第三章 六幕
空が淀む。
お玉は瞳の奥で呪符から浮き出る文字——奉 緒方興成 急急使役——を見ていた。
「……!」
武装した商人の合間を抜けて、刀や弓を持った骸骨が駆け出す。
商人に振り下ろした玄之丞の打刀を弾く。
硝之介を取り囲む。
新兵衛の前に立ち塞がる。
空を見上げれば髑髏が積み重なり、巨大な妖へと姿を変える。
「お玉さん、俺の後ろに。」
新兵衛は骸骨へ刀を振り下ろす。
刃は鎖骨に食い込み勢いを止める。
別の骸骨が刀を振り下ろす。
それを辛うじて避けるが飛んできた矢が足を貫く。
玄之丞は二人に眼をやり、眼の前の商人を斬ると駆け出した。
そこへ骸骨達が躍り出る。
一の太刀で肋骨ごと頚椎を砕き、二の太刀で別の胸骨を粉砕する。
玄之丞の二刀は振るたびに骸骨を撫で切りにしていく。
槍が骨の隙間を縫って迫る。
刀が屍を越えて振り下ろされる。
矢がとめどなく撃ち込まれる。
それらを捌き、躱し、時には諸共粉砕し、玄之丞は進む。
そこに向かって、巨大な妖は巨大な刀を振り下ろす。
玄之丞は二刀で受ける。
足が沈む。
周りの骸骨が刃を突き立てる。
玄之丞は重心を逸らして受けた二刀で巨大な刃を滑らせる。
そして迫りくる骸骨を再び斬る。
硝之介は距離を開け、二体、三体とまとめて吹き飛ばす。
だが背後からも骸骨。
体を向き直し火筒を投げる。
刃が太腿を、肩を、脇腹を掠めていく。
近付いた刃を小太刀で受け流すも、降り注ぐ矢は凌ぎ切れない。
火筒を投げて新兵衛に迫る骸骨を吹き飛ばす。
振り返ると刃が迫る。
それを玄之丞が投げた骸骨の刀が弾く。
体勢を整え跳ぶ。
再び火筒を投げ込み吹き飛ばす。
……だが。
「……数が足りんか。」
硝之介の歯がぎりりと鳴く。
傷ついた新兵衛にお玉は近付く。
「新兵衛さん、新兵衛さん。しゃんとして。」
新兵衛は痛みに顔を顰めながら、お玉に微笑む。
「貴女が無事なら……僕は大丈夫だから……先に。」
新兵衛の指差す方向は、確かに包囲が手薄だった。
お玉は首を振ると、屈んで新兵衛に顔を寄せる。
新兵衛の視線が、お玉の手へ落ちる。
その指先は、僅かに震えていた。
「本当はもう、せんって決めとったっちゃけど。一回だけ許して?」
新兵衛は目を見開き、手を伸ばす。
「駄目だ……お玉さん。もう手を汚しちゃ……心を傷つけちゃ……。」
お玉はその手を握り、頬に当てて瞳を閉じる。
そして。
ゆっくりと立ち上がり、妖を見詰め……。
一度だけ、振り返った。
「……好いとおよ。」
玄之丞が目を細める。
胸元の勾玉が鈍く光る。
硝之介が頷く。
新兵衛もまた瞳を閉じる。
「ああ……僕もだ……。」
空が黒く、赤く、歪む。
「許さんけん。お前ら、ちかっぱ絶対許さんけんね。」
大気が重く重く圧し掛かる。
「ウチの大事な人ば傷つけた。」
武装した商人たちの全身を悪寒が走る。
「ウチの好きな街ば壊した。」
呪符を持った商人達が滝のように汗を流す。
「ウチと新兵衛の邪魔ばした!」
周りの気配に不釣り合いな程、眩く美しい光の筋がお玉を包み……。
光の柱が消えた中に居た、獣の妖。
その姿はまるで……。




