第四章 一幕
炎に飲まれる山中を、賊は走る。
右に左にと視線を動かしながら、汗を拭うのも忘れ、ひた走る。
納屋の前に立ち、戸を開く。
握りしめた袋に、金目の物をひたすらに放り込み肩に担ぐ。
振り返ってまた走り出そうとする眉間の中心を、一本の茜羽の矢が通り抜けた。
後頭部から吹き出させ、賊は仰向けに倒れる。
木々の合間を抜けた、その三十間程先で、騎馬の男が弓を下げた。
弓の男が振り返る。
その視線の先では、賊と子供が切り結んでいた。
歯を食いしばり、眉間に皺を寄せ、真新しい甲冑を着込んだ男子は正しく賊の刀を捌く。
周囲には斃れた者、座らされる者、立たされる者。
その外側を、具足の男達が囲む。
しばし、その様を見守り、一人が前に出る。
具足の男達が跪いて道を譲る。
深紫の束帯に冠を戴き、笏を持ったその男は静かに口を開く。
「手緩い。」
無機質な呟き。
具足の男達は皆、背筋を震わせる。
「……直ちに。」
立たされた賊達の拘束が解かれ、刀が渡される。
賊は震えながら、束帯の顔に眼を向ける。
そこには眉も髪も無く、殿上眉を引いた白塗りの顔に、無機質な鉄のような眼が、ただあった。
紅を引いた唇が動く。
「早う。」
夏の日差しが照り付ける高瀬。
正太郎は商人の店の前で壁に手を付けて吐いている。
「すいやせんね、助っ人頼んでおいてこんな現場で。」
高瀬の岡っ引きは頭を掻く。
仙蔵は煙管を口に運ぶ。
「いや、うちの新米にもそろそろこういう現場は見せときたかったんで。」
岡っ引きは眼を細める。
そして現場を再び見渡す。
「十年……近く立ちますか。」
「ですね……。」
岡っ引きは仙蔵を見詰める。
「じゃあやはり、親分の見立てでも。」
仙蔵の口から、煙と共に言葉が漏れる。
「間違いねえでしょう。奪屋ですわ。」
仙蔵は暖簾の外へと目を向ける。
岡っ引きも続けて外を見る。
喉の鳴る音だけが静かに響く。
岡っ引きは口を開いた。
「赤羽織が、帰って来やがった。」
仙蔵は灰を落とす。
「天海……夢千代……。」
同心が岡っ引きに指示を出し、骨と死体を片付けさせる。
岡っ引きに縄を掛けられた男が引き摺られている。
その男はぶつぶつと呟いている。
「美しい……嗚呼、素晴らしい……。」
小人目付は書簡を抱えて目付支配に近付く。
熊五郎は男を見下ろしていた。
痩せた体に刻まれた袈裟懸けと横一文字の十字傷。
手には何かを握っていた形。
熊五郎の眉間に皺が寄る。
膝を付き、その顔に触れる。
瞼を開くと、そこには窪みだけがあった。
しゃりん、と鈴の音が鳴った……。
そして烏鳴。
三吉とまつりは木を削る。
椿は二人に微笑みかけて、玄之丞へ眼を向ける。
玄之丞は屈んで煙管をくゆらせる。
その視線の先では、河童が胡瓜を齧っていた。
銀二が笊を持ってきて玄之丞の脇へ置く。
玄之丞は笊から胡瓜を手に取り、河童を見詰める。
「おい。」
河童は顔を上げる。
「……おかわりは?」
三吉とまつりの手から竹蜻蛉が飛び立つ。




