?」


 左手の指が鍔に掛かる。

「お前、何者なんだ?」


 玄之丞の眼がちらりと椿を見る。


 椿は鍔から手を放す。

「……全て説明してもらうからな。」


 朝霧は瞳を閉じ、頷く。

「ええ、質問にはお答えするわ。」


 そして玄之丞の大小に眼を向ける。


「識っていることは……ね。」


 その呟きに椿は眼を細めた。




 定道の陣幕を後にした須王。


 足音は一つ。


 気付けば二人で歩を進めていた。

「……貴方の差し金ですか?」


 脚一つ動かさず須王と並ぶ男は口元を歪め、開く。

「否。」


 須王は眼を細める。


「かの者の徒然なる遊びごとに、よもや衣の袖を振ることなどあらぬ。」


 須王の拳がわなわなと震える。


「されど倦ませぬ……。お前も興に狂い、悦び蠢くが良い。」

 しゃりんと鈴の音が鳴り、白の法衣は姿を消した。


 須王は足を止める。


「殲樹莫……あれですら愉悦であったと!?」


 その眼は天を睨みつけていた。




 そしてもう一つ。


 城に向け夜通し走る野羽織の集団が、水守宿から目撃されていた……。

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