第四章 四幕
朝餉の味噌汁が香り良くよそわれる。
漬物をおかずに、麦飯を箸で挟む。
背筋良く口元に運ぶ朝霧は、他の客の目線も気にせず淡々と食事を進める。
その向かいで、玄之丞は盃を口に運ぶ。
他の客の目線を気にせず、漬物を肴に酒を煽る。
盃を置き、視線を外に向けると、岡っ引き達が走っていく。
朝霧の隣で箸を片手に固まる椿の眼の下にはうっすらと隈が出来ていた。
水守宿の外では人だかりが出来ていた。
野次馬を掻き分け、岡っ引きが籠に近付く。
籠の中を検分していた仙蔵が振り返る。
「すいません親分。高瀬からお疲れでしょうに。」
「構いやしやせんよ。」
仙蔵の煙管に岡っ引きは火を寄せる。
「あっちの現場は凄まじかったと聞いてます。」
仙蔵は煙を吐き出す。
「ええ。あいつのヤマはいつまで経っても気持ちのいいもんじゃありやせん。」
正太郎は、口を膨らませて人混みへ消えて行く。
岡っ引きも自分の煙管に火を入れる。
「こっちの仏は矢で一発ですかい。」
その目は籠に向いている。
「随分と……あっけない最後ですわ。」
その人だかりを尻目に、早馬が高瀬に向かい、走って行った。
城の裏手で姫は、板塔婆に手を合わせる。
そして顔を上げると、胸元に手を差し、悪戯に微笑む。
「ふふ……やっとでした。」
その手に握られる、黒柿色の羅宇煙管。
姫はぎこちなく、葉を詰め、おそるおそる火を点ける。
上品で甘い香りが立ち込める。
「けほっ、けほっ……。」
姫は舌を出し、顔を歪ませる。
「苦あい……。」
目尻に涙を浮かべながら、姫は顎を引く。
「妾にも、宝が見つかりました。」
姫は空を見上げ、城を見回す。
「この……城です。」
より遠くへと瞳を向ける。
「そして、民……いえ、人々です。」
ゆっくりと俯くと、小さく呟く。
「……妾は……励みます。」
再び笑顔を向ける。
「……上手く、ね?……父上。」
再び葉を詰めかけたところに、老中が駆け寄る。
その顔に姫は煙管をしまう。
「何事です。」
老中は一度目線を外し、口元を整える。
「西の方より、大軍が進発、あと二日で我が領内へ入る構え。大軍を率いての物々しい進軍なれど、その真意はいまだ霧の内にございます。いずれにせよ、一刻の猶予もございませぬ……。」
老中は口籠る。
姫は毅然とした表情で促す。
「構わぬ、続けよ。誰が来た?」
その報告に青ざめる。
「率いるは、あの藤原定道殿にございます!」
早馬は高瀬に着く。
熊五郎は眼を細める。
水守宿では、玄之丞達が城を目指し歩き出す。
そして同じ頃、烏鳴。
酒場、夕烏。
女将は長板の上を拭く。
ふと、視線を向けると、まだ内に掛けたままの暖簾を潜り、男が立っている。
「ごめんなさいね、まだ準備中なんですよ。」
女将は再び手元に目線を戻す。
ちゃきっと掠れた金属音が響く。
女将は眉間に皺を寄せ、炊事場の包丁に手を伸ばす。
「何の冗談だい?うちの店で長い物はご法度さね。」
振り返った女将の瞳に映るは……赤羽織。




