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第三章 三幕

 昼間の喧騒がまるで嘘のように鎮まる、水守宿。


 街を出歩く人々は皆、眼を逸らす。


 男は腕を組み、顎に親指を当てつつ、不敵な笑みで行先を眺める。


 それはゆっくりと現れた。


 月明かりを浴び、銀に輝く白髪を束ねた男。

 鷹のような鋭い眼を男に向け、鍔に指を掛ける。


「ふふん、光栄だ……。」

 男もまた柄に手を掛け、重心を落とす。


 玄之丞はゆっくりと歩を進め、口を開く。

「……抜け。」


 男も応える。

「……いざ。」


 男は抜いた刀を、半身に構えた胸元で立てる。


 玄之丞の一歩が、三尺の線を越える——。


 男の袈裟懸けが玄之丞の首元目掛け、まっすぐ振り下ろされ……。

 刃を重ねる間もなく、二人はすれ違う。


 一歩。

 二歩。

 三歩。


 玄之丞は振り返ることなく、刀の血を振り落とす。

 そして鞘に峰を滑らせ、ゆっくりと納めた。


 男はそのまま、逆袈裟に斬り上げられ、倒れた。


 立ち止まることなく、玄之丞は闇に消える。




 同じ頃、水守宿の個室料亭。


 部屋の明かりに映る二つの陰が揺らめく。


「ほな、その高瀬の商人が犬っちゅうこんかい。」

 男は頭を抑える。


「ええ、その様です。」

 もう一人の男は扇子を仰ぐ。


「ほな、ちいと"きつく"ご挨拶しとかなあかんか。」

 男の口元が上がる。


 扇子の男は一度畳み、口元に当てる。

「それは……必要ないでしょう。」


 男が盃を口元に運び、ふと止まる。

「……来とるんか。」


 扇子の男は再び開き、仰ぐと、ゆっくり頷いた。


 男は盃を煽り、置く。

「……動いてまうで。」


 扇子の男も盃を口元に運ぶ。

「……ええ。血も、銭も、何もかも……。」


 そして盃をそっと置くと、扇子を障子に向ける。


「!」


 中庭に伏していた別の男は駆け出す。

 そこを目掛け矢が飛び、護衛が駆けつける。


 男は石垣を越え、額に巻かれた、朱手拭をたなびかせながら去っていった。


「……逃げられましたか。」

 扇子の男は兵を下げる。


「どっから聞かれてもうたかな……。」

 男は氷のように冷たい眼のまま、口角を上げた。




 烏鳴。


 梅屋の暖簾をじっと眺める男が居た。


 大鍔の打刀と長脇差を差し、無邪気な子供のように顔に皺を寄せ、背を向ける。


 そして大股に歩き出す……赤羽織。

 

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